124話 隠された秘密の扉
A級ダンジョン最下層のボス部屋で、俺たちは、迷宮主――古代竜アルタインを倒した。
「にゃ~! 凄いドロップアイテムにゃ~」
「たくさんあるのじゃ~」
アルタインは今までの迷宮主や階層主とは違って、数種類の通常アイテムやレアアイテムをドロップした。
さすが、A級ダンジョンの迷宮主にして固有種だ。
床に、たくさんのアイテムが散らばっている。光輝くアルタインの大きな魔石もある。
俺は、とりあえず、一旦すべて空間魔法を使い収納する。
「あっ、魔法陣が現れたよ!」
後ろを振り向くと、俺たちが入って来たボス部屋の扉近くの床に、帰還用の魔法陣が見える。
しかし、一番気になるのは、"祭壇"だ。
俺は、扉とは反対側、ボス部屋の正面奥に見える祭壇の方に視線を移す。
その祭壇の高さは俺の胸のあたりくらい。硬い石のようなもので出来ており、かなり古い物のように見える。装飾は質素な感じだ。
俺たちはその祭壇に近づく。
「トール、これがダリアさんの夢に出てきた祭壇なの?」
「すごく古い祭壇なのじゃー」
「そう、エミリー。おそらく間違いないと思う」
「お、お兄ちゃん、"タリスマン"を捧げるんだよね?」
リンが少し震えるような声で言う。その声には期待と興奮が感じられる。
「おう、ダリアさんの夢に現れた男性は、タリスマンを祭壇に捧げたようだしな……。おそらく"世界樹の泉"にたどり着くための重要な謎が解けるのかもしれない……。よし、やってみるか」
俺は、10歳の誕生日に父親からもらった、お守りのような金属製のメダル――菱形のタリスマンを取り出す。
「にゃー! これがトールの言っていたタリスマンかにゃ! 不思議な感じのするメダルにゃ」
「ほんとですぅ~、奇麗なお守りメダルですねぇ~」
祭壇の上には、不思議な魔法陣が刻まれていて淡く光っている。この魔法陣の上にタリスマンを置けばいいのだろうか?
「よし! みんな、祭壇にメダルを捧げるぞ!」
「な、なんだかドキドキするわね!」
「そ、そうだな……何が起こるのだろうか……」
俺はタリスマンを、祭壇の上の魔法陣の中央に静かに置く。
すると――徐々に、タリスマンと魔法陣が光輝いてくる。
「「お、おおお!!」」
「「こ、これは!?」」
タリスマンから、まるで立体映像みたいな光が、祭壇の上に浮かび上がる。
「こ、これは! 地図!? ……なのか?」
祭壇の上に浮かぶホログラム――。
そこには地図のようなものが、映像として浮かび上がっている。
「と、トール! 確かにこれは地図だわ! しかも、私たちの住んでいる大陸の地図よ!」
「確かに、地図なのじゃ! でも、かなり古代の地図に見えるのじゃ!」
言われてみれば、現在我々が住んでいる大陸の地図にそっくりだ。
現代の一般的に普及している大陸地図に比べ、やや一部大陸の海岸線に違いがある。また、現代では存在しない謎の小さな島なども見える。イナリが言うように、古代の地図なのかもしれない。
だが、時代は違えど、間違いなく俺たちの住む大陸の地図だ。
「何か地図の中に光っている点があるわ! 緑色の光と赤い光……」
エミリーが言う。
確かに地図の中央部分のある一点に赤い光が見える。そして、中央から北の部分に緑色に光る点がある。
「こ、これは!? 赤い点は、ここ、王都の位置だわ! そして……緑の点は……」
「「「フォレスタ領都!?」」」
皆の驚きの声が重なる。
確かに地図の配置を俯瞰して見ると、緑色に光る点は、俺の住む街フォレスタ領都辺りを示している。
そして、赤い点より緑色の点の方が、明らかに光輝いている!
俺の心臓の鼓動が早くなる。
緑色の点の位置に、きっと"世界樹の泉への扉"があるに違いない!
「トールさん! ……緑の光の位置は、現在のフォレスタ領都より、少しだけ東のような気がしますねぇ……」
シャンテが言う。彼女の目が怪しく輝き、真剣に見定めているのを感じる。
「お、お兄ちゃん! ま、まさか……」
"東の小山" か!?
――領都の少し東側にある小さな山。
その小山は、領都の東門を出て、1時間ほど歩いたところにある。
領都民は皆、"東の小山" と呼んでいるなんの変哲もない普通の小山だ。
リンが以前、よく山菜取りに行っていた山。
俺たちが子供の頃、よく両親と一緒にピクニックのように行っていた山。
山の頂上辺りにある平べったい巨石の上で、家族で弁当を食べた記憶――。
そこは、廃墟となった古代の建造物の残骸と自然が共存する場所。
自然に満ち溢れ、空気が美味しく、神聖な雰囲気を感じる場所。
最近もリンと一緒に、散策をし山菜取りを楽しんだ、お気に入りの場所だ。
「リン! 皆! おそらく世界樹の泉への扉は、領都の"東の小山"にあると思う!」
「にゃ! 領都の東の山かにゃ!?」
「な、なんと、そんな所に隠されていたのか!」
「と、灯台下暗しだわ!」
「とりあえず、だいたいの場所は分かった。一度皆で行ってみよう! おそらく俺の勘では、東の小山の、頂上付近の廃墟遺跡がある辺りだと思う」
「にゃー! 燃えてきたにゃー!」
「どきどきするのじゃー!」
「ま、まさか、あの山が聖地だったなんて……」
こうして俺たちは興奮しながら、転移陣に乗ってダンジョンから出ていった。
◇
一旦ポルポワール邸で昼食を取り、アルタイン戦で疲れた体を休めた後、俺たちは長距離転移をして、フォレスタ領に飛ぶ。
そして、ドキドキしながら東の小山の頂上付近に飛ぶ。
「にゃ~、ここが東の小山かにゃ~。空気がおいしいにゃ~」
「いいところなのじゃ~。自然があるのじゃ~」
「確かに素晴らしい場所だわ! かなり古そうな遺跡が散らばっているわね」
「ここのどこに扉があるんだろう?」
「ん~、んん!? トールさん、あの大きな平べったい巨石はなんですかねぇ~?」
シャンテが言う。
「ああ、よく分からないけど、昔からリンと一緒にあそこの石の上で弁当を広げて食べたものだ。休憩するのに丁度いい場所だろ?」
「ふむぅ~確かに……。大きな石のベッドみたいですねぇ……。あれ? トールさん、その巨石……なんだか人工的に作られたような気がしますよぉ~」
「確かに……言われてみれば、そんな感じがするわね……」
シャンテとエミリーが首をかしげながら言う。
俺は改めてその巨石をじっと見つめる。
俺の鑑定スキルが自然に発動してくる。
―――鑑定―――
オリハルコンの巨石
・神代に作られた封印石
・???
・???
――――――――
「なっ!! お、オリハルコン!! ふ、封印石――」
俺は驚愕のあまりつい大声を上げてしまった。
「にゃ! オリハルコンかにゃ!?」
「なんと! びっくりなのじゃー!」
「あ、あの伝説の鉱石……オリハルコン!?」
「トール! ちょっと待って! 今、遮音結界を張るから! ――遮音結界!」
遮音結界を張るエミリー。
「す、すまん、エミリー。つい大きな声を上げてしまった。重要な秘密だ。万が一誰かに聞かれたらまずいよな……」
「そうね。多分ここには誰もいないし、悪い気配はしないわ。大丈夫だとは思うけれど……一応念のためにね」
「分かった、エミリー。……皆、この巨石はオリハルコンで出来ていて、神代に作られた"封印石"みたいだ。……あと、俺の鑑定では見えない情報が隠されているようだ」
「なるほど……トール、おそらくその巨石には"鑑定阻害"の魔法がかけられていると思うわ。それに、"封印石"……となると、ますます怪しいわ」
俺は考える。鑑定スキルのレベルを上げて、再鑑定してみるか?
いや、鑑定スキルを上げても、阻害魔法の力が強ければ無駄になるかもしれない。それにスキルポイントもたくさん要求されそうだ。
何かないか?
そう言えば、アルタイン戦の後、俺は「勇者」のジョブ(職業)が解放された。
そして、解放されたと同時に、俺の職業は、教会や冒険者ギルド等で女神の洗礼を得ることなしに、すでに「勇者」となったのを感じていた。
また、「新規習得可能スキル」なども得たようだ。
俺は、ステータス画面を開き、習得可能スキル欄をながめる。そこにはたくさんのスキルが羅列されていた。
そして、そこに一つのスキルを見つける。
――勇者専用レアスキル:翡翠眼
(鑑定スキルの上位スキル)
鑑定スキルの上位版! 俺は心の中でガッツポーズを取る。
そしてSPを使用して、レアスキル「翡翠眼」を取得する。
勇者専用スキルのためか、消費SPは意外と少なかった。有難いことだ。
これでよし!
俺は、そのオリハルコンの巨石を、翡翠眼を使って再鑑定する。
―――鑑定―――
オリハルコンの巨石
・神代に作られた封印石
・古の聖女が結界を張った封印石。聖女の結界解除呪文により封印を解くことができる。
・世界樹の泉への扉を封印している。
――――――――
「おおお! 見えたぞ! この封印石に結界を張ったのは"聖女"だ!」
すべての情報が得られた。
俺は、思い出す。以前エミリーから聞いた、世界樹の泉の伝説のことを。
『古の勇者と聖女は決して "世界樹の泉への扉" の在り処を知られないよう、その扉の場所を隠しそこに結界を張ったとも言われている』
結界を張ったのは"聖女"だ。そして、結界を解除することが出来るのも聖女だ。
アルタイン戦で、リンは"聖女"のジョブ(職業)が解放された。俺が勇者の力を得たのと同様に、リンもすでに聖女の力を持っていることだろう。
そして、リンの持つタリスマンと、ダリアさんが見た夢。
結界を解くことが出来るのはリンだ!
俺は考える。
明日の早朝、朝日が昇る前。
自宅の庭にある、リンが育てた世界樹の子供の樹。今ではすでに十分な大きさに育っている。
その樹の下で、タリスマンを首に下げたリンが、世界樹の朝露を浴びるとき――。
そのときに、きっと、"結界解除の呪文"を古の聖女(自分の母親)から受けつぐのだろう。
俺はそう確信した。
「リン」
俺はリンを見つめる。
「お兄ちゃん」
リンも決意を込めた目で、俺を見つめ返す。
俺の考えと確信が、リンにも伝わったことを感じた。