120話 A級ダンジョン迷宮主戦 ①
迷宮主の扉の前に到達してから、5日が経った。
その間に、俺は迷宮主に挑むための準備を整えていたのだった。
ここ数日間のことを思い出し、振り返ってみる。
俺は、フォレスタの魔法具屋に行き、ジーナさんとメアリさんに会った。
エミリーとミレア用に、錬金術で何か新しい装備アイテムの作製を依頼するためだった。
錬金術スキルのレベルを2つも上げるユニーク指輪「アルケミストスター」をメアリさんにプレゼントしたところ、指輪の性能に驚くと共に、大変喜んでくれた。
そして錬金依頼をしたところ、喜んでアイテム製作を引き受けてくれた。
また、A級ダンジョンなどで得た、錬金用の希少素材も提供した。
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ヒュドラの鱗(素材)
リヴァイアサンの鱗(素材)
世界樹の枝(少量)
森林蝶の羽:特大(少量)
満月花のはなびら
……etc
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依頼アイテムの内容は、ひとつはエミリー用に、結界系のスキルと魔力が上がるアイテム。もうひとつは、ミレア用に、何か身を守るためのアイテムをそれぞれ注文した。
メアリさんはユニーク指輪「アルケミストスター」を付けて、3日ほどかけて、錬金作業をしてくれた。
錬金術のスキルレベルが2上がるこの指輪は、かなり効果があったようだ。
――結果。
素晴らしいアイテムを作ってくれた。
~~~鑑定~~~
メアリの魔結界の指輪(ユニークアクセサリー:指輪)
・様々な希少素材で錬金された指輪
・装備時、魔力+70
・結界系の魔法Lv+2
・魔力回復(大)
‥‥‥‥‥‥‥‥
メアリの世界樹のお守り(ユニークアクセサリー:首飾り)
・様々な希少素材で錬金された首飾り
・装備時、体力+50、魔力+30、精神+30
・装備時、スキル「水の羽衣」常時発動
・死亡時、一度だけ生き返る
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2つとも、とんでもない効果だ。
錬金素材に、世界樹の枝(ユニーク素材)の一部が使われているので、ユニークアイテムが出来たようだ。
特にミレア用のアイテム「メアリの世界樹のお守り」が凄い。これを身に付けていれば、万が一死亡したとしても、一度だけ生き返ることができるのだ。素晴らしいセーフティーアイテムだ。
錬金で、このような効果が付いたのは、おそらく「ヒュドラの鱗」が素材に使われていたからだろうと俺は勝手に想像する。
ヒュドラの真ん中の首は、他の首を蘇生させる能力があったしな。
また、スキル「水の羽衣」は恐らく「リヴァイアサンの鱗」の効果だと思われる。鑑定で調べたところ、体の周りに水の防御膜が張られるようだ。
これで防御力が向上し、より安全になる。水魔法の「水膜」の上位スキルのようだ。
そして、エミリー用のユニーク指輪「メアリの魔結界の指輪」も期待通り素晴らしい性能だ。結界系の魔法レベルが2も上がり、魔力上昇もかなり高い。
以前作ってくれた「メアリの魔結界の杖」の指輪版のような性能だ。これで、いっそうエミリーの結界の力が強くなりそうだ。いい感じだ。
それぞれのアイテムは、すでにエミリーとミレアに渡している。2人ともすごく喜んでいた。
俺たちのパーティーの要である2人の強化ができた。
これでいっそう安心感が生まれたな。
それはそうと、ジーナさんが、今回メアリさんに提供した希少なアイテム群を見て、また俺に、メアリさんを娶ってくれないか、とかなんとか言っていたな……。
久しぶりに会ったメアリさんは前よりもいっそう奇麗で魅力的に見えたな~。いや~いいかもしれないな~、ぐふふ。
……おっと、いけない。浮気と妄想はここまでにしておこう。
さて、魔法具屋に行ったあと、俺はフォレスタの武具屋に行き、バッカスさんにも会ったのだった。
例の人造ゴーレムの製作に協力してもらうためだ。
バッカスさんにユニークアイテム「闇鍛冶師の金槌」と「ヘパイトスの鍛冶腕輪」をプレゼントしたら、彼は狂喜したのだった。
やはり、鍛冶師にとっては、素晴らしいアイテムなのだ。
そして、喜んでパスカルさんの人造ゴーレムの製作に力を貸してくれることになった。
元々バッカスさんの鍛冶レベルは10だったが、これで13に上がったことになる。
これにより、どうやらバッカスさんは、ヒヒイロカネ鉱石の加工が出来るようになったとのことだった。いい感じだ。
人造ゴーレムの製作は、パスカルさんの別邸の作業場で一緒に行うことになった。
バッカスさんと彼の仲間である数人の鍛冶師たちを、転移で送り届けた。彼らはそこで寝泊りすることになっている。
人造ゴーレムが出来上がるのはまだまだ先のことなので、気長に待つことにしよう。
◇
今日はいよいよA級ダンジョンの迷宮主に挑む日だ。
皆が集まっている。
皆はこの日に備えて、階層主戦で得た新たなSPを使い、それぞれの得意スキルを上げている。
そして、皆にはそれぞれ、たくさんの上級ポーションやマナポーションを持たせている。また、先日シャンテと確認した、呪い効果のあるアイテムなども、選別したメンバーに持たせている。
準備は万端だ。
「よし、行くぞ――転移!」
皆と一緒に、転移で最下層の42階層に飛ぶ。
目の前には、大きく荘厳な扉があった。
緊張感が高まる。
皆も緊張し武者震いしているようだ。
「よし! みんな、いよいよ行くぞ! 気を引き締めて行こう!」
「「「おう!!」」」
扉の横には大きな水晶玉が乗せられた立派な台座がある。
俺は水晶玉に手をかざし魔力を少しそそぐ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ――
荘厳な扉が大きな音をたてて開く。
俺たちは息をのみながら扉をくぐる。
後ろで、再び大きな音とともに扉が閉まって行く。
ガチャン
これでもう後戻りはできない。
ボス部屋の中は、石張りの大広間になっていた。かなりの広さだ。
部屋の周辺には、等間隔で松明が設置されている。
松明の灯が揺れ、広間全体を怪しく照らしている。
そして薄暗い部屋の奥の方に、"何か" があるのが見える。
四角い箱のような台座のようなものが、朧気ながら見えてくる――。
俺の目は "それ" に釘付けになる。
――祭壇だ!
「お、お兄ちゃん! さ、祭壇だよ!!」
リンの震えるような声が聞こえてくる。
そして――。
ボス部屋の中央に大きな霧が立ち込めてくる。
その霧の中から、巨大な魔物の姿が、徐々に、徐々に、現れてこようとしている。
ゴオオオオ――ン ゴオオオオ――ン
ゴオオオオ――ン ゴオオオオ――ン
ボス部屋の天井から、大きな鐘の音が聞こえてくる。
荘厳な響きが、大部屋一帯に響き渡る。
次第に、その巨大な魔物の姿が鮮明になって来た
「こ、これは――!?」
「にゃっ! にゃんと――!!」
「大きいのじゃ!」
「つ、強そうだぞ!」
俺は驚愕のあまり目を見開くこととなった。
皆も驚愕の表情を浮かべている。
天から声が聴こえてくる。
≪迷宮主、古代竜『アルタイン』が現れました≫
≪古代竜『アルタイン』のレベルは2400≫
――繰り返す天からの声
古代竜――エンシェントドラゴン!
『アルタイン』
迷宮主にして固有種!
レベル2400!
俺たちは信じられない思いで呆然となる。
やがて、松明に照らされた広間の中で、その巨竜の全貌が明らかになった。
巨大な体に、大きな鋭い牙を持つ竜の頭。
大きな翼に鋭いかぎ爪。大地を踏みしめる大きな足。
体全体を覆う輝く竜の鱗。
圧倒的強者のオーラを放っている。
そして、その竜の瞳には知性が感じられた。
と同時に、何かが心に響くように語りかけてくる。
――我が名は、アルタイン
――古の三竜の一竜
――よくぞここまでたどり着いた
――さあ、お前たちの力を見せてみよ
――手加減はせんぞ
GUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――!!
凄まじい咆哮を上がる古の竜『アルタイン』
俺たちは震撼する。