12話 ギルドの依頼
――冒険者ギルドにて
カラ~ン
毎度のごとくギルドの扉をくぐり、売却用の受付に来た。
早速エメルダさんは、俺の姿を見るや同僚の受付職員の女性に目くばせをしながら、個室へと俺を招いてくれた。
「毎度、お疲れ様です~。トールさーん」
ニコニコしながらソファを勧めるエメルダさんである。
「エメルダさん、どうもです」
「しかし今日もすごい荷物ですね」
今日は昨日より大きな鞄をいくつも抱え、雪だるまのようになりながら運んできたのだった。
そういえば、ギルドに入った瞬間に周りの冒険者たちが荷物の多さにギョッとして俺を見つめていたな……。
「ふぅ~。いや~大量でしたよ~」
いつものように戦利品をテーブルに置き並べ、買取を進める。
「あっ! 今日はゴブリン退治をされたのですね! すごいです!」
戦利品の中にうさぎ肉とは別にゴブリンの短剣や魔石などを目にして、エメルダさんが息を弾ませている。
今日はエメルダさんの同僚の女性のモカさんも個室に入ってきて、アイテム整理の手伝いをしてくれた。
モカさんは、小柄でショートカットの茶髪がお似合いの可愛いらしい女性である。
俺が1年前、冒険者になった直後ぐらいにギルド配属になった比較的若い職員さんで、日ごろから買取りなどでお世話になっている。
「――っ! こんなにたくさん! はわわわわ……」
モカさん、大量のうさぎ肉やゴブリンの装備などを見て目を白黒させているな……。
受け渡しが終わり、いつものように個室で紅茶を飲みながら雑談をする。
今日はモカさんも一緒なので3人での雑談だ。
なんか楽しいな~。
ちなみに本日の買取金額は、ホクホクの約30万ギルだ。やった~。
「いや~、実はレベルが12になったので、そろそろ明日は4階層に行こうかと思ってるんですよ」
俺はエメルダさんとモカさんに明日の予定を話した。
「もう、レベル12ですか! すごい成長の早さですね!」
「ほぇ~、トールさん、すごい!」
「ありがとうございます。それで、4階層の情報をちょっとエメルダさんたちに聞いておこうかなと……」
「なるほど、4階層ですね。その階層ではグレイキャットが出ますね。猫の魔物なので、動きが素早く鋭い爪を持っているので十分に気を付けて下さいね」
「あっ、そうだ、グレイキャット以外にも、稀に『モフミィ』という太った猫の魔物が現れることもあるそうですよ。なんか毛並みがもふもふしてるみたいです」
と、モカさんも情報を提供してくれる。
4階層は猫の魔物が出現するというのは、実は俺も知っていた。
でもモフミィというのは初耳だな。
「モフミィですか…あまり聞かない魔物ですね。グレイキャットは聞いたことがありますが」
「はい。モフミィはめったに現れることがないレアな魔物ですが、弱いらしいですね。まれに遭遇してもすぐに逃げるので、討伐された例はあまりないですね……あら?」
エメルダさんが何か考えるような素振りをする。
「あっ!! そうでした! 忘れてました――依頼です、依頼!」
「……あ! 依頼! 私も思い出しましたっ!」
エメルダさんとモカさんの声が重なる。
「ん?……」
「トールさん! 実はもうかなり前のことですが、モフミィの落とすレアアイテムの依頼がありまして、まだその依頼が残っているんです……」
「そうそう! 領主様からの依頼で、娘の誕生日に贈りたいとのことで……たしか期限がもうあまり無かったような…?」
エメルダさんとモカさんの顔色が少し青ざめている。
「――ああっ! そういえば私、先月、領主様の遣いの人から催促の連絡を受けてましたっ! どどどど、どうしましょう!!」
モカさんが頭を抱えている。
「モカちゃん、落ち着いて! ……依頼達成は義務じゃないのだから……それにそもそもモフミィのレアアイテムの依頼を受けてくれる冒険者はいないのだからしょうがないのよ……」
「で、でも……領主様の依頼だし、無理でしたとは言いづらいよぅ……」
……なるほど、そういうことか。
「エメルダさん、モカさん、大丈夫ですよ。俺がその依頼を受けますよ」
「本当ですか!! トールさん、ありがとうございます!! ……たしかにトールさんなら達成できるかも……」
「あ、ありがとうございますっ!! よ、よろしくお願いします、トールさんっ!」
二人の顔に明るさが戻った。
その後、エメルダさんとモカさんで依頼の内容を確認したところ、期限は4日後とのことだった。
うん、まあ4日もあればなんとかなるだろう。
モフミィの出現頻度がどのくらいかは判らないところだが、まあ、明日から4階層を集中的に探索するつもりだ。運が良ければすぐにでもゲット出来るかもしれないな。
エメルダさん、モカさんと別れた後、ギルド内の直営店に寄った。
だいぶお金も貯まってきたので、上級ポーションを1つ、中級ポーションを3つ買った。
ダンジョン内では油断は禁物。こういった備えは必要だ。
しかし、さすがに上級ポーションは高いな……。今までの貯えの大半を使ってしまったな。
それでも、今日もリンへのお土産に、ギルド直営店の名物、甘辛串焼きを買って帰った。
(シスコン決定)