117話 A級ダンジョン最下層
41階層の階層主――タイタンを倒した。
タイタンを倒した後に、いつものようにボス部屋の中央に帰還用の転移陣が現れる。
ゴゴゴゴゴゴゴ――
そして、ボス部屋の中央奥の扉が開かれる。
「にゃー! 新しい扉がまた開いたにゃー!」
「そ、それにしても、このドロップアイテム! 大きいな!」
「岩の塊のようだわ!」
タイタンの通常ドロップアイテムの「ヒヒイロカネ鉱石」が2つ落ちている。
この鉱石もかなり希少な鉱石だったはずだ。
それにしても巨大な鉱石だな。
数人がかりで神輿のようにかついで運ばないといけないくらいの大きさだ。
以前、キングラビット戦で落とした、極上のうさぎ肉(特大)を思い出す。あれもかなり大きかったな……。
「と、とりあえず空間魔法で収納しよう……」
すべてのドロップアイテムを回収する。
「よし、先に進むか」
俺たちは、そのまま扉をくぐり、42階層へ入る。
42階層はいつものように長い洞窟になっていた。敵は現れてこない。
俺たちは更に深層へもぐる。
するとやや広い洞窟の部屋に行き当たり、その正面に巨大な扉が立ちふさがっていた。
その扉はいつもの扉よりも大きく、荘厳だ。黄金色に輝いている。
扉の横には、これもまた、大きな水晶玉を乗せた立派な台座がある。
「にゃ~、大きい扉にゃー!」
「立派な扉なのじゃー」
「水晶の台座も立派な作りになってるぞっ!」
「トール、いつもの扉とあきらかに違うわ……」
「お、お兄ちゃん……もしかして……」
「お、おう……」
その扉をじっくりと見つめる。
扉に何か不思議な文字が刻まれている。どうやら古代文字のようだ。
ミレアがハッとした表情をした。
「……リアド……サ・ユガメア……」
なにやらミレアがつぶやいている。
「ミレア、どうしたの? ……もしかして文字の意味がわかるの!?」
エミリーがミレアに問いかける。
「うん、迷宮主への扉――」
「なっ! 迷宮主!」
「にゃ! 迷宮主の扉かにゃ!」
「つ、ついにここまで来たのじゃー!」
――リアド・サ・ユガメア(迷宮主への扉)
ついに俺たちは、A級ダンジョンの最下層に達したのだ!
この扉の向こうには、迷宮主がいるのだ。震えがくる。
そして、ダリアさんが夢で見た祭壇のある部屋があるに違いない。
俺は、武者震いと同時に、ワクワクとする興奮を覚えた。
「よ、よし。みんな、今日はここまでにして、帰ってゆっくり休もう」
「そ、そうね、タイタン戦で疲れたし。最後の戦いの前に準備も必要だわ……!」
こうして俺たちは、その荘厳な扉を見つめながら、転移してダンジョンを後にした。
◇
ポルポワール邸に戻った俺たちは、興奮しながら、昼食をとる。
タイタン戦でお腹が空いている。
「にゃー! ついにA級ダンジョンの最下層に着いたにゃー!」(もぐもぐ……)
「そうなのじゃー! やってやるのじゃー!」(……もぐもぐ)
「む、武者震いがするぞっ!」(もぐもぐ……)
「お兄ちゃん、ミレア、この料理おいしいね!」(もぐもぐ……)
「うん! コーメにいろいろ入ってる! おいしい!」(もぐもぐ……)
料理長が、極上のお米を使って、チャーハンのような料理を作ってくれたようだ。
確かにこれは美味い! スープやデザートも付いている。
もぐもぐと食べながら、気炎をあげる皆。頼もしい限りだ……。
食事が終わり、タイタンのドロップアイテムを確認する。
~~~鑑定~~~
ヒヒイロカネ鉱石(素材)
・非常に硬い希少な鉱石
・武器防具等、いろいろな素材として使われる
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土の紋章(レアアクセサリー:胸)
・装備時、全能力値+30
・土の威力+15%
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魔剣タイタン(ユニーク武器:剣)
・攻撃力(AR)33
・装備時、全能力値+70、DR+10
・剣術Lv+2
・土魔法Lv+3
・土の威力+30%
・付与スキル:ロックバレット
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女神の魔剣タイタン(ユニーク武器:剣)
(同上)
・空間ソケット《3》
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タイタンの魔石(全能力値+45、土耐性向上)
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魔剣タイタンの性能が素晴らしい。攻撃力(AR)は今までで最高の33だ。全能力値上昇も今までの剣の中でも最高値だ。おまけにDR(防御力)上昇まである。
そして、なんといっても、土魔法のレベルが3も上がり、土の威力も3割増しだ。これは土魔法を使用するにはうってつけの剣だ。
今回、魔剣タイタンは、土魔法レベルを上げているリンに渡すことにした。リンは大喜びだ。
これでリンの土魔法は、今まで以上に凄まじいものになる。今後もいっそう期待できるな。お兄ちゃんは嬉しいよ!
俺も、女神の魔剣タイタンがあるので、状況によってはぜひとも使用したいものだ。
せっかくなので、俺はSPを使い土魔法のレベルを6まで上げようと思う。このレベルまでならSPの消費もそこまで多くない。
これで、魔剣タイタンの装備時には、俺の土魔法のレベルは10となる。風、水、火魔法に加えて、俺も土魔法を十分使いこなせることになる。状況に応じて、リンと一緒に土魔法を使用できるのはいいかもしれない。
ついに俺のすべての4属性魔法が高レベルになる。戦いの幅が広がるのは嬉しいことだ。
レアアイテムの「土の紋章」(胸ブローチ)は、もちろんリンに装備してもらうことにした。更に土の攻撃の威力が増すことになる。リン無双になるか?
ちなみにリンは元々「猫王の勲章」を装備していたので、変更になる。各アクセサリーは部位ごとに1つしか装備出来ない仕様になっている。
この猫王の勲章は、まだ胸ブローチを付けてないミーアに渡すことにした。
猫王の勲章は、猫の絵柄が刻まれている。元々猫獣人のミーアにぴったりのブローチだ。
「にゃー! 猫王の勲章だにゃー! かっこいいにゃー!」
ミーアは大喜びだ。
これで、胸のアクセサリー(ブローチ)を付けていないメンバーは、モフだけになった。今後モフ用の胸アクセサリーが出ることを期待しよう。
さて、通常アイテムの「ヒヒイロカネの鉱石」2つは、かなり希少な鉱石だ。
武器防具の素材としても一級品のものが出来そうだ。まあ今のところユニーク装備が優れているので、特に装備を作る必要はないのかもしれない。
武器防具以外の素材として、いろいろな使い方が出来そうだ。
そうだ! ヒヒイロカネの鉱石については、後で、シャンテの祖父のパスカルさんに見せてみるか。何か良い使い方などのアドバイスがもらえるかもしれないな。
「トールさ~ん、その鉱石の一部を少しだけ貰っていいですか~」
シャンテが目を輝かせながら、興味を持っている。
「おう、シャンテ。たくさんあるので、好きなだけ使っていいぞー」
そういえば、シャンテの糸もヒヒイロカネ製に出来るのかもしれないな。まあシャンテに任せることにしよう。
タイタンの魔石も高性能だ。当然この魔石も女神装備のソケットに入れた。これで更に俺の能力値が上昇した。いい感じだ。
◇
昼食を終えて一休みしてから、俺とリンはモフを伴って、フォレスタの自宅に転移した。
王都に来て遠距離転移を覚えてから、毎日時間があるときに、リンと一緒に自宅に飛んでいる。
自宅の庭に植えている世界樹の苗木に、水をやるためだ。
水といっても、リンのユニークスキルの特別な水を使用している。
――ユニークスキル「女神の栽培」
「えいっ!」
リンの手のひらからキラキラと輝く緑色の霧のような奇麗な水が出てくる。不思議なスキルだ。
そして、そのリンのユニークスキルも、今はレベルが5になっている。
水を与えることによって、スキルレベルが自然と上がっていったらしい。
毎日少しづつ、世界樹の苗木が育っている。もう苗木というよりは、普通の木だ。高さはすでにリンの身長を超えている。
俺は、ダリアさんが見た夢のことを思い出す。
あのとき、彼女はこう語った。
――女性の方は、大きな樹の下で、夜明け前にじっと立っているの。そして、太陽の光が差し込む瞬間に大きな樹の上から、奇麗に光る朝露がその女性に降り注ぐの。その時に、女性の首に下がっているお守りのメダルが輝くの――
この世界樹の苗木が育って、大きくなった時に、その夢の謎が解けることを、俺は確信している。
リンの持つタリスマンと共に、この世界樹の子供の樹が、きっと "世界樹の泉" にたどり着くために必要な "何か" を与えてくれる。そして、その時はまもなく近づきつつあると――。