111話 階層主③ 風
38階層の階層主――グリフォンが現れた。
「よし! 皆! 先手必勝だ! 一斉攻撃だ!」
「「「おう!!」」」
皆が動き出す。
敵は高い樹の枝にとまっているので、遠距離攻撃だ。
後衛は魔法や弓などを使用、前衛のアリシアさんは剣技で光の刃を飛ばす。
ミーアは、もっぱら予備のユニーク武器を投擲し始める。
皆の攻撃がグリフォンに向かう。
――しかし。
バサバサバサッ!
グリフォンが、翼を大きく広げ羽ばたく。
急に高く飛び上がり、俺たちの攻撃は、すべて避けられる。
そして、大きく旋回して、すごい勢いでこちらに向かってくるグリフォン。
危ない!
前衛のミーアとアリシアさんが盾を前面に出し構える。
俺とリンは、それぞれウインドシールドとアースシールドを張る。
パリイイイイイ――ン!
ウインドシールドとアースシールドが砕け散る。
気付いたら、ミーアとアリシアさんが、盾を構えたまま吹き飛んでいた。
敵の鋭い前脚の爪攻撃だ!
「――防御結界!」
エミリーが結界を張る。
ミレアとリンが、ミーアとアリシアさんに回復魔法をかける。
俺はジャンプして近づいて来たグリフォンに剣を振るう。
キィイイイイイイ――ン!
剣は敵の大きな爪で防がれる。
「――百線突き!」
シャンテが敵に猛烈な無数の糸の攻撃をする。
ビュウウウウウウウウウウウウ――
グリフォンの体の周りに凄まじい旋風が吹き荒れる。
グリフォンを中心として渦巻き状の風が見える。まるでグリフォン自体が台風の目のようだ。
シャンテの糸はすべて、その旋風により吹き飛ばされる。
気づいたら俺は、吹き飛んでいた。
地面に背中がたたきつけられる。痛い!
どうやら、グリフォンの旋風に近づきすぎたようだ。
GYAAAAAAAAAAAAAAAAA――!
更に突進してくるグリフォン。
パリィイイーン!
エミリーの防御結界の壊れる音がした。
すかさずモフが空間操作で空間の防御壁をつくる。
イナリが叫ぶ。
「――不死鳥の炎撃!」
グリフォンの旋風とイナリの炎の攻撃が激突する。
しかし炎の攻撃はグリフォン本体に届かずにかき消される。
まるで風の鎧をまとっているようだ。
近づけばその風の鎧のような旋風に吹き飛ばされる。攻守ともにやっかいな風の力だ。
グリフォンは更に旋回しながら、すごい勢いで俺たちに突進してくる。
復活したミーアとアリシアさんが盾と剣を構えて敵の攻撃にカウンター攻撃をするが、何度も吹き飛ばされる。
リンが叫ぶ。
「土魔法Lv10――魔鉱の土石流!」
重く硬い土石流が凄まじい勢いでグリフォンに向かう。リンの土魔法だ!
GYAAAAAA――!
グリフォンが一瞬、小さく悲鳴を上げた。
重い土石流の一部が敵の風の鎧を通過して本体に衝突したようだ。
少しだけグリフォンの風の鎧の勢いが減少した気がする。しかし、まだまだ敵の旋風は強い。
土魔法の一斉攻撃ならいけそうか?
しかし、リンを除き、皆の土魔法のレベルは5だ。ミスリルゴーレムの腕輪に付与されているものだ。少しレベルが足りなさそうだ。
更に俺は考える。リンの土魔法と俺の風魔法の合わせ技でいくか!?
風魔法Lv10――風竜召喚
この風竜召喚は、強力な風のブレスと突進攻撃を併せ持つすぐれた風魔法だ。敵の風にこちらの風をぶつけて押し切る。そして、ミレアにも風の力を使ってもらい、3人の力を合わせれば、いけそうか!?
そして、敵の風を押し切った後のとどめはイナリの火炎攻撃だ。グリフォンの体は羽毛で覆われている。なんとなく炎に弱そうな気がする。
よし! これでいこう!
「リン! もう一度土魔法の攻撃を頼む。ミレア! 俺と一緒に風の力で押し切るぞ! そして最後にイナリ! 炎攻撃を頼む!」
「了解! お兄ちゃん!」
「トール、分かった!」
「了解なのじゃー!」
イナリの攻撃の後は、ミーアたちが勝手に追撃してくれるだろう。
「いくぞ! ――風竜召喚!」
「――緑風の舞!」
「――魔鉱の土石流!」
「――煉獄火炎!」
「…………」
ん……あれ? 風竜が出ない……!?
ああっ! しまった!
髪飾りを「三つ首の髪飾り」にしていたのだった!
元々付けていた髪飾り――「森林蝶のリボン」には風魔法Lv+2の効果がある。それを外したので、俺の今の風魔法のレベルは10ではなく8だ!
ミレアの風とリンの土魔法がすでにグリフォンに向かっている。その後を追うようにイナリの炎攻撃が向かっている。
やばい! 間に合わない! とりあえずウインドハリケーンだ!
「――ウインドハリケーン!」
ミレアの風の力とリンの土石流に、俺のウインドハリケーンが合わさる。
しかしその時――グリフォンが大きく翼を震わせた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――
凄まじい風の嵐がこちらに向かってきた。
俺たちの風と土の力と、グリフォンの風の嵐が激突する。
周りの空気が激しく振動して、ボス部屋が揺れる。
まずい! こちらの力が押されている!
徐々に俺たちの風と土の攻撃が、逆に押しやられてきた。
そこにイナリの火炎攻撃が衝突する。
俺たちの攻撃が、徐々に、押し戻されてくる。
そして、なんと、イナリの火炎も押し戻され、一緒にこちらに向かってきた――。
「うわあああああ!!」
「あちちちぃ!」
「ぎゃあああ!」
「熱いにゃああー! にゃにゃあああ!」
「きゃあああ!」
「熱いですぅ……!」
皆が炎に包まれてしまった!
「ウォータースプラッシュ!」
俺は威力を無くした水魔法を皆にかける。
「にゃあ……しっぽが焦げたにゃー!」
ミーアのしっぽがぷすぷすと焦げて煙が上がっている。
イナリは火炎吸収のスキルを持っているので、特に何事もなかったようだ。
皆に回復魔法をかけている。
「みんな、すまん………ちょっと失敗した……」
「お、お兄ちゃん……」
「にゃ~シャンテの服のおかげで、しっぽだけですんだにゃ~。なんとか無事にゃ~」
「ミレアも大丈夫……」
「わ、私もなんとか大丈夫だぞっ……」
「やはり、この服はすごいわ。……軽微で済んだのはこの服のおかげだわ」
そうこうしているうちに、再びグリフォンから強烈な風の嵐がこちらに向かってくる。
「――防御結界!」
「――魔鉱の土壁!」
エミリーとリンが叫び、結界と土魔法の防御壁が展開される。
モフが空間バリアを張る。かなり魔力を込めているようだ。
アリシアさんとミーアが盾を構えて皆を守っている。
俺は魔力を込めて巨大なウインドシールドを張る。
ガガガガガガガガガ―― バリバリバリ――
グリフォンの風の嵐は、なんとか皆の防御魔法によって防がれているようだ。
俺はすかさず、頭のアクセサリーを、「三つ首の髪飾り」から「森林蝶のリボン」に変える。
これで、風魔法のレベルが10に上がったはずだ。
更に、急いで、女神の装備の魔石をたくさん入れ替え始める。
魔力の上がるハイリッチの魔石(魔力+30)だ。
魔力以外の能力がぐんぐん下がるが、逆に魔力がぐんぐん上がって行く。
俺の魔力値が1600を超えた。よし! 今度はきっちり仕留めるぞ!
グリフォンが大きく翼を震わせ始めた。
再び風の嵐を起こそうとしているのが感じられる。
敵が大技を仕掛けて来る時が逆にチャンスだ。一瞬の隙が生まれ、カウンターチャンスとなる。
「よし! 皆! もう一度だ! 今度は大丈夫だ!」
「「「おう!」」」
「――風竜召喚!」
巨大な風の竜が出現し、グリフォンに向かう。
「――緑風の舞!」
「――魔鉱の土石流!」
ミレアとリンの魔法も発動し、俺の風魔法と一緒に攻撃に加わる。
グリフォンの風の嵐がこちらに向かってくる。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――!!
敵の風の嵐と、俺たちの風と土の力が衝突し、せめぎ合う。
周りの空気が激しく振動して、ボス部屋が揺れる。
ぐんぐんとこちらの力が敵の力を押しやっていく。
もう少しだ!
そして、ついに敵の風の嵐に対し、俺たちの攻撃が完全に上回った。
GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
グリフォンが吹き飛ぶのが見えた。
「――煉獄火炎!」
すかさずイナリが追撃する。
グリフォンの体が燃え上がる。
ミーアが飛び出す。
「――地獄の咆哮!」
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――!!
グリフォンに凄まじい振動波が炸裂する。
グリフォンはスタンし、地面に落下する。
「行けぇええええーーー!」
前衛組も剣を持ち、追撃を始める。
モフが踊り出す。
――チリン ――チリン ――チリン
スキル「鈴の音」が3回鳴った。
パーティーメンバーの全員の幸運値が8倍に跳ね上がる。
「にゃにゃにゃにゃ――!」
「ハアアアアア――!」
ドババババババ――ン
ミーアとアリシアさんの怒涛の剣撃が、すべてクリティカルとなる。
更に、俺たちの一斉攻撃は続く。
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
そしてついにグリフォンの断末魔の悲鳴が、辺り一面に響き渡った。
徐々に、徐々に、霧のように消えて行くグリフォン。
――天から声が聴こえてくる。
≪階層主『グリフォン』を討伐しました≫
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
・
・
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
経験値が体に流れ込んでくる。
――繰り返す天からの声
≪パーティーメンバーのそれぞれに特別ボーナスとしてSPが与えられます≫
――ふわっ、ふわっ
≪グリフォンの通常アイテム『グリフォンの羽』をドロップしました≫
――コロン
≪グリフォンのレアアイテム『風の紋章』をドロップしました≫
――コロン、コロン
≪グリフォンのユニークアイテム『魔杖グリフォン』をドロップしました≫
≪グリフォンの上位ユニークアイテム『女神の魔杖グリフォン』をドロップしました≫
「や、やった、みんな! やったぞ!!」
「にゃにゃにゃ――! やったのにゃあああ!!」
「やったのじゃあああ!!」
「「おおお――!」」
「「やった――!」」
こうして俺たちは、階層主グリフォンを倒し、勝利の雄たけびを上げるのだった。