110話 冒険者服 そして38階層へ
朝が来た。
昨日は38階層でダンジョンオアシスを見つけて、十分癒されて英気が養われた。
あの温泉の効能は凄かった。肉体的、精神的、両方の疲れが一気に取れた感覚があった。
冒険や魔物との戦いに疲れたときの回復に便利だ。
それに、なによりあの場所は、癒しになる。今後も、転移で行って、楽しむのもいいかもしれないな。
皆も、素晴らしい穴場スポットを見つけたことで、すごく喜んでいた。
ブランダさんの商いとオークションも、順調とのことだった。
徐々に、ゲルダ商会の闇オークションから、ブランダさんの公式オークションに人が流れているようだ。いいことだ。
俺たちが以前、ブランダさんに依頼して出品した商品も、かなりの高値がついたとのこと。
特に、レア槍のビッグホーンは5200万ギルほどの値段がついたとのことだった。槍を得意とする貴族の名家に買われたらしい。また、アダマンタイトのインゴットが一つ約6000万ギル、パンの製造魔具が2300万ギルと、どこかの金持ちが落札したらしい。
俺たちの資産もうなぎのぼりだ。いずれ王都の一等地に自分たちの土地が買えるかもしれないな。
家は、クランハウスがあるので、土地だけ買えばいい。王都に俺たちのパーティーの拠点をつくるのも楽しそうだ。
皆で朝食を取った後で、シャンテが言う。
「トールさーん、みんなの冒険者服が出来上がりましたよ~」
「おお、シャンテ! ありがとう! ついに出来たかー」
俺は、いろいろなドロップアイテムの管理をシャンテに任せていた。
以前入手した、ラーフィンの毛皮とモルフェンの毛皮などの高級品も含まれている。高レベルのネームドモンスターの毛皮なので、かなり上質なものだ。
シャンテは、A級ダンジョン13階層のシルバースパイダーのユニーク糸――白銀の魔力糸を使い、この毛皮などで、パーティーメンバー全員の冒険者服を作っていたのだった。
先日シャンテから、もうじき皆の分が完成すると聞いていたので、出来上がるのを楽しみにしていたのだった。
きっとシャンテのことだ、かなりいい出来に仕上がっていることだろう。
「はい、8人分ありますよぅ~。ええと、こっちの紺色っぽいのがトールさんので、赤いのがイナリさんので……」
シャンテが人数分の服をもふ猫のポーチから取り出して、それぞれ渡す。
「シャンテの冒険者服かにゃ! かっこいいにゃ!」
「わらわのもかっこいいのじゃー!」
「シャンテさん、ありがとう! 素敵な服だよ!」
「シャンテ殿、この服は素晴らしいなっ!」
「やったー! ミレアのはかわいい絵がついてるよ!」
「サイズもピッタリだわ! ありがとう!」
「着てみたら、性能がわかりますよ~。丈夫で耐性もあるのです。ついでにスキルとかも付与されてますよ~」
「トール、ちょっとあっち向いててね」
エミリーが言うので、俺は皆とは反対側の方を向く。
後ろの方で、皆が一斉に着替え始めたようだ。衣擦れの音がする。
「トール、もういいわよー」
振り向くと、皆がシャンテの冒険者服に着替えていた。
「おお! 皆、なかなか似合ってるな!」
基本的な素材はかわらないが、それぞれの個性にあった素敵な服だ。
色も皆違う。エミリーとミレアは緑色、ミーアは橙色、イナリは赤、リンとシャンテは黄色、アリシアさんは白を基調とした色だった。
「にゃー! 着たら力が湧いてくる気がするにゃ!」
「ほんとなのじゃー! 素晴らしいのじゃー!」
「防御性能もいいみたいだぞっ! これは凄い!」
「すごいわ! スキルも付いているのね!」
皆が喜びながら口々に言う。
皆の服を見つめていると自然に鑑定機能が発動してきた。
~~~鑑定~~~
シャンテの冒険者服ver.2(ユニーク防具:服)
・防御力(DR)14
・装備時、全能力値+20
・付与スキル:操糸術Lv5[紋章効果]
・付与スキル:飛針術Lv4[紋章効果]
・4属性耐性(大)
・光、闇耐性(大)
・斬撃耐性(大)
・自然浄化(大)
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「おお! 素晴らしい!」
以前、俺が作ってもらった冒険者服から更に性能が上がってる。防御力(DR)は14もある。ミスリルの鎧が17と考えると、服なのに高性能の鎧レベルの防御力だ。そして、以前無かった4属性の耐性がついている。4属性とは、水、火、風、土、で、4元素の攻撃や魔法に対する耐性を意味する。これは素晴らしい。更に、光と闇耐性まである。
そして、付与スキルもシャンテらしいスキルが2種類付いている。レベルも以前より少し上がっているようだ。
「素材がいいから、結構いい服が出来たのですよ~。あ、トールさん、これがこの服の素材リストですよ~」
シャンテが、冒険者服を作るときに使用した素材の一覧が書いてある紙を俺に渡して来た。
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・白銀の魔力糸(ユニーク武器・素材)
・ラーフィンの毛皮
・モルフェンの毛皮
・猫王の毛皮(一部)
・もふ猫の毛皮
・エメラルドゼリー
・森林蝶の羽:特大(一部)
・世界樹の枝(少量)
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白銀の魔力糸はA級ダンジョンの13階層に出現するシルバースパイダー(Lv230)のユニークアイテムだ。
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白銀の魔力糸(ユニーク武器・素材)
・強い魔力が込められた強靭な糸
・非常に強力で優秀な糸
・攻撃用の糸、または裁縫などの素材用の糸としても用いられる
・闇属性の魔物に対して特に有効
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このユニーク糸を基調に、それぞれの毛皮やアイテムを使用して作ったようだ。
4属性耐性はエメラルドゼリーの効果だろう。たしかB級ダンジョンのエメラルドスライムの通常アイテム素材だったはずだ。このスライムは4つの属性を持つ。
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エメラルドゼリー(素材)
・スライムゼリーに更に魔力が加わったもの
・様々な素材に使われる
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そして、ラーフィンとモルフェンは闇属性のネームドモンスターなので、闇属性の耐性を持つ。光耐性は糸の効果だと思われる。そして、もふ猫の毛皮は元々自然浄化効果がある。
更に、森林蝶の羽や世界樹の枝という希少な素材も使っている。猫王の毛皮も使用しているようだ。
ふむ。よくは分からないが、いろいろと上手く組み合わせて能力効果を高めているようだ。さすがシャンテだ。
それにしても、シャンテの冒険者服、バージョン2って……。そのうちバージョン3とか出てくるのだろうか。更に今後に期待しよう。
これでまた皆強くなったな。防御面においてもかなり補強されたはずだ。
これからボス級の敵と戦うのに安心感が増す。
さて、皆が新たな冒険者服を着て、準備万端だ。
今日は38階層にあるボス部屋へ挑戦することになる。
昨日到達した38階層のボス部屋の前へ、転移する。
近くの壁に、昨日入ったダンジョンオアシスへの扉が隠されている。
皆がまた入りたそうにしているが、ダンジョンの深層へ向かわないといけない。
「よし、皆! 気を引き締めていこう!」
「「「おう!!」」」
扉の横にある台座の水晶玉に魔力を少しそそぐ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ――
扉が大きな音をたてて開く。
俺たちは息をのみながら扉をくぐる。
後ろで、再び大きな音とともに扉が閉まって行く。
周りを見回すと、そこはドーム型をした明るい大広間だった。
前の階層部屋より更に広く、天井もかなり高い。
広間の壁は、薄い緑色に光っている。天井からは、まるで太陽のような光が注ぎ込むように大広間を明るく照らしている。
地面は緑色の芝生のようなものが敷き詰められ、大広間はまるで、昼間の草原のようだ。
広間の中央に、巨大な樹が立っている。樹の枝が大きく横に広がっていた。
その樹の枝の上あたりに、霧のようなものが立ち込めてくる。
――そして、その霧は次第に、巨大な魔物の姿となって現れてきた。
「こ、これは――!」
「にゃっ! 大きいにゃ!」
「強そうなのじゃ!」
「と、鳥の怪物か!?」
俺たちは驚愕する。樹の枝にとまっている巨大な怪鳥!
天から声が聴こえてくる。
≪階層主、グリフォンが現れました≫
≪グリフォンのレベルは1100≫
――繰り返す天からの声
階層主――グリフォン! レベル1100!
俺たちは信じられない思いで呆然となる。
巨大な体に、大きく翼を広げる鷲のような魔物。
鋭い嘴に爛々と光る目。大きく鋭い爪をもつ4つの足。
上半身は鷲、下半身は4つ足の猛獣のような姿――。
圧倒的なオーラを放っている。
―――鑑定―――
グリフォン Lv1100
・鳥獣。鷲の魔物。
・強烈な風の力をまとっている
・風魔法、風の力の攻撃をしてくる
・強力な爪や嘴の攻撃にも注意
――――――――
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA――!!
大きく開いた嘴から、凄まじい声を上げるグリフォン。
俺たちは震撼する。
私生活が忙しくなってきました。少し更新頻度が落ちるかもしれませんが、よろしくお願いします。