107話 二十三の墓石
無事、階層主のケルベロスを倒した。
大部屋のやや奥の床に、帰還用と思われる渦巻き型の魔法陣が出現する。
更に、俺たちが入って来た入口と反対側の壁の突き当りに、大きな扉があるのが見える。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
その扉が、大きな音を立てて開いた。どうやら階層主を倒したことで開いたようだ。
おそらく、次の階層へ向かう扉だろう。
「にゃ~、新しい扉が開いたにゃ~」
「つ、次は37階層なのか!?」
扉の先に行く前に、俺はちょっと試したいことがあった。
それは、この大部屋からダンジョンの外へ、転移出来るのかどうかだった。
今後も、こういった大部屋でのボス級の魔物と戦う場合に、戦いの最中に、転移で外に逃げることは可能かどうかの確認だ。
俺は試しに転移を唱えてみる。
「みんな、ちょっと転移の実験をするな。――転移!」
皆に転移の淡い光が包まれる。
しかし、その光は消え、転移出来なかった。
「ん? 転移しないぞっ?」
「そうね……」
やはり無理か。どうやらボス部屋から外へは転移が出来ないようだ。
今まで試したことが無かったので分からなかったが、確認できた。
どうしても敵のボスに勝てそうにない場合、転移で外に逃げることを考えていたが、それが出来ないということだ。やはり、ボス部屋で、階層主や迷宮主と戦う場合には、命がけだな。
今度は、部屋内での転移をしてみる。
大部屋の少し離れたところを見つめ、とりあえずミーアと一緒に転移をしてみる。
「にゃ?」
視界が変わる。今度は転移出来たようだ。
なるほど。部屋内では転移出来るが、部屋の外へは転移出来ないということか。
まだ瞬間転移は出来なく、転移までは数秒かかるが、それでも戦闘で使用できる機会もある。ジャンプして届かない大きな魔物の頭上に転移して、上から攻撃するなどの方法もある。今までも使用してきた方法だ。ボス部屋の中でも使えるのは助かるな。
俺がそんな実験をしていると、シャンテの声が聞こえてくる。
「んん~? トールさーん。あそこに何か石みたいなのがたくさん立ってますよ~。なんですかねぇ~?」
シャンテの視線をたどると、大部屋の隅の方に、膝位の高さの石が、石碑のようにたくさん並んで立っている。
「ほんとだわ。何かしら?」
俺たちは近づいてみる。
「何かしらこれは……なんだか墓石のようだわ……」
「ほんとにゃ。お墓みたいにゃ」
俺はよく見る。確かに墓石のようだ。
この大部屋の壁際には、松明が等間隔に並んでいるが、同時に岩も結構ごろごろと転がっている。
きっと、その岩を集めて、墓石のように地面に立てたように思える。
俺は何気にその数を数えてみる。
23個あった。――23の墓石。
ああ、そうか。
サーシャさんの言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。
かつて36階層に挑んだレイドパーティの人数は24人だった。そして1人だけが生き残った。
きっと生き残った1人が、こうして亡くなった仲間を弔うために、立てたのだろう。
ふと、墓石の近くの壁に目が行く。
壁に文字が刻まれていた。
『こころざし半ばで
散っていった仲間たちに
永遠の安らぎと幸あれ』
俺たちは、その23人の墓に手を合わせて、彼らの冥福を祈った。
「さて、皆、次の階層にいこう」
俺たちは、新たに開いた扉をくぐり、下に向かう。
37階層だ。そこも洞窟型のダンジョンになっていた。
感知スキルを発動しながら、慎重にゆっくりと先へ進む。
特に魔物の気配は感じない。
しばらく進むと、また36階層のときと同じく、洞窟が突き当りとなっていた。
そして、そこに同じように大きな扉と水晶の台座がある。
「トール、どうやら、37階層のボス部屋みたいね」
エミリーが言う。
ケルベロスとの戦いで、今日は皆も疲れているだろう。
さすがにボス級の敵と連戦することは避けたい。
「よし、みんな、今日はここまでにしよう。帰ってゆっくり休むぞ。――転移!」
俺は37階層の扉の前を記憶して、皆と一緒にダンジョンの外へ転移していった。
今度はちゃんと転移できたようだ。
俺たちは、ポルポワール邸の玄関前の庭にいた。
ここの庭にも、手入れされた花壇が整然と並んでいる。
美しい花が咲きほこり、太陽に照らされて眩しく感じる。
ようやく、36階層を制覇した実感が湧いてくる。
皆で、邸宅に入り、ゆっくりと食事をする。
今日の昼食は、うな重だ。
以前、極上のお米とうなぎ肉を料理長に渡したが、どうやら作ってくれたようだ。
「にゃ~。これはすごく美味しいにゃ~」
「うなぎ肉とお米が旨いのじゃ~」
「それに、タレも美味だぞっ!」
「ほんと! おいしい!」
皆もご満悦のようだった。
食事が終わり、ケルベロスのドロップアイテムを確認する。
~~~鑑定~~~
ケルベロスの足輪(アクセサリー:足)
・装備時、体力+15、筋力+15、素早さ+15
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牙の紋章(レアアクセサリー:胸ブローチ)
・装備時、全能力値+30
・攻撃力(AR)+3
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三つ首の髪飾り(ユニークアクセサリー:頭)
・装備時、全能力値+50
・攻撃力(AR)+5
・防御力(DR)+5
・付与スキル:地獄の咆哮
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女神の三つ首の髪飾り(ユニークアクセサリー:頭)
(同上)
・空間ソケット《1》
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ケルベロスの魔石(全能力値+30、AR+2)
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おお! 凄い性能だ!
ついに新たな頭のアクセサリーが出た。今までは皆、ミレアを除き、「風のリボン」を付けている。これは、以前C級ダンジョンで入手したもので、今ではさほど性能の良さは感じない。皆の分も欲しいところだが、俺の分以外では、1つしかないのでしょうがない。
三つ首の髪飾り。なんか狂犬の頭をモチーフにした怪しげな形状だ。3つの頭がついたちょっと不気味な髪飾りだが、見方によっては格好いい感じもするな。
凄い性能だ。今回、アクセサリーにARやDRがついているのは初めてだな。これは現在装備している武器や防具に加算されるのだろうか。そして、付与スキル「地獄の咆哮」――なんだか凄そうなスキルだ。
ケルベロスのあの凄まじい咆哮を思い出す。
そして、普段はさほど魅力を感じないレアや通常アイテムまで高性能で、かなりいいものだ。さすがは階層主、ケルベロスのドロップ品だ。
さて、これらを誰に渡すか考える。前衛向きの装備のようだ。
やはり、今回は前衛の3人に渡そうと思う。
――結果。
三つ首の髪飾りは、ミーア。牙の紋章は、アリシアさん。2つあるケルベロスの足輪は、1つはリンに、1つはアリシアさんに渡した。
これで、前衛3人、特にミーアとアリシアさんの能力がかなり上がったはずだ。
リンは、元々キングキャットのユニークアイテム「猫王の勲章」のブローチを胸に付けているので、その分皆より能力値は高かった。なので、今回の胸装備である紋章はアリシアさんに付けてもらうことにした。
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猫王の勲章(ユニークアクセサリー:胸)
・装備時、すべての能力値+20
・付与スキル 幸運上昇Lv2
・迷宮主と戦う場合に全能力値+10%
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「にゃ~! この髪飾り怪しいけど、すごい性能にゃ~! 力が湧いてくるにゃ~!」
「トール殿、このブローチと足輪も凄いぞっ! 力が溢れて来るぞっ!」
ミーアの猫耳フードに怪しげな三つ首の髪飾りが付いている。
2人とも気に入ってくれたようだ。
他のメンバーも、喜ぶミーアとアリシアさんを、嬉しそうに見つめている。
よし、これで前衛が強化できた。
そして、俺はケルベロスの魔石を手に入れた。これも凄い性能だ。他の魔石の一つと入れ替える。いい感じだ。
そして、今回のケルベロスとの戦いで、レベルもまずまず上がった。
俺の基本レベルを確認すると、460から520に上がった。皆も俺とほぼ同レベルだと思われる。
そして、今回もボーナスSPがかなり貰えた。モルフェンの戦いで上がった分も含めると、皆のSPもかなり貯まっていると思われる。
「わらわはSPがかなり貯まっているのじゃ~。スキル上げをするのじゃ~」
「ミレアも!」
「そうね、ここでスキル強化をしておきたいわね。それに新規スキルもあるわ」
「お兄ちゃん、私は土魔法を少し上げるね。そしてあとはどれをあげようかな~……」
「私は、操糸術などを上げますぅ~。新規スキルもあるし、迷いますねぇ~」
皆は思い思い、ステータスを広げてスキルポイントを使用しているようだ。いい感じだ。
こうして俺たちは、また一段と強くなるのであった。