106話 階層主①
階層主、ケルベロスが現れた。
かなり大きい。三つの首と顔を持つ不気味な魔物だ。
凄まじい強者のオーラを放っている。
―――鑑定―――
ケルベロス Lv950
・犬の魔物
・強力な毒と火炎のブレスを放つ
・強力な噛みつき、爪攻撃
・強力な咆哮にも注意
・全般的に能力が高い
・弱点:無し
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「皆! 毒と火炎に気を付けろ! 前衛は剣と盾でいくぞ!」
「「「おお!!」」」
俺は皆の装備のうち、首飾りを確認する。
皆、毒耐性の大きい首飾りを付けている。コカトリスのユニークアイテムだ。
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ヴァイパーストーン(ユニークアクセサリー:首飾り)
・装備時、魔力+15、精神+50
・付与スキル:石化毒のブレス
・毒耐性(大)
・石化耐性(大)
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よし。とりあえずは毒に対しては大丈夫なはずだ。あとは火炎と物理攻撃に気を付けないといけない。
「皆! 一斉攻撃だ!」
「「「了解!」」」
いつもの一斉攻撃をする。
モフの熾天使の光柱が、降りてきて、ケルベロスを封じる。
シャンテが、ツインマリオネットで、敵を縛り付ける。
エミリーとミレアが、ユニーク弓で風と光の強烈な矢を連射する。
イナリが、多数の大狐火を浮かべ、敵に向かわせる。
リンが、土魔法の魔鉱の槍を連射する。
GYAAAAAAAAAAAAAAA!
後衛の一斉攻撃が敵に炸裂する。
と同時に、ミーア、アリシアさん、俺で、敵の3つの首をそれぞれ剣で攻撃する。
敵の頭の位置はかなり高い。だが、風のブーツを履いている俺たちのジャンプ力で、なんとか届く位置だ。
「おりゃあああ――!」
「にゃにゃにゃあああ――!」
「ハアアアアア――!」
俺は中央の首、ミーアは左の首、アリシアさんは右の首をそれぞれ攻撃する。
GYAAAAAAAAAAAAA!!
敵の首や顔に、剣が炸裂する。敵は苦しそうだ。だが、まだまだ敵は硬い。
シャンテの糸が軋み、モフの光柱が激しく揺れる。凄い抵抗力を感じる。
地面に着地する。更に3人でジャンプして、もう一度攻撃をする。
俺たちがジャンプして、敵の首を攻撃している間に、後衛の皆の遠隔攻撃が一斉に、敵の下半身や足に向かう。
いい連携だ!
GYAAAAAAAAAAAAA!!
更に追撃をする。
――しかし、ケルベロスは猛烈に暴れ出す。
パァアアアア――ン
パキィイイイ――ン
モフの光柱が砕け散り、シャンテの糸が切れる。
三つの獰猛な口からブレスが放たれる。
ビュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウ
「盾を構えろ!」
前衛3人は盾で防ぐ。
後衛はエミリーの結界の中だ。更にモフが光の壁を、結界前に張って防御している。
ミレアが叫ぶ。
「――緑風の舞!」
緑色に輝く風が舞い、ケルベロスのブレスに衝突する。
双方のブレスと風の力がぶつかり霧散する。
ミーアとアリシアさんが、苦しそうだ。敵のブレスの直撃は盾で防いだが、どうやら毒にやられたようだ。
リンが、解毒魔法と回復魔法を、ミーアとアリシアさんにかけるのが見えた。
モフのライトボールが無数に上がる。イナリの狐火も無数に舞う。
GYAAAAAAAAAAA!!
ケルベロスの3つの首に炸裂する。
ミーアとアリシアさんが復活する。
「――シールドタックル!」
俺はシールドタックルを敵の胴体にかます。
敵の動きが一瞬止まる。
元気になったミーアとアリシアさんが、剣で追撃をかける。
だが敵はまだ堅い。攻撃は入っているが敵の体力や防御力はかなり高いようだ。
気が付いたら、俺は吹き飛んでいた。体に激痛が走る。
更に気が付いたら、ミーアとアリシアさんも吹き飛んでいた。
敵の前足の爪攻撃のようだ。
誰かが回復魔法をかけてくれた感覚がした。痛みが引き力が戻る。ミーアとアリシアさんの体にも癒しの光が見える。
俺たちは皆、回復魔法が付与されたユニーク指輪「バルベリタリング」を装備している。
皆が回復魔法を使えるのだ。お互いがお互いを回復し合う。
ミーアとアリシアさんも復活したようだ。
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
更に敵の強烈な火炎のブレスが、後衛のメンバーを襲う。
モフの光の壁が消える。
エミリーの結界が軋む。危ない!
「――灼熱の風!」
イナリが叫ぶ。
敵のブレスに向かって、イナリの放つ燃え上がる炎の風がぶつかる。
炎と炎がぶつかり合い、せめぎ合う。
周囲が振動をたてて揺れ、真っ赤に染まる。
俺は風魔法を使う。
「――ウインドハリケーン!」
イナリの炎に加勢する。
ミレアも風魔法を使い、イナリの炎を敵の方へ推し進める。
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
敵が炎に包まれ、風の力が敵を切り裂く。
皆がそれぞれマナポーションを飲みながら、スキルを連発する。
「皆! もう一度、一斉攻撃だ!」
「「「おう!!」」」
更に一斉攻撃をする。
敵も苦しそうだ。いけるか!?
しかし――ケルベロスの全身に強烈なオーラが揺らめくのが見えた。
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――!!
凄まじい咆哮だ。周囲のすべてがビリビリと激震する。
咆哮の振動が体の芯に響く。
気が付いたら、俺は吹き飛んでいた。全身が痛い。
更に気が付いたら皆も吹き飛んでいた。
エミリーの結界も消えている。
まずい!
「――シールドタックル!」
俺はシールドタックルを敵に入れる。敵に一瞬の硬直ができる。
硬直が解けた瞬間、ケルベロスの全身に強烈なオーラが立ち上り始める。
まずい! また咆哮が来そうだ。
「――防御結界!」
なんとかエミリーが立ち直ったようだ。
皆も、結界に逃げ込んでいる。
しかし敵のオーラは更に上昇している。
「――アースウォール!」
リンが叫ぶ。
結界の前に巨大な土壁が出来る。
「――ファイアウォール!」
イナリも、炎の壁を出現させる。
俺も巨大なウインドシールドを張る。
更に、更に、ケルベロスのオーラが強くなる。
まずい! 防ぎきれるのだろうか!?
そして――ケルベロスが全身を震わせた。
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――!!
アースウォールが砕け散り、ファイアウォールが吹き飛び、ウインドシールドも砕け散る。
敵の咆哮の激震が結界に迫る――
モフが踊っていた。
モフのスキルが伝わって来る。
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空間魔法Lv7 空間操作向上
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エミリーの結界の前に、透明な空間の壁ができたのを感じた。
バァアアアアアアアアアアアアアアア――ン!
ケルベロスの咆哮の激震が、空間の壁に衝突する。
そして、空間の壁が砕け散る。
しかし、エミリーの結界は無事だった!
「モフ! 良くやった!」
モフに黄金林檎を食べさせて、魔力を回復させる。
「皆! 今だ! 全力の一斉攻撃だ!」
「「「おう!」」」
シャンテが、更にツインマリオネットで敵を縛る。
糸に紫電が走るのが見えた。マリオネットの絡みつく糸が紫色に光輝く。
敵が一瞬、痺れる。
ミーアとアリシアさん、リンの3人がシールドタックルを時間差で入れ始めた。
GUAAAAAAAAAAAAA――
ケルベロスは、硬直し痺れている。
イナリの、不死鳥の炎撃が敵を襲う。
更にミレアの、緑風の舞が敵を襲う。
モフが踊り出す。
――チリン ――チリン ――チリン
スキル「鈴の音」が3回鳴った。
パーティーメンバーの全員の幸運値が8倍に跳ね上がる。
ドババババババ――ン
前衛の3人の剣撃がクリティカルに変わる。
俺は女神の装備の魔石を入れ替え始める。
――サイクロプスの魔石(筋力+30、体力+10)
そして、俺の筋力が1200を超えた。
魔剣ラーフィンを握りしめ、ケルベロスに突入する。
「おりゃあああああ――!」
「にゃにゃにゃにゃ――!」
「ハアアアアア――!」
「――シールドバッシュ!」
前衛に加わり、怒涛の剣撃をする。
――すべてがクリティカルとなる。
更に、俺たちの一斉攻撃は続く。
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
そしてついにケルベロスの断末魔の悲鳴が、辺り一面に響き渡った。
徐々に、徐々に、霧のように消えて行くケルベロス。
――天から声が聴こえて来る。
≪階層主『ケルベロス』を討伐しました≫
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
・
・
≪パーティーメンバーのレベルが上がりました≫
――繰り返す天からの声
経験値が体に流れ込んでくるのが分かる。
≪パーティーメンバーのそれぞれに特別ボーナスとしてSPが与えられます≫
――コロン、コロン
≪ケルベロスの通常アイテム『ケルベロスの足輪』をドロップしました≫
――コロン
≪ケルベロスのレアアイテム『牙の紋章』をドロップしました≫
――コロン
≪ケルベロスのユニークアイテム『三つ首の髪飾り』をドロップしました≫
≪ケルベロスの上位ユニークアイテム『女神の三つ首の髪飾り』をドロップしました≫
「や、やった、みんな! やったぞ!!」
「にゃにゃにゃ――! やったのにゃあああ!!」
「やったのじゃあああ!!」
「「おおお――!」」
「「やった――!」」
こうして俺たちは、階層主ケルベロスを倒し、勝利の雄たけびを上げるのだった。