101話 33階層 風化した石像
朝が来た。
昨日もブランダさんに、新たに入手したレアアイテムを買い取ってもらった。
そして、商売とオークションの方も順調に進んでいるとのことだった。いいことだ。
モンスターハウスで得た大量のアイテムについては、いろいろな種類の魔物がいたので、まだ整理がついていない。追々整理していこうと思う。
ただ、気になるドラゴンゾンビのドロップアイテムについては確認した。実は運よく、ユニークアイテムとレアアイテムを入手出来ていたのだ。
~~~鑑定~~~
死竜の牙(素材)
・強力な武器素材となる
・闇属性を持つ
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死竜の鱗(レア素材)
・強力な武器や防具の素材となる
・闇属性を持つ
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瘴気の杖(ユニーク武器:杖)
・攻撃力(AR)10
・瘴気を操ることができる
・付与スキル:瘴気拡散、瘴気吸収
・瘴気吸収容量(大)
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通常アイテムとレアアイテムについては、闇属性を持つが、素材としてはなかなか面白そうだ。
どう扱えばいいかよく分からないが、死竜の素材なんて、滅多にお目にかかれない物ではないだろうか。希少なアイテムだと思われる。
そして、ユニークアイテムだが、なんだか怪しげな杖だ。杖の頭に髑髏のようなものが付いている黒い杖だ。
瘴気を操ることができる、とのことで、瘴気拡散と瘴気吸収というスキルが付与されている。なんだかヤバそうな気がするな。
ふと思う。もしかしてこの杖で、30階層以降のダンジョンに漂う瘴気を吸収し、取り除けるのではないだろうか? 瘴気が無くなれば、ひょっとするとレベルも上がりやすくなるのかもしれない。
しかし、ダンジョン内は広大だ。絶えず出て来る瘴気をこの杖1本ですべて吸収できるとは思えない。だがまあ、一度試してみるのもいいかもしれないな。
魔石の方については、ソケット効果はなかなか優秀なものだった。
・ドラゴンゾンビの魔石(幸運値を除く全能力値+13)
幸運値の上昇は無いが、それ以外での能力値上昇はすばらしい。さすがレベル666の魔物の魔石だ。元がアンデッドの魔物の魔石なので、幸運がないというのもなんとなく分かる気がするな。
ちなみに最近入手した注目の魔石は2つある。
・フロストホーク(Lv410)の魔石(全能力値+7)
・サイクロプス(Lv390)の魔石(体力+10、筋力+30)
こちらはなかなか使えそうだ。特に現在は、女神の装備の空間ソケットには、フロストホークの魔石をメインに入れている。筋力特化にする場合は、サイクロプスの魔石を入れてもいいだろう。
さて、今日は33階層からの攻略になる。
皆が集まり次第、転移して33階層に入る。
33階層は、草原と言うほどではないが、かなり広く、地面には草が生えていた。
相変わらず瘴気が漂っている。
俺は瘴気の杖を取り出し、この瘴気を杖で吸収出来ないか試してみることにした。
「にゃ~不気味な杖だにゃ~」
「本当にこれで瘴気を取り込めるのかしら?」
俺は瘴気の杖をかざしてスキル発動を念じてみる。
「――瘴気吸収!」
階層内に漂う瘴気が、少しづつ杖に集まってくる感覚があった。
「おおお……確かに瘴気を取り込んでるみたいだぞ!」
しかし、取り込む先から、どんどん階層内から瘴気が出て来る。
しばらく続けてみる。取り込んでも取り込んでも、やはりダンジョン全体から瘴気が出て来るようだ。
杖に瘴気が溜まって行き、だんだんと容量がいっぱいになる感覚があった。ダンジョンの奥から絶えず瘴気が流れ込んでくる。
うん、やはりこれは無理みたいだな。あまりにもダンジョンが広すぎるのだ。局所的に瘴気が溜まっているのなら取り除けたのかもしれないが……。
俺は諦めて、そっと杖に溜まった瘴気をダンジョン内に解放した。
「う~ん、さすがに無理みたいだな。とりあえず実験は失敗だ」
「まあ、こんなに広いんじゃしょうがないわね」
とりあえず、瘴気の杖はアイテムボックスにしまうことにする。
「さて、探索を続けるか」
しばらく歩いていると、草むらに石のようなものが立っているのが見えた。
「にゃ? あれは何かにゃ?」
「人間みたいな形の石なのじゃー」
「なにかの石像なのかしら?」
近づいてよく見る。
俺の鑑定機能が自然と発動してくる。
「ん?……。こ、これは!?」
―――鑑定―――
マークス Lv393
・A級冒険者(石化)
・すでに死んでいるようだ……。
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「うぉっ! に、人間だ!」
「にゃ! ど、どういうことかにゃ!?」
「い、石にされてるみたいだぞっ!」
「ほ、本当だわ! 生きたまま石にされたようだわ!」
その時だった――急に草むらの奥から巨大な魔物が現れた。
クゥワアアアアアア!
咆哮する魔物。巨大な鶏のような怪鳥だ!
―――鑑定―――
コカトリス Lv430
・鶏型の魔物
・石化を伴う毒攻撃をしてくる
・嘴の攻撃にも注意
・弱点:やや炎系等
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石化を伴う毒攻撃!? やばい!
「エミリー! エルフの結界を張ってくれ!」
「えっ!? わ、分かったわ! ――エルフの結界!」
エミリーが結界を張ると同時に、コカトリスの口から灰色のブレスが放たれた。
ブゥウウウウウウウウウウウ!
結界に阻まれる灰色のブレス。しかし――。
「にゃ……あ……」
結界の内側からはみ出ていたミーアが、ブレスをもろに浴びたのが見えた。
「「み、ミーア!!」」
ミーアが石化していた。しっぽが逆立ったまま固まっている。顔も、気の抜けた変顔のまま固まっているのが見える。
「皆! エメラルドポーションだ!」
ミーアに向けて、状態異常全般を治す効果のあるポーションを、一斉に投げる。ポーションの液体を大量に浴びるミーア。
シャンテが急いで糸の網をミーアに放ち、結界の中に引き入れる。
「にゃ……み、みんな……ありが…とう…にゃ……」
ミーアが回復したようだ。
「――大狐火!」
イナリがコカトリスに向けて大きな狐火を複数放つ。
「クゥアアアアアアアアアアアアアア!!」
コカトリスは燃え上がり、霧となって消えていった。
ふう~危なかった。
一旦石になりかけたミーアだったが、どうやら元通り回復したようだ。多少まだ動きがギクシャクしているようだが……。
恐らくミーアの実質レベルが高く、精神も上がっているので、完全な石化は防げたのではないだろうか。
しかし油断は禁物だ。
俺はこの階層だけ、少し装備の魔石を変更することにした。
・サキュバスクイーンの魔石(精神+30)
この魔石をとりあえず10個ほど、交換した。これで今まで以上に精神値が上がったはずだ。
前衛は俺が務めることにする。そして感知スキルを油断なく発動しながら進む。
エミリーは俺の背後で、エルフの結界をすぐに張れるように準備をしている。皆はなるべくエミリーから離れないようにかたまって歩くようにする。
そして、コカトリスを見つけたら、一斉に遠隔からの先制攻撃だ。特にイナリの炎系等の攻撃が有効のようだ。やられる前にやるのが一番安全だな。
こうして、俺たちはコカトリスを狩り続け、ドロップアイテムを大量に得るのだった。
~~~鑑定~~~
コカトリスの羽毛(素材)
・軽く丈夫な上質な羽毛
・服や毛布など、裁縫素材として最適
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コカトリスの尻尾(レア素材)
・毒蛇の形をした尻尾
・希少な錬金用素材として用いられる
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ヴァイパーストーン(ユニークアクセサリー:首飾り)
・装備時、魔力+15、精神+50
・付与スキル:石化毒のブレス
・毒耐性(大)
・石化耐性(大)
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女神のヴァイパーストーン(ユニークアクセサリー:首飾り)
(同上)
・空間ソケット《1》
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うわあ……これまた凄いユニーク首飾りが出て来たな。「石化毒のブレス」なんて付与スキルも付いている。なんか危なそうだな。
まあ、能力値上昇もなかなかのものだし、毒や石化の耐性を大きく上げることが出来る首飾りは、敵によっては、今後重要になってくるかもしれない。これは、人数分集めた方がいいような気がする。
こうして俺たちは、更にコカトリスを狩り続け、ヴァイパーストーンを人数分そろえたのだった。
その後、石になった冒険者のところに、皆で戻った。
エメラルドポーションをかけてみたが、変化は起こらなかった。
石はすでにかなり風化しており、長い年月が経っているように思える。
一体いつから彼はここに立ち続けていたのだろう。
俺は以前、月夜の晩に、エミリーと話したときのことを思い出す。
――人は死ぬといずれ世界樹のもとに戻り、また世界樹から生を得てこの世界のどこかに生まれ変わる。こうして命は循環していく――と。
俺たちは、その石になった冒険者――マークスさんの足元に花束を添えて、手を合わせ冥福を祈った。
願わくば、今度生まれ変わるときは、幸せな人生でありますようにと――。