100話 冒険者ギルド本部にて
冒険者ギルドの本部にやって来た。
エミリーたち3人組は、以前王都で冒険者活動をしていたので、来たことはあるようだ。
シャンテも地元なので、何度か出入りしたことはあると言っていた。俺やリンなど、他のメンバーは初めてだ。
ギルド内はかなり広い。フォレスタの冒険者ギルドの数倍はあるようだ。
受付カウンターに数人の女性職員がいる。
俺は受付の女性職員の一人に声をかける。若いがベテランっぽい感じのする職員さんだ。
「すいませーん。売却したいアイテムがあるのですが、お願いできますか? 少し数が多いのですが」
聞きたいのはA級ダンジョンの下階層の情報だが、いきなり相談するよりは、まずはアイテム売却をしながら、ゆっくりとコミュニケーションを取っていこうと思う。
「はい、大丈夫ですよー。大口の買取りは歓迎ですよ。それでは、ギルドカードの提示をお願いします」
俺はギルドカードを渡す。
「えーっと、フォレスタ支部所属のトールさんですね。……ん? あれ?……」
その職員さんは小首をかしげて、何かを思い出そうとする素振りを見せた。
「――あっ! もしかして、"あの"トールさんですか!? フォレスタの街で魔族を倒したという……」
え……なんで知ってるんだろう、この人。
「あー、ええ、まあ……ここにいる俺たちのパーティーと一緒にね……」
倒したというか、ニバラスが死霊魔法の自爆攻撃で勝手に倒れたんだけどね……。まあ、そこまで追いつめたのは俺たちなので、倒したと言ってもいいのか。
「えっと、それから、トールさんは、C級ダンジョンでイレギュラー迷宮主に遭遇したのですよね!?」
「あ、はい。その通りなのですが……。どうしてご存じなのですか?」
「はい、以前に、フォレスタ支部長のギードさんから、私どもの方に報告が上がってきてましたので」
ああ、そう言えば以前、ギードさんは、迷宮主のイレギュラー発生の件を報告するとか言ってたな。
それにフォレスタの街が襲われたことも重要なことなので、こちらについても報告をしているのは頷ける。
「あっ、申し遅れました。私はギルド本部職員、受付主任のサーシャと申します。皆さま、どうぞこちらへ。個室で対応させていただきます」
サーシャさんはそう言って、俺たちを個室に案内してくれた。
その個室は、広く高級そうな部屋だった。10人くらい座れるソファーセットがあり、買取用のテーブルスペースもあった。
先に、アイテムの買取りをしてもらう。
とりあえず、今日手に入れたオルトロスとフロストホークのドロップアイテムの一部を買い取ってもらう。
「こ、これはすごいですよ! 皆さん! 30階層のオルトロス、それに31階層のフロストホークのレアアイテムじゃないですか! 通常アイテムでもこれらの物は高く売れますよ。それがこんなにたくさんあるなんて!」
大量の高レベルの魔物のドロップ品に、サーシャさんは興奮しているようだ。
まだまだ残りはあるが、ブランダさんに売却する分と、自分たち用の在庫として少しは取っておくつもりだ。
モンスターハウスで入手したアイテムも大量にあるが、整理が出来ていないので、今回は出さないことにした。
買取りが終わり、サーシャさんと一緒に皆でソファーに座る。一息つき、紅茶を飲みながら雑談を交わす。
俺はサーシャさんに、A級ダンジョンのことについて聞いてみる。
「ところで、サーシャさん、A級ダンジョンの下階層について、知っていることがあれば教えていただきたいのですが……。そうですね、例えば、30階層以降はレベルが上がりにくい、という噂を聞いたのですが、実際自分たちの体験でもそのようでした。それ以外にも、何か注意するべきこととかがあれば教えていただきたいのですが……」
エミリーもサーシャさんに話しかける。
「それから、そもそもA級ダンジョンの最下層が、一体何階層なのかが知りたいのです。以前、公共図書館で調べたところでは不明でした。そして、今までの冒険者たちで、最高でどの階層まで到達出来ているかも気になるところですね……」
「なるほど、分かりました。今現在、A級ダンジョンについて、本部で把握していることをお話します。まず、30階層以降、レベルが上がりにくくなることについては、すでに多くのA級冒険者が経験しています。原因については、分かりませんが、恐らく瘴気が影響しているものと思われます。この瘴気はダンジョン固有のもののようで、この影響から逃れることは出来ないようです」
更にサーシャさんは話し続ける。
「A級ダンジョンの最下層が何階層なのかは、未だ不明です。そして、現時点での冒険者たちの最高到達階は恐らく36階層だと思われます。その……36階層には、何かあるらしいのです。ギルドの記録では、その階層に入って生きて帰れた冒険者は、一人を除き、誰もいません。その生還出来た冒険者は、パーティーメンバー全員を失っています。一体何があったのか――彼は口を閉ざし、怯えたようになかなか状況を話してくれず、冒険者を引退していずこかへ去って行った、と当時の記録に残されています。まあ100年近くも前のことですが……」
サーシャさんは、悲しそうにそう話した。
そして、一息ついた後で更に話始める。
「それと、これはここだけの話ですが、ここ最近、35階層でレベル上げをしていた、一流の冒険者パーティーが何者かに襲われて全滅したとの報告も上がってきているのです。後に残された彼らのギルドカードを、他のA級冒険者パーティーが回収してくれました。カードを特殊な魔道具で解析した結果、正体不明の魔物に襲われたとしか、いいようのないものでした。カードの状態がどれも悪く詳細な状況が分からなかったのです……」
サーシャさんは、続けて話す。
「また、少し前のことですが、B級ダンジョンの一つで迷宮主のイレギュラーが起きました。残念ながら、挑戦したパーティーは全滅しました。ここ最近は、ダンジョン内で不可解な事件が多いのです。皆さんも十分気を付けてくださいね」
そういえば、以前、ギードさんがそんなことを言っていたな。王都でも迷宮主のイレギュラーが起こったと……。
「サーシャさん、情報をありがとうございます。私たちも気を付けるようにします」
「はい。あ、それともう一つ大事なことがあります。32階層に行くときは、気を付けてください。ダンジョンの通路の途中に大きな広場があるのですが、そこをそのまま通ると、落とし穴になっていて、魔物のたまり場になっている地下部屋に落ちてしまいますので。いわゆるモンスターハウスという危険な罠ですね。広場をそのまま通ろうとせず、必ず壁際に沿って歩いてくださいね。このことは、30階層以降を挑戦するA級冒険者たちに、周知徹底してはいるのですが、たまに知らずに落ちて亡くなる冒険者たちもいるんですよね……。まあ、気の毒なことですが、仮りにも冒険者。魔物がいなく、あからさまに大きな広場があるのに、何も警戒せず踏み込むなんて、軽率にも程がありますよね」
「あ…………」
「にゃ…………」
「は…はい……そ、そうですよね……」
皆の目が灰色になっている。その情報は先に聞いておきたかったものだ。
うん、やはり、事前情報というのは大事だな。
しかし、サーシャさん、意外と毒舌なところがあるな……。
「あの……皆さん、どうされました?」
言えない。とてもじゃないけど言えない。魔物がいないことを良いことに、呑気に広場のど真ん中で弁当を食べようとしてたなんてことを……。
「あ、いえいえ、なんでもないです。と、とにかくいろいろな情報をありがとうございました」
こうして、そのモンスターハウスに俺たちが落ちたことは内緒にして、皆で個室を出るのだった。
夕方になった。
ギルド内は、ダンジョン帰りの冒険者でいっぱいになってくる。
冒険者の中には、以前食事処で会ったようなガラの悪そうな人たちもチラホラと見える。
やはり、一攫千金を狙って世界樹の泉探しをしている荒くれ冒険者たちも多そうだ。
ここはギルド内なので、前のように絡まれることはないとは思うが一応用心しよう。
「にゃ~、ギルド内の酒場もいいにゃ~」
「わらわは、お酒とお肉がいいのじゃ~」
「ミレアもお腹空いた!」
ミーアたちがギルド内の酒場で何か食べたそうなので、とりあえずテーブルに着き、適当に注文する。
俺は先ほどの36階層の話が気になっていた。そして、35階層での一流冒険者パーティーの不審死――。
一体何があったのだろう。
俺は少し物思いに沈みながら、エールを飲むのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます。100話まできました (*´∀`)