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1話 スライムを狩る最弱冒険者


「エイッ!」


 錆びたナイフを振りかざす。


 ズサッ! ――コロン


 今、俺はダンジョンの1階層でスライムを狩っている。


 消えて行くスライムから魔石が落ちる。魔石を拾い腰に下げている袋に入れる。


「ふぅ~、今日はこれで50匹目か……」


 毎日変わり映えのしない日々。そういえばもう1年になるな……。

 

 俺の名前はトール。18歳だ。

 1年前に冒険者になりダンジョンに入った。


 しかし、未だにダンジョンの1階層でスライムのみを狩っている。1階層の魔物はスライムしか出てこない。


 そして俺の現在のレベルは3。


 魔物を倒せば経験値が得られレベルが上がるが、レベルが3になってからは、いくらスライムを倒してもこれ以上レベルが上ることはなかった。

 最弱のスライムでは経験値が少なく、おそらくここで限界なのだろう。


 それならば、2階層でスライムより強い魔物を倒せばいいのだが、残念ながら俺にはその力がないのだ。

 

 なぜなら、俺にはスキルが一つも無いからだ。

 

 スキルとは、例えば剣術や魔法、身体を強化できるものなどたくさんの種類があり、いずれも魔物との戦闘を有利に進めていくのに必要なものだ。


 通常、冒険者になるためには、教会や冒険者ギルドなどで、この世界の神の洗礼の儀式を受ける必要がある。

 その洗礼を受けて初めて「ステータス」と呼ばれる、自身のレベルや能力を向上させ、客観的に観ることのできる不思議な力を得ることが出来る。

 

 そして、ステータスを得た際には、必ずなんらかの初期スキルが与えられる。


 初期スキルの種類や数は、その人の才能や潜在能力によって変わってくる。より強いスキルや複数のスキルを得た者は、将来冒険者として成功する可能性が高いと言える。


 そしてレベルが上がるにつれ、才能や努力に応じなんらかの追加スキルを習得することも可能だ。


 しかし、俺はなぜか初期スキルが与えられなかった。しかもレベルが3で成長が止まったため、追加スキルも得られずにいた。


 レベルを上げるため、2階層の魔物に挑戦しようとしたこともあったが、そのことを知った冒険者ギルドの職員に、止められてしまった。今のまま挑戦したら確実に死ぬとも言われた。

 

 ちなみに2階層で出てくる魔物はホーンラビットという(うさぎ)の魔物で、鋭い角を持っており、すばやく突進してくる、Lv5の魔物だ。確かに今の俺では格上の魔物だ。


 同期の冒険者がスキルを利用して、2階層以降を突破しどんどんと成長していく中、俺だけが2階層の壁を破れずに、今でもこうして1階層で燻り続けている。


「はぁ~、俺にもスキルがあればなあ……」


 何度思ったことか……。


 今日はこれで切り上げるとしよう。

 スライムの魔石50個とたまに落とすスライムゼリー10個が今日の収穫だ。

 儲けは少ないが、これらを売って貧しいながらなんとか生活出来ているからまあいっか……いや、良くはないか……。

 

 ――俺はいつものように冒険者ギルドに立ち寄り、今日の収穫を売却して帰宅した。




「お兄ちゃん、おかえり~」


 家に帰るといつものように妹のリンの明るい声が聞こえてくる。


「夕食出来てるから、早くうがい手洗いしてね~」

「ほーい」


 リンは俺より三歳歳下の妹だ。

 両親は四年前に事故で亡くなっており、今は妹と二人暮らしだ。


「お、今日は肉の入ったスープか。うまそうだな」


 食卓に肉が出るのは久しぶりだ。


「えへへ、おいしそうでしょ~。今日は少し奮発してみたよ! まあ、お肉は高いから少ししか入ってないけどね。でも庭で育てた野菜がたっぷり入ってるよ。それに山で採ってきた山菜もね」


 少しドヤ顔で腰に手を当て胸を張るリン。

 サイドテールにした短めの黒髪が活発そうに揺れる。

 いつもの食卓の風景だ。



 食事が終わり、自分の部屋のベッドに寝そべり、天井を見上げる。


「よし、そろそろ実行に移すか。だいぶ準備も整ってきたしな」


 俺は何日も前から考え準備してきたことがある。

 スキルが無いなら、武器や防具をしっかりとそろえて2階層での戦いに挑むということだ。今の武器ではあまりにも心もとない。しかも防具は付けてなく、ただの布の服だ。

 お金が無くて今までまともな装備を買えなかったが、少ない日銭の中から少しづつ貯金をして、やっとある程度貯まった。

 明日、武具屋に行こう。そして装備を整えて、いよいよ2階層に挑戦だ。


 少し明るい気持ちになり、俺はそのまま眠りについた。





「お兄ちゃん! そろそろ起きる時間だよ!」


妹のリンが布団にくるまっている俺を揺さぶっている。


 眠い……もう少し寝かせて欲しい……。


「今日は早めに起きるって言ってたでしょ? それにもう朝食の準備もできてるんだよ! はーやーくー起きろー、リン・ダーイブ!!」


「ぐえええ!?」


 リンが、布団にくるまっている俺の上から強烈なボディープレスをかましてくる。


「わかった、わかった、起きるよ~。……痛たた……」


リンはニマーっと笑い、手首をヒラヒラさせながらリビングに戻っていく。


 いつもながらアグレッシブな起こし方だ。


 しかしまあアレだな。

 リンは元気がいいけど、やっぱり女の子だけあって華奢で軽いし体も柔らかいから、たいしたダメージはないな。

 ふっふっふー、レベル3の冒険者を舐めるなー。


 と、まあそんなことはどうでもいい。

そうそう、今日は武具屋に行くんだったな。俺はそれを思い出して少しワクワクした気持ちになった。

 やっぱり、武器防具の購入は冒険者にとって憧れだな。


 俺は朝食の最中、リンのおしゃべりを適当に流しながら、新しい武器防具のことに思いを馳せるのだった。




 ――武具店にやってきた。


「いらっしゃいませー」


 店内には様々な武器や防具が所狭しと置いてある。


「おおー、いろいろあるな」


 目的の武具は、剣と鎧だ。端からひとつずつ物色する。


「う~ん、結構高いな……手持ちのお金では両方は買えないな……」


 さてどうするか考えていると、短剣のコーナーが目に留まった。


「お、短剣なら剣より安いな。これなら両方ぎりぎり買えるかも」



 最終的に俺は、鉄の短剣と皮のよろいを買った。売り物の中ではかなりの安物だが、俺の少ない元手ではしょうがない。


 それでも、短剣は、今まで使っていた錆びたナイフより長く丈夫で切れ味も良さそうだった。また、鎧の方は軽量で動きやすく、まずまずの防御力が期待出来そうだ。今まではただの布の服だったことを考えると大きな進歩だ。


「毎度あり~」


 新しい武具を購入した俺は、高揚した気分でダンジョンへと向かった――。




「――うん、いい感じだな」


 ダンジョンに来た俺は、皮の鎧を身に着け、新しい短剣を握りしめ、スライムを狩りながら装備の具合を確かめる。

 短剣は、以前の錆びたナイフより、刃渡りが長く戦いやすく、格段と切れ味が増している。鎧は、動きやすく身に着けていると安心感がある。


 しばらくスライムを狩りながら装備を体に馴染ませ、体を暖めていく。

 ダンジョンを奥へ進んでいくと、2階層への入り口が見えてきた。


 いよいよ2階層へ挑戦するのだ。


お読みいただきありがとうございます。よろしくお願いいたします。


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