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7.この場所は渡さない(マーガレット)

翌年、私の七歳の誕生日に小さなお披露目会が伯爵家で行われた。


水色の可愛らしいドレスと大きなリボンの髪飾りは気に入ったけれど、

お姫様のようだったお姉様のことが忘れられなくて、

私がドレスを着ても似合わないような気がして恥ずかしくなった。


だけど、お父様とお母様と一緒に挨拶すると招待客はみんな褒めてくれた。

礼儀正しいお嬢さんだ。成長するのが楽しみですね。

なんて可愛らしい令嬢だ。うちの息子に会わせてみたいわ。

そんな風に褒められていると、そうなのかなと思う。


お姉様は呼ばれていなかった。

あのキラキラした公爵家の人も来なかった。

そのことがうれしくて、その日はずっと笑っていた。


私しかいなかったら比べられないんだ。

お姉様がいなければ、私はお姫様でいられる。


次の日の朝食でお姉様がいなかったことを聞いてみたら、

お父様はすぐに不機嫌になる。まるでお姉様のことは話したくないみたい。


「お父様、お姉様っていつ伯爵家に戻ってくるの?」


「もう戻すつもりはない。あれはもうどうでもいい」


「そうなんだ」


そっか。お父様に捨てられちゃったんだ。

お父様はお姉様の名前すら呼ばない。


それを聞いたお母様もうなずいただけで何も言わなかった。

お姉様って、お父様だけでなくお母様にも嫌われているんだ。

じゃあ、もう帰ってこないよね。


あんなに綺麗でうらやましかったお姉様がかわいそうになった。

私はお父様とお母様にこんなにも愛されているのに。


それから毎年お姉様の誕生会には呼ばれたけれど、

ちょっと挨拶をしたらすぐに帰っていた。

公爵家から呼ばれたから行かなくちゃいけないらしいけれど、

挨拶だけすればいいんだってわかった。


あいかわらずお姉様は綺麗で、キラキラ輝いて見えたけれど、

もう関わらなければいいと思っていた。




なのに、お姉様が帰ってくる。

この伯爵家に。ここは私の場所なのに。


ついこの前、お父様とお母様が喧嘩していた。

夜中だったけれど、大きな声で起きてしまった。


「嫌よ!どうして断らないのよ!」


「仕方ないだろう!俺だって断れるなら断っている。

 第二妃はどうでもいいが、生家のファロ伯爵家からは金を借りているんだ。

 それを帳消しにしてくれるというなら引き受けないわけにはいかない」


「でも!あの子がここに帰って来るなんて!」


「わかってる。俺だって嫌だ」


「そんな……」


あの子が帰ってくる?まさか、お姉様が?


「心配するな、俺には考えがある」


「……どういうことなの?」


声が小さくなったから、会話が聞こえなくなってしまった。

お姉様が帰って来るかもしれないと思うと不安で、その後は眠れなかった。

朝食も食べたくなくて、スープしか入らなかった。

それを見て、私付きの侍女ベティが心配そうな顔をする。


「お嬢様、どうしたんですか?」


「眠れなかったの」


「何か心配なことでも?」


いつもそばにいてくれるベティは私が悩んでいるのに気がついてくれた。

ベティに相談したら、この不安は消えるかな。


「あのね、お姉様がここに帰って来るかもしれないの」


「お姉様というと、公爵家にいるアリアンヌ様ですね?」


「そう。どうしよう……帰ってきてほしくないの。

 私の大事な場所が奪われてしまうかもしれない」


あんなに綺麗なお姉様がここに来たら、もう私は褒められなくなってしまう。

ベティだって、お姉様のほうがいいって言いだすかもしれない。

そしたら私はどうしたらいいんだろう。


「大丈夫です。ベティはお嬢様だけの味方です」


「そうなの?」


「ええ。お嬢様を不安にさせるなんて。

 やはり公爵家で育てられたアリアンヌ様は傲慢だって話、本当なんですね」


お姉様にそんな噂があったんだ。

知らなかったけれど、お父様とお母様がお姉様を嫌っているのはそれなのかも。


「ベティ、私はどうしたらいい?」


「お嬢様、向こうが本性をあらわす前に叩きのめしてしまいましょう。

 この家を継ぐのはお嬢様です。みんな、お嬢様の味方ですよ」


「ありがとう!」






伯爵家に帰ってきたお姉様は嫌がって泣いていたそうだ。

生まれた家に帰ったというのに泣いているってどういうつもりなんだろう。

お父様とお母様に失礼だと思わないんだろうか。


あの噂は本当だったんだ。

伯爵令嬢なのに、公爵家で育ったから勘違いしているって。

自分も公爵令嬢のようにふるまって、周りから嫌われているって。


食事も呼ばれたのに来なくって、私たちが食事を始めてからやっと来た。

泣きはらした顔で、不貞腐れたままだった。

私たちに久しぶりに会うのに、うれしそうな顔をするわけでもなく、

会話もなく嫌そうに食事をするだけ。


ベティを見たら、うなずいている。

少しだけあった罪悪感なんて無くなっていた。

そんなに私たちと食事をするのが嫌なら、お望み通りにしてあげる。


お姉様が小さなため息をついたのが聞こえて、

我慢しきれずににらみつけた。

それに気がついたお姉様が私を見て、一瞬だけ視線があった。


すぐに目をそらして、身体を震わす。

お姉様が来てから、食事の手は止めていた。

隣に座っているお母様が私が食べていないのに気がついてくれた。




「ねぇ、あなた。やはりアリアンヌを自由にさせるわけにはいかないわ。

 マーガレットに何かあってからでは遅いのよ」


「うむ。そうだな。アリアンヌは離れに閉じ込めておけ」



計画よりもずっとうまくいった。

本当はとりあえず今日はお姉様を叱ってもらうだけのつもりだった。

何度もお姉様に意地悪されたって言えば離れに閉じ込めてくれると思っていた。

まさか一度目で成功するとは思っていなかった。


「これで静かに暮らせるな」


「ええ。食事が美味しく食べられるわね」


うれしそうに食事を再開したお父様たちに笑いかける。


「お父様、今日のデザートは苺プリンなのよ!」


「おお、そうか。マーガレットは苺が好きだな」


「うん!大好き!」


やっぱり私の家族はお父様とお母様だけでいい。

お姉様がいないほうがみんな笑顔だもの。







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