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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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60.幸せの場所

きゃはははと笑い声がここまで聞こえている。

少し離れたところで遊んでいるのは娘のリリアーヌだ。

もうすぐ四歳になる。


精霊の泉の水を両手ですくい、精霊たちにかけて遊んでいるが、

他の精霊たちが必死でリリアーヌが泉に落ちないように引っ張っているのが見える。


ふわふわの白銀の髪に紫目。生まれてすぐから精霊がまわりで遊び始めた。

精霊教会に行かなくてもわかる。リリアーヌも特級だ。


「今日は少し暑いね」


「ええ、冷たい飲み物にしてちょうどよかったわ」


仕事が終わったのか、腕まくりしたリオが椅子に座る。

こうしてお茶を飲みながらリリアーヌが遊ぶのを見るのが日課だ。

楽しいのかまた笑っているリリアーヌに、リオの目が柔らかく細まる。


冷たいお茶は甘く、こくりと喉を通っていく。

リオがお茶を飲んで、少しだけ冷えた声を出した。


「昨日、ラザールが王宮に戻ったそうだ。

 本当に良かったのか?ラザールを戻しても」


「ええ、だって。精霊の処罰は消えたのでしょう?

 だったら、ラザール様を咎める気はないわ」


「それならいいけど」


離宮に閉じ込められていたラザール様が、

身体にあった精霊の処罰が消えたと報告が来たのは半年ほど前のことだった。

クリステル王女と結婚したことで王族に籍が残っているラザール様を、

今後どうするかの話し合いがもたれた。


一番は被害者である私の気持ちを優先すると言われ、

気にしていないので王宮に戻していいと答えた。


その答えが不満なのか、リオは度々こうして聞いてくる。

どこか遠くの王領に行かせることもできるんだぞと。

ジスラン様にも本当にいいのかと何度か聞かれた。


そんなに心配しなくても大丈夫だと思う。

ラザール様は私に何かしようなんて思っていない。


「もともと、私と婚約したのはラザール様のせいじゃないもの。

 ラザール様を王太子にしたいとカリーヌ様が思ったせいであっても、

 ラザール様がそれを望んだわけじゃない。

 大人に振り回されたということなら、ラザール様も被害者だわ」


「それはそうかもしれないが、あいつは十分にアリアを傷つけた」


「ええ、だからこそ精霊の処罰を受けた。

 でも、それが消えたってことは真摯に反省してくれたのよね?」


「それは間違いない。精霊王は公平に見ているはずだ」


「なら、いいじゃない。

 それに、幽閉されていた間、真面目に勉強していたって聞いたわ」


ラザール様は私のことでカリーヌ様との関係も見直したらしく、

幽閉されていた間、独学で学び直したそうだ。

王族として、少しでも人の役に立てるようにと。


そして、王宮に戻れなくてもいい。

どこでもいいから、働かせてほしいと願ったそうだ。


「今なら、ジスラン様の手伝いができるんじゃないかしら」


「……まぁ、今後の働き次第だな。

 最初から国王の側近にできるわけがない。

 まずは文官として使えるかどうか、それからだ」


「ふふ。楽しみね」


完全に身体が黒くなってしまった者のうち、消えたのはラザール様だけだ。

他の者たちはまだ離宮で幽閉されている。

最近、マーガレットもそこに移されたと聞いた。


ずっとマーガレットは私がいた離れに閉じ込められていた。

反省するまで、反省しなければ死ぬまでそこにいるはずだったが、

離れを管理してくれていた家令の体力が限界になったらしい。

他の者に任せることもできず、仕方なく離宮に移動させた。


離宮にはまだカリーヌ様、クリステル王女がいる。

使用人として働いている令息令嬢たちも。

争いが絶えないと聞いているが、マーガレットがそこでやっていけるのか。


もうマーガレットを思い出すことも少なくなってきた。

そろそろ離宮の報告も聞かなくていいかと思っている。

何があっても知らせなくていいとジスラン様に言ってみようかな。



「お母様ぁ」


「ん?どうしたの?」


さっきまで楽しそうに遊んでいたリリアーヌが泣きそうになっている。

どうしたのかと抱き上げたら、不安そうにぎゅっと抱き着いてきた。


「あのね、明日私も王宮に行くんでしょ?」


「ええ、そうね」


「精霊がリリーもいなくなるんじゃないかって言うの」


「え?」


「ここに帰って来れなくなるよって。本当?」


思わずリオと目を合わせる。

精霊がちゃんと言葉を伝えて来ることはない。

だけど、なんとなく通じることはある。


精霊たちがリリアーヌがどこかに行ってしまうかもと不安がっているって。

どうして?明日の王宮はユベール王子と顔を合わせるだけなのに。


もしかして、私のようにどこかに連れ去られることを心配している?

リリアーヌを連れ去るような権力は誰も持っていないし、

リオがそれを認めるわけがない。


「大丈夫よ。お茶会が終わればまた帰って来るわよ」


「そうなの?」


「ええ。リリーがいなくなったりはしないわ」


「どうして精霊たちはダメだっていうのかな」


うーん。考えられるとしたら、一つだけ。

精霊たちはリリアーヌがユベール王子の妃になると思っている?

たしかにそうなるかもしれないけれど。ずっと先の話だ。


それを聞いていたリオが渋い顔でリリアーヌを抱き上げる。


「リリーはどこにも行かなくていいんだよ。

 ずっとデュノア公爵家にいよう」


「うん!お父様とお母様とずっと一緒にいる!」


その言葉に満面の笑みを浮かべるけれど、そんなこと言っていいのかしら。


「リリーがこの家から出るとしたら、幸せになる時だけよ」


「幸せ?」


「ええ。ずっと一緒にいたい、この人がいいって、そんな人と出会った時だわ。

 その時は、お父様とお母様も、精霊も祝福するはずだから。

 安心していいのよ?」


「わかった!精霊にも言ってくる!」


リオの腕からするりと抜け出すように降りると、リリアーヌは泉へと走っていく。

筆頭公爵家の令嬢なのに、こんなにお転婆で大丈夫かと思うけど、

王女だったお義母様がそうだったというので、そのうち大人しくなると見守っている。


だけど、まさか精霊にそんな風に言われるなんて。

シュンとしてしまったリオに、笑ってしまう。


「リオは私だけじゃダメ?」


「そんなことはない!」


慌てたように私に駆け寄って、抱きしめてくれる。

その胸に抱き着いて、懐かしむようにささやいた。


「リオ兄様の隣は私がいればいいでしょう?」


「……うん、そうだな。アリアがいてくれればいい」


「じゃあ、リリーの幸せは見守りましょうね」


「そうだなぁ」


やっぱり少しさみしそうだけど、仕方がないもの。

きっといつかはリリアーヌだけの幸せを見つけて、

この家からは出て行ってしまう。


私がリオ兄様に帰りたいと望んだように、

きっとリリアーヌもただ一人を見つけるはずだから。




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