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6.お姉様?(マーガレット)

怒りっぽくて怒鳴り散らすこともあるけれど、私には優しいお父様。

いつもイライラして些細なことで泣き出すけれど、お父様が大好きなお母様。

伯爵家という身分は高くも低くもないけれど、ちょうどいい。

一人娘の私をみんな大事にしてくれているのがわかるし、不満はない。


あの日まではそう思っていた。



「え?お姉様?」


「そうよ。マーガレットには姉がいるの」


「どうして一緒に住んでいないの?

 もしかしてお母様が違うの?」


ちょうどこの前侍女が読んでくれた絵本にそういう話があった。

急に母親が違う姉が出てきて、主人公を虐めるのだ。


「違うわ。私が産んだことは間違いないのだけど、

 マーガレットを産んだ後で私が体調を崩してね。

 心配したジョスランが実家に預けたのよ。

 それ以来、違う家で育っているの」


「私、一人娘じゃなかったんだ……」


え?じゃあ、もしかしてこの家を継ぐのは私じゃない?

いつもお父様はマーガレットがこの家を継ぐんだぞって言うのに。

ずっとお父様とお母様とこの家で暮らしていくんじゃないの?


びっくりしている私にお母様は綺麗な招待状を見せた。


「再来月、その子のお披露目会があるの。

 招待されたからには行かないわけにはいかないわね」


「お披露目会って何?」


「七歳の誕生を祝ってお披露目するの。

 無事に子どもが育ったことのお祝いよ」


「それに私も行くの?」


「そうね。マーガレットも招待されているから」


七歳。じゃあ、その姉というのは私の一つ上なんだ。

どんな子なんだろうと思ったけれど、

お母様が私のドレスを作ってくれるって言うから聞くのを忘れた。


七歳でお披露目するまで、子どもは他家に行くことはないんだって。

無事に育つかわからないし、さらわれないように屋敷の外には出ない。

だから、本当は六歳の私は招待されないはずなんだけど、家族だから特別に許されたって。

何がどう特別なのかわからないけれど、これまで屋敷の中だけにいたから、

お母様のようなドレスを作ってもらうのは初めてだった。

淡い桃色のドレスは可愛くて着てみたらお姫様のようだった。


そういえば絵本の主人公も最後は王子様と結婚してお姫様になっていた。

私もお姉様がいるのであれば、王子様に嫁ぐこともできるのかな。

そう思ったら、少しだけ気分は良くなった。


なぜかお母様はいつもよりもイライラしていたけれど、

ドレスの試着で忙しい私は気にしていなかった。



お披露目会の日、ドレスを着て初めて馬車に乗った。

酔うかもしれないと言われたけれど、はしゃいでたからか平気だった。

屋敷に着いたと言われて馬車から降りて、驚いてしまった。


「なに、ここ」


「あなたのお父様の実家よ」


「どうしてこんなに大きいの?」


そこは伯爵家のうちとは違って大きくて立派で、奥が見えないほど広かった。


「ここは公爵家の中でも一番大きなデュノア家だから」


「公爵家」


王族と爵位のことは知っていた。

貴族令嬢として一番最初に学ぶことだからだ。

まさかお父様が公爵家の出身だとは思わなかった。


だって、うちは伯爵家だよ?真ん中の爵位なんだよ?

それが一番上の公爵家って。


驚いているうちに手を引かれて中庭へと移動する。

中庭も広くて、たくさんの綺麗な花が咲いていた。


きょろきょろしていると、少し離れた場所がざわついているのがわかった。

それが少しずつこちらに近づいてくる。


近くに用意されていた壇上に誰かが立った。

キラキラした髪の男性と女性。その手前に男の子と女の子が立っている。

なんだか光がまぶしくてよく見えない。


「紹介しよう。うちで預かっている姪のアリアンヌ・バルテレスだ。

 アリア、自分で挨拶できるよね?」


「はい、伯父様。アリアンヌ・バルテレスです。

 今日は私のお披露目に来てくださってありがとうございます。

 ゆっくり楽しんでください」


わぁぁぁと歓声と拍手に包まれる。

それに応えるように微笑んだ少女はまさにお姫様だった。


白金の髪が光輝いて、真っ白ですべすべの肌に桃色の唇。

にっこり笑った目は紫の宝石のようで、同じ色のドレスが良く映えていた。

あれが私のお姉様?


「お母様、あれって」


「あなたの姉のアリアンヌよ」


「嘘よ……」


こんなのってない。

あんなにお姫様みたいでうれしいと思っていた私のドレスが偽物に見えた。

私もドレスもお姫様なんかじゃない。

本当のお姫様は、王子様が迎えに来るのはお姉様のような人だ。


「あれが精霊に愛されている姫か。噂以上の見事な白金の髪だな」


「ああ。だから公爵家で育てられているのだろう。

 将来は王太子妃か公爵夫人のどちらかだろうな」


「幼いのにあの美しさと落ち着き。うちの娘も見習わせたいものだ」


近くにいた男の人たちがお姉様の話をしている。

精霊に愛されている姫。将来は妃か公爵夫人……。

そんな人がお姉様だと言われても認めたくなかった。


お父様とお母様だって、お姉様のほうがいいよね。

あんなに綺麗なんだもの。

どうしよう。お姉様に会いたくない。


「どうしたの?顔色が悪いわ」


「……お母様、気持ち悪い。もう帰りたい」


「あなた、やっぱりマーガレットにはまだ早かったのよ。

 六歳なのに外に連れて来るなんて」


「そうだな、帰ろう」


結局、その日はお姉様と顔を合わせることもなく帰った。

その時は何も思わなかったけれど、後から考えるとおかしい。

どうしてお父様とお母様はお姉様にお祝いの言葉をかけなかったのかなって。


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