55.卒業パーティ
王子の誕生で気持ちも切り替わり、卒業パーティは二週間後となった。
仕立てたドレスもできあがり、公爵家に届けられる。
精霊祭の夜会ではせっかくリオ兄様と出席するはずだったのに、
夜会そのものが中止となってしまった。
卒業パーティは規模は小さいものの、王家も出席する公式の場だ。
陛下ではなく、ジスラン様が出席すると聞いている。
今度こそはリオ兄様としっかりお披露目をしたい。
薄黄色のドレスには胸元に白いレースを縫い込んで、
腰のあたりから背中側にかけては銀糸で小薔薇の刺繍がされてある。
少し可愛らしすぎたかもしれないと思ったけれど、
大人っぽいドレスはこれから何度でも着れると思い直した。
雫のような大粒の青貴石のネックレスを首にかけると、
後ろで見ていたリオ兄様がつぶやいた。
今回は私が離れたくないと言ったからか、試着の段階からそばにいてくれる。
「うん、すごく可愛いな。まるでアリアが精霊みたいじゃないか」
「ふふ。そんなこと言ったら精霊王に怒られちゃうわ」
「いや、ほら。精霊もそうだって言ってる」
精霊という言葉が聞こえたからか、髪から精霊が出てきた。
まるで喜んでいるような精霊の光にリオ兄様が真面目な顔で言う。
「似合っているならそれでいいの。似合ってる?」
「もちろん。アリアは何を着ても可愛いけど、とてもよく似合っているよ。
卒業パーティでアリアを見て倒れる学生が出なきゃいいんだが」
「もう!」
ふざけているのかと思ったら、大まじめだった。
後日、ジョセフ様にリオ兄様が相談していたと聞いて驚く。
それを真面目に対策しようとしていたジョセフ様にも驚いて、
アリーチェ様にお願いして止めてもらった。
卒業パーティの日、ドレス姿に着替えてリオ兄様と学園に向かう。
この日は二学年の学生が準備をして、講堂はパーティ会場と用意されている。
こんな風に馬車に乗って学園に通うのも今日が最後。
「ようやく、卒業だな」
「ええ。一緒に馬車に乗って学園に行くのも最後なのね」
私が卒業してしまえば、日中は一緒にいられなくなる。
リオ兄様が学園に行っている間、私は屋敷で何をしていよう。
「それなんだけど、アリア。
学園長の秘書をしない?」
「秘書?リオ兄様の?」
「ああ。俺のそばで書類整理したり、お茶を淹れたり。
誰かつけるように言われているんだが、他の女性を雇うのは嫌だし。
アリアが秘書になってくれるなら、ずっと一緒にいられるだろう?」
「私でいいの?できるかしら」
「アリアならできるよ。嫌か?」
「嫌なわけないわ!うれしい!」
「良かった。だから、これからも一緒に通えるよ。
って言ったら、卒業する気持ちは少し薄れちゃうか。ごめんな?」
さっきまで私がさみしそうにしていたからか、
リオ兄様が申し訳なさそうに言う。
「そんなことないわ。だって、アニータ様たちはいなくなるんだもの。
やっぱり卒業するのは少し寂しい」
「そっか。そうだな。
良かった……ちゃんと学園生活楽しかったんだな」
「ええ。嫌なこともあったけど、楽しかったわ。
仲間と一緒に授業を受けて、いろんなことを相談して。
学園に通わなかったら、知らなかったことがたくさんあるもの。
リオ兄様のおかげよ、ありがとう」
抱き着いたら、そのまま抱き上げられる。
こうされるのにも慣れて、何も言わずにリオ兄様の首を抱きしめる。
「あ、ドレスが崩れちゃうかも」
「大丈夫。学園についたら精霊術で直してしまうから」
「そういうこともできるのね。ありがとう」
話しているうちに学園に着いて、リオ兄様に抱き上げられたまま降りる。
そこにはジョセフ様とアリーチェ様がいて、いつものように迎えてくれる。
「わぁ、アリーチェ様、綺麗ね」
「アリアンヌ様こそ。とてもよく似合ってます」
アリーチェ様のドレスはジョセフ様の色に合わせたのか、
緑色の大人っぽいドレスだった。
裾が広がらない腰から流れるような身体の線がわかるドレスだが、
アリーチェ様が着ると上品に見える。
会場に入ると、もうアニータ様は入場していた。
アニータ様のふわふわな金髪が青いドレスによく映えている。
私たちを見て、隣にいた男性に声をかけ、一緒に向かってくる。
「アニータ様、もう来ていたのね」
「アリアンヌ様、婚約者を紹介してもいいかしら」
「ええ、もちろん」
婚約者が誰かは知っているけれど、会うのは初めてだった。
エストレ公爵家の二男。分家のアニータ様にとっては幼馴染。
「はじめまして、アリアンヌ様。ニコラ・エストレと申します。
リオネル様はお久しぶりですね」
「はじめまして、アリアンヌ・デュノアです。
リオ兄様とは何度も会っているのよね?」
「ああ。公爵家同士は会う機会が多いから。久しぶりだな、二コラ。
アニータ嬢も、婚約おめでとう」
「「ありがとうございます!」」
アニータ様に寄り添った二コラ様は幸せそうに笑う。
銀髪青目は公爵家らしい色だが、あまり貴族らしくは見えない。
身長はそれほど高くないが、がっしりとした体型をしている。
もともと二男で公爵家を継ぐことはなかったことと、
アニータ様がもし王太子妃になってしまったら、婿入りする先はなくなる。
その場合は家から出るといって、王宮騎士団に所属していた。
アニータ様以外との婚約を断る口実だったとも聞いているけれど。
ようやくジスラン様とロゼッタ様の間に王子が生まれ、
こうして婚約者としてお披露目することができた。
二コラ様は騎士団をやめて、レノリア侯爵家に婿入りする予定だ。
アニータ様も卒業したらすぐに結婚することにしているらしい。
もし万が一何かが起きてしまっても、もう王家には嫁げないようにと。
大きな声で言えることではないが、気持ちはわかる。
好きな人との婚約を王家に待たされていた立場はよくわかるから。
「少しここで待っていて。学園長として壇上で挨拶してくる。
開催の宣言をしないと、始まらないからね」
「ええ、待っているわ」
リオ兄様が壇上にあがると、控え室からジスラン様が出てくるのが見えた。
ジスラン様はこちらを見るとニヤリと笑う。
この前はほとんど話せなかったから、何か言いたい事でもあるのかもしれない。
リオ兄様とジスラン様が挨拶をして、卒業パーティが始まる。
二人そろって壇上から降りると、こちらへ歩いてくる。
「お疲れ様」
「ああ。一人にしてごめんな」
「リオネル。一人にしてって、壇上から見えていただろう」
呆れたようなジスラン様に変わらないなと思う。
「よう。アリアンヌ。やっと話せるな」
「お久しぶりです、ジスラン様」




