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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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50.後悔ばかり(ディオ)

「……どうして。ディオ、あなたはデュノア公爵家のために動いていたのに」


「ラザールとの婚約を解消させるところまではそうでした。

 僕はアリアンヌ様のために動いていた……」


「なのに、どうして?」


「……わかりません。どうしてこうなってしまったのか。

 今なら、おかしくなっていたのだとわかるのですが」


「あぁぁ……」


泣き崩れてしまった母上にかける言葉はない。

全部、僕が悪い。こうなってしまった以上、僕にできることはない。


僕の役目はラザールにアリアンヌ様と婚約解消させることだった。

それはマーガレットと婚約する前からそうだ。

父上はアリアンヌ様がデュノア公爵家の次期当主に嫁ぐ予定だと知っていた。

それを横から奪うように婚約させたカリーヌ叔母上とお祖父様にひどく怒っていた。

ファロ家をつぶす気かと。


それはそうだろう。カリーヌ叔母上の考えは甘すぎる。

誰が横取りされた令嬢の後見になるなんて思うんだ。

結果はバルテレス伯爵家が切り捨てられただけだった。


このままではファロ家も敵対することになってしまう。

それだけは避けなくてはいけない。

この国でデュノア公爵家に敵対して生きていけるわけがない。


だから、お父様はお祖父様と商会とは縁を切るつもりで、

ひそかにデュノア公爵家と連絡を取っていた。



少し考えればわかるはずなんだ。

王子の婚約証明書なんて大事なもの、簡単に手に入るわけがない。

三男の僕が父上の執務室に入ることなんて許されないって。


だけど、ラザールとマーガレットは馬鹿だから気がつかない。

そうなるようにしたのは僕だけど。

勉強なんてしなくていい、授業なんてさぼればいい、

王子教育なんてめんどくさいものは行かなくていい。

ファロ家にいれば楽だろう?このままでいいじゃないか、と。


マーガレットの嘘だって、最初からわかっていた。

だが、アリアンヌ様を助けるためにはマーガレットを油断させる必要があった。

実際にバルテレス伯爵家でどんな生活をしているか知っているから、

アリアンヌ様を貶めるマーガレットには吐き気がした。


あの日、ようやく助けだせると思って、

アリアンヌ様に大量の水をかけた。

バルテレス伯爵の企みで、

アリアンヌ様の服に精霊避けがされているのを知っていたから。


嫌がる精霊に無理やり水を出させ、アリアンヌ様の上から落とした。

もちろんアリアンヌ様が風邪なんてひかないように、

医務室に湯を沸かしておくように言っておいた。

そうじゃなきゃ、あの時間に補助員はいないし浴室も使えない。


他の女子学生に声をかけさせるはずだったが、

近くにいたアニータ様が助けてくれてほっとした。


着ていた服も、精霊避けの香がちゃんと落ちるようにしっかり洗わせた。

それでも全部の匂いは落とせず、精霊はあまり集まらなかった。

ぎりぎりのところで婚約解消させて、ようやく助けだすことができた。


本当なら修道院に行った後、奥院に入るまでの間に、

デュノア公爵家に連絡して迎えに行ってもらう予定だった。

その日のうちに公爵家に帰れたのは予想外だったけれど、

やっとアリアンヌ様が帰れたと思い、ほっとして泣いてしまったほどだ。


これでアリアンヌ様は幸せになれる。

そして、僕もこの役目から解放される。

マーガレットのような性格の悪い令嬢と結婚なんてしたくない。

穏便な話し合いをして婚約を白紙にするつもりだった。


なのに、クリステル王女に出会ってからの僕はおかしくなってしまった。

綺麗な王女だとは思う。胸も大きくて、色気もある。

だけど、あまりにも身分が違うし、王女の性格は最悪だ。


A教室の侯爵令息たちのように、距離をとるべきだった。

気がついたら、からめとられるように、王女の言いなりになっていた。

今さら後悔しても遅い……アリアンヌ様になんてお詫びをしたら。


「……ディオ、多分、お前のそれは消えるはずだ」


「え?」


「マーガレット嬢を最後に見たが、真っ黒になっていた。

 もう顔もわからないくらい、黒いいばらで埋まってしまっていた」


「そんなに?……僕のはここだけだ。

 他の場所にはなかった」


どういうことなんだ?精霊の処罰は人によって違うのか?


「精霊に、アリアンヌ様に敵対すればするほど、

 精霊の処罰は重くなるらしい。

 だが、お前は敵対していなかった。

 おそらく、それは王女と共に行動していた間の罪だろう」


「……アリアンヌ様に髪を切れと言ってしまったんだ。

 精霊の処罰を受けるのは当然だ……。

 あんなに綺麗な髪を切れだなんて……どうして」


王女の言いなりになっていたとしても、言ったのは事実だ。

アリアンヌ様はどれだけ悲しんだろうかと思うと胸が痛い。

長年苦しんで、ようやく解放されたばかりのアリアンヌ様に、

なんてひどいことを。


「ディオ、ほら見てみろ。薄くなっている」


「は?」


腕に巻くつくようだった黒いいばらが、ほんの少し薄れていくように見えた。


「ディオは後悔している。そして深く反省している。

 そうだろう?アリアンヌ様のために動いていたんだ。

 一時、おかしくなってしまったけれど、元に戻れてる」


「……王女へのおかしな気持ちがなくなったから。

 もしかして、これも精霊のおかげなのかな」


「そうかもしれない。そういえば、ラザール王子もそうだな。

 精霊の処罰を受けた後は、王女の心配もしてなかった。

 薄黄色のドレスを着させて出席させたくらいだったのに。

 自分の婚約者を心配しているようには見えなかったな」


やっぱりそうか。クリステル王女はラザールの婚約者になったのか。

だが、ちっとも心は動かない。そうなのかと思うだけだった。

今の僕は正常だ。だからこそ、この後どうするべきなのかわかっている。


「父上、僕を伯爵家から抜いてください」



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