表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/61

49.どうして僕は(ディオ)

せっかくの夜会だというのに、部屋に閉じ込められてしまった。

お前は連れて行かないと、父上と母上は夜会に出かけてしまった。

招待状には僕の名前もあったのに、行きたいと言ったのは却下された。

当分の間、社交するのは許さないと。


マーガレットと婚約解消したのだから、

新しい婚約者を探さなくてはいけないというのに、

社交させないなんて父上は何を考えているんだ。


学園でアリアンヌに暴言を吐いたと言われ、謹慎処分を受けた。

そのせいなのか、ここのところ父上の機嫌が悪い。

いつもなら助けてくれる母上も、今回は助けてくれなかった。


ため息をついたら、侍女のアンナがじろりと僕を見る。

何もしてないのに、どうしてにらんでるんだよ。


「なんで見張りなんてつけるんだよ。抜け出したりしないぞ」


「いいえ、旦那様に言われております。目を離すなと」


「だからって、窓の外にまで見張りを立たせるなんてやりすぎた。

 どうせ馬車もないし、招待状もない。

 夜会に行けるわけないんだから、一人にさせろよ」


部屋の中にまで見張りがいるなんて、耐えられない。

なんでこんなにまで監視がきついんだ。


「旦那様が、ディオ様なら王宮にもぐりこむだろうと。

 ラザール様かカリーヌ様のお名前を出して夜会に忍び込むくらいすると」


「……そんなことしないよ。服だって、このままじゃいけないし。

 僕はどこにも行かない。だから、せめて部屋の外で見張ってよ。

 このまま監視されてたんじゃ落ち着いて本も読めない」


「わかりました。では、部屋の外にいます」


さすがに無理だとわかったのか、アンナは部屋から出て行った。

やっと一人になれて、思わずつぶやく。


「なんでバレてんだよ」


父上の予想した通り、夜会にもぐりこむくらい簡単だと思ってた。

ラザールかカリーヌ叔母上の名前を出せば王宮には入れるし、

服だってラザールの予備を借りればいいと思ってた。


今までだって王宮には行っていたんだし、

顔見知りの騎士だってたくさんいる。

王宮までたどり着くことができれば大丈夫なはずだった。


なのに、これだけ見張りをつけられたら無理だ。

部屋から出た時点で止められてしまうだろう。


今日の夜会はどうしても出席したかったのに。

クリステル様がラザールのパートナーとして入場してしまう。

なぜかクリステル様には招待状が来なかったらしい。


仕方がないからラザールにお願いしたと言っていた。

頼りにされたラザールは喜んでいたけれど。


もしかしたら、婚約者としてお披露目するんだろうか。

クリステル様は結婚するためにこの国に来たと言っていた。

ラザールなら、相手として身分もちょうどいい。


だけど、そんなことは許せない。

どうにかして夜会に出て、止めようとしていた。


きっと、これが僕の初恋だから。

クリステル様と僕が身分違いなのはわかっている。

だけど、ラザールなんかに奪われるわけにはいかない。


カリーヌ叔母上の性格が悪かったから第二妃になれただけなのに、

従兄弟なのに第二王子と伯爵家の三男。

頭も顔も精霊の力も俺のほうが上なのに。

身分だけはラザールに敵わない。


僕が第二王子として生まれたなら、ちゃんと王宮に住んで、

王子教育も問題なく終わらせて、中級でもあって。

クリステル様にふさわしい王子になっていたと思うのに。

どうして僕は王子として生まれなかったんだろう。



ぼんやりしているうちに時間が過ぎる。

どうにもできない。今頃は夜会が始まっている……。

もう間に合わないな。あきらめたくなんかないのに。


一瞬、部屋の中に強い風が吹いた。

窓も開けていないのに、頬に風があたった。


「……なんだ?今の……」


やっぱり窓は閉まっているし、ドアも開いていない。

それなのに部屋の中に風が吹くなんておかしい。

ふと見た腕に黒いものが見えた気がして、袖をまくる。

そこには黒いいばらの模様が浮き上がっていた。


「なんだ、これ!」


恐る恐るさわるが、こすっても落ちない。

慌てて私室についている浴室に駆け込む。

何度洗い流しても落ちない。肌が赤くなっても、黒は少しも薄れない。


「どういうことなんだ……何が起きている?」


洗っても変わらないことがわかって、とりあえず浴室から出る。

腕が隠れる服に着替えて、ソファに座る。

……これはいったいなんだ。他の者に見られたらまずいのか?


ドアがノックされて部屋に入ってきたのはアンナだった。

異変に気がつかれたのかと思ったが、そうじゃなかった。


「ディオ様」


「なんだ」


「旦那様と奥様がお帰りです」


「は?もう?早くないか?」


「何か緊急のことが起こったようです。

 ディオ様をお呼びです」


「……わかった」


緊急の事態で夜会が早く終わった?

もしかして、中止になったのか?

応接室に入ると、深刻そうな顔をした父上と母上がいた。

僕が向かい側に座ると、なぜかほっとした顔になる。


「……お前は無事だったか」


「無事?何があったんですか?」


「……精霊王が現れ、精霊の処罰を受けた者が出た。

 ラザールやカリーヌ、バルテレス伯爵家もだ」


「は?」


精霊の処罰?初めて聞く言葉に、父上から説明を受ける。

夜会で何が起きたのかを知り、血の気がひいていく。


「お前を謹慎させておいて良かった。

 あの場にいたら、クリステル王女を助けようとしただろう」


「王女を?どうしてですか?」


「クリステル王女も精霊の処罰を受けたからだ。

 ……お前、あんなに王女に惚れ込んでいたじゃないか」


「………?」


そうだ。なんでクリステル様のことを心配しなかったんだ?

あんなにクリステル様のことが好きだって……本当にそうか?


だって、あれはマーガレットよりも性格が悪いぞ。

俺は顔よりも性格のほうを重視する人間なはずだ。

どうして、あんなにクリステル様を好ましいと思っていたんだろう。


「父上、どうやら僕の中のクリステル様への気持ちが消えたようです」


「何?どういうことだ?」


「いや、今になって考えたら、どうして好きだったのか理解できないんです。

 それと……ごめんなさい。父上、母上、僕も精霊の処罰を受けたようです」


袖をまくって腕の黒い模様を見せると、二人は悲鳴のような声をあげた。

あぁ、やはりこれが精霊の処罰か。


当然だな。どうしてアリアンヌ様にあんな暴言を。

髪を切ればいいなんて、令嬢に向かっていっていい言葉じゃない。


「……どうして。ディオ、あなたはデュノア公爵家のために動いていたのに」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ