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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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42.精霊祭とは

「でも、本当に私が精霊の巫女になってもいいの?」


「いいのって、俺は今年はアリアがふさわしいと思ってるよ」


「お義母様じゃだめなの?リオ兄様でもいいじゃない」


「俺は去年もやったんだよ。母上が今年はアリアがいいって言うし。

 陛下とジスランもアリアにお願いしたいって」


「だって、夜会に出るの初めてなのに、そんな大役……」


「大丈夫。俺も一緒に壇上にあがるから」


「……それなら」


精霊祭とはその年の豊作と安全を祈願し、領主が精霊に祈りをささげるためのもの。

祈りの声を精霊が聞き、精霊王へと伝えてくれる。

精霊の加護が得られれば、一年間の豊作と安全が約束される。

領民を守るためにも、領主としての大事な役目となっている。


婚約のお披露目や社交はついでに行われるもので、

この祈願が無事に終わらなければその後の夜会は開かれない。


精霊祭は精霊を呼び出すところから始まる。

大広間の壇上、普通の夜会なら陛下が座る玉座は精霊王のために用意される。

そこで精霊に呼び掛け、精霊王をお呼びするのが精霊の巫女だ。


と言っても、実際に呼ばれてくるのは精霊王に祈りを伝えるための精霊。

玉座の上でふわふわ飛び回っている精霊に祈りをささげるのだという。


精霊が来なければ祈願もできない。

つまりは精霊の巫女が精霊祭を成功させるための大事な役割なのだが。


今までは特級のお義母様とリオ兄様が交代でしていたそうだ。

それを今年は私がすることに決まってしまった。


「私が呼んでも精霊が来なかったらどうしよう」


「そんなわけないだろう。ほら、また髪の中に隠れてた」


「最近、ずっといる気がするの。もう慣れちゃったわ」


髪の中に隠れていた精霊がいくつか出てくる。

大丈夫だと私に言っているようにくるくると回って、また髪の中に戻っていく。


「壇上で呼んだら、私の髪の中から出て来るかも。

 それって……いいの?

 呼んだんじゃなく、私が連れてきたみたいに思われるんじゃ」


「それならそれでいいと思うけどね。

 そこに精霊がいればいいだけだから。どこから来ても同じだよ」


「それはそうかもしれないけど」


ただでさえ、私のことを下級以下だと信じている人もいるのに、

そんなことをしたら怪しまれないかな。

悩んでいたら、リオ兄様はもっと悩みそうなことを言う。


「一度、母上が精霊の巫女だった時、

 精霊を呼んだら本当に精霊王が来てしまったことがあるそうだよ」


「え!」


「母上の結婚のお祝いだったそうだ。

 その時、精霊王の祝福を受けたから、俺が特級で生まれたんじゃないかって」


「そうなの!?」


それは知らなかった。精霊に関することはあまり書物に残されていない。

どうしてなのかわからないけれど、歴史書にも書かれていないようだ。


「特級の呼びかけは特別だと言われているからね。

 だから、俺たちが結婚した後の夜会では精霊王が来てくれるかもと、

 ジスランが楽しみにしていたよ」


「もう、ジスラン様はいつも面白がるんだから」


ジスラン様は悪い人ではない。もう一人のお兄様のような感じではあるけれど、

リオ兄様のことに関しては面白がる癖がある気がする。

それだけ二人が仲良しだってことでもあるけど。


「そのくらい許してやって。王太子は忙しいんだ。

 あぁ、ロゼッタ妃は欠席することになった」


「え?ロゼッタ様が?」


王太子妃のロゼッタ様にはまだお会いできていない。

弟のジョセフ様にお世話になっているので、夜会でお礼を言おうと思っていたのに。


「夜会で発表になるが、身ごもったそうだ」


「本当に!」


「もうすぐ四か月になると。大事な時期だから欠席にするが、

 体調は問題ないそうだよ」


「わぁ。良かった。これでジスラン様も安心ね」


結婚してもう四年目になる。

お子はいつかと気にしている貴族も多かった。

この国は正妃の力が強いので、子が産まれなくてもすぐに側妃という話にはならない。

それでも五年も六年も子が産まれないのであれば検討せざるを得なくなる。

その場合、正妃になれるような令嬢はアニータ様しか残っていない。


侯爵家を継ぐ予定のアニータ様に婚約者がいない理由はそのためだった。

もしジスラン様とロゼッタ様に子ができなければ、二人は離縁し、

あらためてアニータ様が正妃として嫁ぐことが内々で決まっていた。


アニータ様自身はロゼッタ様とも仲がよく、

ロゼッタ様に子ができれば婚約する予定の令息もいるので、

この朗報にはほっとしていることだと思う。


「アニータ嬢は無事に子が産まれるまではこのままだそうだ。

 だが、それもあと数か月の問題だろう。

 学園を卒業する頃には婚約できるんじゃないかな」


「それも楽しみね」


アニータ様の婚約内定者が誰なのかは知らされていない。

もしアニータ様が正妃になった時に困るからだ。

だけど、あの方かなと思う人はいる。

エストレ公爵家の二男で学園を卒業しているのに婚約もしてない方がいるからだ。


エストレ公爵家の分家でもあるアニータ様とは幼馴染らしいけれど、

ジスラン様の子が無事に産まれるまでは表向きは知らないふりをしなければいけない。

どうにもならないけれど、お互いを忘れることはない。

まるでこの前までの私とリオ兄様のようで、アニータ様にも幸せになってほしいと思ってしまう。



夜会で会いたくない人もいるけれど、うれしい知らせもある。

そして、何よりも私たちの婚約のお披露目がある。

今は不安よりも楽しみだという気持ちのほうが強い。

それも全部、リオ兄様がいてくれるから。


わくわくしているうちに時間は過ぎ、

あっという間に夜会の当日となった。



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