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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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39.ありえない噂

ラザール様たちに食堂で会ってしまった次の日から、

私たちは食事を学園長室の控室で取ることになった。

リオ兄様は同席せず、私たちだけで控え室を使っていいと言ってくれる。


私たちがこれまで通り食堂で食事をしていたら、

またあの三人にからまれてしまうかもしれない。

食堂の個室だと王族用の個室が近くにあるので、

どちらにしても危険だと判断されたからだ。


それから三日間は何事もなく過ぎた。

ラザール様とディオ様が二週間の謹慎処分になっているけれど、

クリステル王女とマーガレットは学園に通っている。

授業時間は大丈夫だと思うが、行き帰りと昼休憩は警戒しなくてはいけない。


学園内におかしな噂が流れていると知ったのは、四日目のことだった。

登校してきたアニータ様がなぜか怒っている。


「アニータ様、どうしたの?」


「おかしな噂が流れているのよ。

 クリステル王女が公爵家に嫁ぐって」


「え?」


「相手が誰とは言っていなかったけれど、

 公爵家次期当主で結婚していないのは一人だけなのよ!」


「それって……」


公爵家でまだ結婚していないと言えば。


「どう考えてもリオネル様のことじゃない!」


「どうしてそんな噂が」


話が聞こえていたのか、ジョセフ様が険しい顔でこちらへとくる。

アリーチェ様も綺麗な眉を嫌そうにひそめている。


「そんな噂は知らないぞ。アニータ様、それはどこで?」


「うちの侍女から聞いたの。

 子爵家出身の侍女なんだけど、弟が学園に通っていて、そこから聞いたと」


「子爵令息?どうしてそんなところから噂が」


「どうやら二年の下位貴族から広まっているようよ。

 おそらく、王女が自分で話したんじゃないかしら」


「どうしてそんな話を?」


「……わからないわ。王女は何を考えているのかしら」


噂は噂でしかない。

だが、王族や高位貴族の婚約と言うのは簡単に決まることではない。

ましてや筆頭公爵家の次期当主であるリオ兄様の婚約ともなれば、

陛下と二家の公爵家の許可がなければできない。

噂だからと言って、安易に話していいことではない。


クリステル王女が嘘を言ったのだとしたら、処罰されるかもしれないのに。


詳しいことはジョセフ様が調べてくれることになったので、

とりあえずは授業に集中する。

昼休憩になって、四人で学園長室の控室へと移動しようとしたら、

後ろから誰かに呼び止められる。


「あら、そこのあなた」


「え?」


この声はと思って振り返って見たら、クリステル王女だった。

あざやかな緑色のデイタイムドレスを着た王女は私を見てうれしそうに笑う。

どうしてこんなところにいるのかわからず、身構える。


王女の周りには同じ学年の令息なのか、三名ほどそばについている。

その中に謹慎中のラザール様とディオ様はいないはずだけど、

本当にいないのか思わず確認してしまう。


それにしても、何の用で王女に呼び止められたのか。

前回私に髪を切れと言ったことで、王女も警告をされたと聞いている。

次に何かあった時にはアーネル国へ戻すと。それなのに。


王女は華やかな微笑みを私に向けると、ゆっくりと近づいてくる。

ジョセフ様が私を庇おうと前に出ようとしたけれど、

そこまで警戒するのは失礼になると思ってやめてもらった。


「何か御用ですか?」


「用というほどではないわ。この間は事情も知らなかったのに、

 かわいそうなことをしてしまったと思って」


「かわいそう?」


「そうよ。ラザールとディオがあんなに嫌っているから、

 ものすごく悪い令嬢なのかと思ってしまって。

 でも、話を聞いてみたら、ラザールに捨てられてしまったんでしょう?」


「……」


ラザール様に捨てられて。婚約解消したことが捨てられたことに?

あぁ、でもそうかも。いらないって言われたんだった。


「ラザールから婚約解消された上に、

 妹に追い出されるように伯爵家からも出されたって聞いて。

 そんなかわいそうな令嬢だって知っていたら優しくしたのに」


「……そうですか」


「そうよ。王族は慈悲の心を持たなくてはいけないもの。

 あなたのようなかわいそうな令嬢には優しくしなくちゃね」


「はぁ……」


同情されてもどう反応していいか困ると思っていたら、

王女は私の反応はどうでもいいのか話続けている。


「それに、この国の王族に嫁ぐのだもの。

 かわいそうな令嬢を助けるのは義務のようなものだわ。

 何か私にできることがあれば言ってね」


「……婚約が決まったのですか?」


相手として考えられるのはラザール様だけど、婚約が決まったのだろうか。

だから、こんなにうれしそうなのかな。


「ふふ。お父様にはリオネル様っていう方と結婚するように言われたんだけど、

 残念だけどまだお会いできていないのよ。

 ねぇ、リオネル様って素敵な方なのでしょう?」


「……え?」


「みんなが私とリオネル様がお似合いだって褒めてくれるの。

 きっとリオネル様も私に会ったら喜んでくれるって。

 会うのが楽しみだわ。あ、もう行かなくちゃ」


聞き返すことができないでいるうちに、王女は令息たちと去っていく。

あたりには甘い花の匂いが残る。

呆然としているとアニータ様に両頬を手ではさまれた。


「どうして黙ったままなの!しっかりして!」


「アニータ様……」


「リオネル様の婚約者はアリアンヌ様でしょ!」


「はい……」


「次に会うことがあったら、はっきり言い返す!わかったわね!」


「はい……ごめんなさい」


叱られて、そうだったと思ったけれど、あの王女に言い返せただろうか。


「いいわよ。急に言われて驚いてしまったんでしょう」


「王族だっていうから、ラザール様のことかと思って」


「三大公爵家の当主も王族でしょう。一応は」


「そうでした。忘れていました」


王子妃教育で習ったのに、うっかりしていた。

王位継承権は王子の次にはなるが、リオ兄様はラザール様に次ぐ四位だ。

三大公爵家は王家の血を守るために存在する。

だからこそ、血筋を大事にする……


一瞬だけ、奪われてしまうかもと思ってしまった。

目の前にいる、自信たっぷりな美しい王女に。

リオ兄様が心を奪われてしまったらどうしようと。


今ならまだ婚約者の変更ができる。

精霊祭の夜会でお披露目してしまったら、簡単に変更できなくなる。


王女の言葉は私の心を傷つけるには十分すぎた。

ラザール様にも伯爵家にも捨てられた令嬢。

王女に同情されるようなかわいそうな私がリオ兄様にふさわしいのかと。

心のどこかで思っていた不安を見透かされたような気がした。




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