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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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34.留学してきた王女

三学年になってひと月が過ぎた。

学年が違うせいか、ラザール様たちとはまだ会っていない。


そして、隣国アーネル国から留学してきたという王女、

クリステル様とも会っていない。


だが、二学年のことは噂になり始めていた。

いつものように四人で食事をしていると、ジョセフがその話題を出した。


「例の留学してきた王女、かなりのわがままらしい」


「何か問題でも起こしたの?」


「まだ問題らしい問題ではないけれど、そのうち何か起こしそう。

 どうやら第二側妃の産んだ第三王女なんだが、

 アーネル国では嫁ぎ先が決まらなかったようだ」


「第二妃ではなく、第二側妃?」


この国とは制度が異なるため、確認する。

第二側妃というのであれば、国王の三人目の妃ということになる。

正妃の子なら後ろ盾があるだろうけど、側妃の子となるとそうもいかない。


「そう。むこうは第三側妃までいる。王子二人に王女が四人。すごいよね。

 王女に王位継承権がないのはうちの国と同じだけど、

 向こうでは髪の色で王女の価値が決まるらしい」


「髪?たしかアーネル国は水色がかった銀色が王家の色よね」


「そう。王家の色を持つ王女は公爵家に嫁ぐのが基本だとか。

 そして銀色なら侯爵家あたり……」


「……クリステル王女は金色だったわね」


「嫁ぐなら伯爵家だと言われて、それを拒否して留学してきたそうだ」


「そうなの……」


同じ王女なのに髪の色で嫁ぎ先が決まるなんてと思ったが、

この国でも似たようなものかもしれない。

精霊に認められているかどうかで価値が変わるのだから。


自分の力ではどうにもできないことで差別されるという意味では、

たいして変わりないだろう。


「そういう理由で留学してきたのはわかったけど、

 この国でも侯爵家以上の相手を探すのは難しいわよね?」


「そうよね。王太子と三大公爵家のうち二家は結婚しているし、

 残りの一つも婚約済。王弟殿下の息子はまだ学園に入学してもいない。

 侯爵家も嫡男はほとんど結婚か婚約しているわよね」


「王弟の息子って、クロード様も婚約は内定しているって話よ」


「そうなの?」


「ええ、エストレ公爵家の末子アナイス様。

 もうすぐ十二歳になるから、そうしたら正式に結ぶはずよ」


「それなら、本当に誰もいないわね。

 どうして留学してきたのかな」


この国に来ても、相手がいないのであれば意味がないのでは?

そう思って首をかしげていたら、アリーチェ様にのんびりと指摘される。


「留学の許可を得るには時間がかかるもの。

 半年以上前から話が来ていたと思うわ。

 その時にはアリア様たちは婚約していなかったでしょう?」


「あ……そういえば」


「ついでに言えば、高位貴族は知っていても、まだ婚約の公表前だろう。

 リオネル様だけじゃなく、クロード様も。

 ついでに言えば、俺たちもまだお披露目していない」


「そうね……王女が知らなくても不思議じゃないのね」


もしかしたら、王女が狙っているのはリオ兄様かもしれない。

年下のクロード様や侯爵家のジョセフ様とならべたら、

年上で公爵家次期当主のリオ兄様は適任だと思うに違いない。


知ってしまったら、冷静ではいられない。

リオ兄様と私の婚約は陛下と三大公爵からの許可を得ているけれど、

私よりも王女のほうがふさわしいと言われたらどうしよう。


心の奥がざわざわして、おもわず胸のあたりの服をつかんでしまう。

それに気がついたのか、髪の中に隠れていた精霊が出てきそうになる。

演習場で精霊を呼んでから、こうしていつも精霊が私のそばいる。


リオ兄様が言うには、精霊が私を守ろうとしてくれていると。

……動揺したのがわかって、慰めようとしてくれたのかな。

ありがとうと心の中でお礼を言うと、精霊も落ち着いた気がした。


「リオネル様からはラザール様たちだけじゃなく、

 王女にもアリアンヌ様を近づけるなと言われている。

 リオネル様は狙われているのに気がついていると思うよ」


「そういえば、私にも言っていたわ。

 何か問題があれば学園長室に来るようにって」


「それのせいだろうね」


あの時言われた理由がようやくわかった。

気がつく前に王女に会っていたら問題が起きていたかもしれない。

これまで以上に会わないようにしようとみんなで決めたが、

そういう時に限ってばったり会ってしまう。


食事を終えて、A教室に戻ろうと席を立ったら、

集団が食堂に入って来るのが見えた。


赤茶色の短い髪……ラザール様だ。

普段なら王族用の個室を使うのに、どうしてここに。

これまで会わずにすんでいたのに。


集団の中に金色の長い髪の女性が一緒にいるのが見えた。

どうやら王女に食堂を見てみたいとねだられたらしい。

ここが食堂だとディオが説明しているのが聞こえる。


マーガレットはいないようだが、ラザール様とディオ様だけでも、

会いたくないことには変わりない。


食堂はそれなりに広いが、出入り口は一つだけ。

向こうはまだ気がついていないようだけど、

気がつかれるのは時間の問題だ。


「どうしよう。隠れる場所はないわよね?」


「さすがに無理だね……軽く挨拶して通り過ぎよう。

 こんな大勢の前で揉め事は起こさないと願おう……」


「そうしましょう。アリアンヌ様、私の後ろに隠れて」


「アニータ様のほうが小さいのに無理だよ。俺の後ろにいて」


「私とジョセフで隠すわ。アニータ様はアリアンヌ様の横に」


こそこそと相談しながら、出口へと向かう。

ふわっと甘い香りがしてきた。花の匂いを凝縮させたような強い匂い。


食堂内でこんな匂いがするなんて。

この国では精霊が嫌うから、貴族令嬢が香をたくことはない。

ラザール様たちに近づくたびに匂いが強くなる……

他国で流行っている香水というものだろうか。


これは王女の匂いに違いない。

留学する時に注意はされなかったのだろうか。

精霊に愛されているかもしれないと留学してきたはずなのに、

精霊が嫌うことをしているとは。


ラザール様たちは女性じゃないから注意できないとか?

こういう時のために令嬢をつけるはずだけど、

王女の他は令息だけで令嬢は見当たらない。


金色の髪で青い目の、やや背が高い女性。

豊かな胸を強調するような橙色のデイタイムドレス。

華やかな服装に負けないような美しい顔立ちの女性。

この方がクリステル王女……


そっと通り過ぎようと思ったのに、ラザール様と目があってしまった。

次の瞬間、ラザール様は私を指さして怒鳴り出した。


「お前!アリアンヌなのか!」


「え」


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