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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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26.隠し部屋の朝

目が覚めたら、まだリオ兄様の腕の中にいた。


ぐっすり眠っているリオ兄様を見上げていると、

ちゃんと公爵家に帰ってこれたんだと実感する。


リオ兄様と再会してから、まだ一日も過ぎていない。

それなのに昨日の朝、学園に登校した時とはまるで状況が変わってしまった。


あ。アニータ様に何も言えてない。

医務室に行ったまま、急に早退して心配されたかもしれない。

ジョセフ様とアリーチェ様も。

今までお世話になっていたのに、何も言えないまま出て来てしまった。


リオ兄様が起きたらお願いしようか。

ジョセフ様のイノーラ侯爵家はデュノア公爵家の分家だから、

連絡しようと思えばすぐにできるはず。


「……何をそんなに悩んでいるんだ?」


「リオ兄様」


「俺の腕の中にいるのに、まだ不安か?」


「ううん。違うの。ここにいればすごく安心する。

 リオ兄様の腕の中にずっといたいくらいよ」


「じゃあ、何が」


よほど私が悩んでいるような顔をしていたのか、

両頬をおさえられて目をのぞきこまれる。

リオ兄様の青い目が深く沈んでいるようで、慌てて事情を話す。


「あのね、昨日ラザール様たちから婚約解消と籍を外すって言われて、

 同じA教室の人たちにお別れしないで出て来てしまったの。

 きっとアニータ様たち心配していると思って」


「アニータ嬢?ああ、レノリア家の令嬢か」


「あと、イノーラ家のジョセフ様とジュスティ家のアリーチェ様も」


「わかった。その三人には連絡しておこう。

 落ち着いたら手紙を書くといい」


「ありがとう!」


良かった。とりあえず無事であることだけでも伝えられたら。

公爵家の養女になることは、王家からの発表がなければ伝えられないだろうし。

発表されたら手紙でお礼と謝罪を伝えよう。


「さて、今日は父上たちが帰ってくるまでは、

 この部屋に隠れていることになる」


「……お父様、また来るかもしれない?」


「来ないとは思うけど、確実じゃないからね。

 ちゃんとアリアがうちの養女になるまでは見つかるわけにはいかない。

 大丈夫、午後には出られるよ」


「わかったわ」


「もうすぐ食事が届けられるはずだ。

 この部屋を知っているのはジャンだけだから、

 侍女は呼んであげられないけれど、朝の準備を手伝おうか?」


「大丈夫よ。今まで一人で全部してきたんだもの」


「そっか……」


よけいなことを言ってしまったかもしれない。

安心させたかったのに、リオ兄様はさみしそうに笑う。


寝台から起きようとしたら、リオ兄様が抱き起してくれる。

隠し部屋の奥には浴室までついていた。

お湯を出して顔を洗い、用意された服に着替えて、また部屋に戻る。


用意されていたのは若草色のワンピースだった。

この服も私の身体にぴったりの大きさで着心地がいい。

いつ私が帰ってきてもいいように用意していたって聞いたけれど、

八年もの間、ずっと服も買い換えていたんだろうか。


戻ったらリオ兄様も着替えが終わって、もう食事が届いていた。


「ジャンが来ていたの?」


「ああ。父上も俺もいない分、ジャンが動いてくれているからね。

 忙しそうだけど、アリアの心配をしていたよ」


「そうなんだ」


「これさえ終われば、あとはいくらでも時間がある。

 そうしたらゆっくり話せばいい」


「うん」


それほど広くない隠し部屋で二人で食べる朝食。

まだ温かいスープが美味しくて、つい頬がゆるむ。


「午後までは何もすることがないけれど、少しの我慢だから」


「え?どうして我慢?リオ兄様と一緒にいられるならうれしい」


「……可愛すぎる」


「え?」


「いや、何でもない。じゃあ、食べ終えたらのんびりしようか」


なんとなくリオ兄様が笑った気がして、首をかしげる。

何か重要なことを話しているわけじゃないのに、

この時間がどれだけ貴重なのかと思う。


目の前にリオ兄様がいる。一緒に食事をして、笑って。

怖いことがあっても、すぐに抱き着ける距離にいてくれる。


だけど、もう奪われることなんてないんだって思っても、

どうしても不安は消えない。

また……離されてしまうんじゃないかって。

こんなに喜んだのに、また一人にされたとしたら耐えられない。


「どうかしたか?」


「なんでもないよ」


なんでもないって言ったのに、リオ兄様は信じなかった。

まだ食事の途中なのに、抱き上げられ、スプーンを取り上げられる。


「ん?」


「ほら、口を開けて」


「自分で食べられるわ!」


「こうしていたら、一人じゃないって実感するだろう」


「リオ兄様……」


「ほら」


口を半分開けたら、そこにスプーンが差し込まれる。

誰かに食べさせてもらうなんて、いつ以来なのか思い出せないくらい。


「これじゃあ、リオ兄様は食べられないわ」


「終わったら、アリアに食べさせてもらおうかな」


「わかったわ」


私を膝から下ろす気がないんだってわかって、

このまま食事を続けることにした。


私がまだ安心しきれていないことに気がついたんだってわかるから。

リオ兄様の優しさにもう少し甘えていたい。



もうすぐ昼になる頃に、扉の向こうからゴゴゴと音がする。

誰かか隠し部屋に来ようとしている?ジャンかな。


扉が開いて入ってきたのは伯父様と伯母様だった。


「ただいま!アリアンヌ!」


「アリアンヌ!大丈夫?昨日、ジョスランが屋敷に来たんでしょう?」


「伯父様、伯母様、おかえりなさい。

 お父様は隣の部屋まで来たけど、あきらめて帰ったみたい」


「そうか。リオネルにこの部屋を教えておいて正解だったな」


「父上、書類は認められたんですか?」


「ああ、問題ない。アリアンヌ。もうアリアンヌは私たちの娘だ」


戸籍の写しなのか、書類を見せながら伯父様が笑う。


「アリアンヌ。お義母様って呼んでくれる?」


「そうだな。今日からは私が父親だ」


「呼んでもいいの?……お義父様、お義母様」


「あぁ、やっとだわ。やっとあなたを娘だと抱きしめられる」


感極まったようなお義母様に抱きしめられ、おずおずと抱きしめ返す。

ずっとお義母様を本当のお母様のように思っていた。

私を育ててくれたのはお義母様だから。

今日からはお義母様って呼んでも許されるんだ。


「アリアンヌはこれからずっとここにいていいんだ。

 私の娘だからね。誰にも邪魔はさせないよ」


「お義父様、ありがとう」


「うんうん」


お義母様に抱きしめられたまま、お義父様に優しく頭をなでられる。

なかなか隠し部屋から出てこないことを心配したジャンが呼びに来るまで、

ずっとそのままで話していた。



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