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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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23/61

23.ただいま帰りました

一人、精霊教会から出て、馬車へと向かう。

こんな時間に待機してくれているのか心配したけれど、

いつもの馬車の前でラルフが待っていてくれた。


「アリアンヌ様、事情は聞きました」


「ええ、最後までつきあわせてしまうことになってごめんなさい。

 修道院までお願いするわ」


「……アリアンヌ様、私はアリアンヌ様を王都のはずれの修道院に送るようにと、

 第二王子から指示を受けました。

 ですが、私を雇っているのは第二王子ではなく、陛下です」


「え?」


第二王子の婚約者なのだから、手配はカリーヌ様だと思ってた。

まさか、陛下が御者を雇っているとは。

驚いていると、ラルフは私の目をのぞきこんでくる。

まるで戦士のような静かな目に、背筋を伸ばさなくてはいけないような気になる。


「アリアンヌ様の命令に従います。

 修道院ではない場所に行きたいのではないですか?」


「修道院ではない場所?」


「そうです。このまま何も言わずに修道院に行ってしまったら、

 怒る方がいらっしゃるのではないですか?」


私が修道院に行ったら怒る方。

アラベル様は怒るだろうか。カリーヌ様はどうでもいいと言いそう。

そして……


「アリアンヌ様は会いたい方がいるのでしょう?

 その場所を言ってください。私はそれに従います」


「……行っていいのかしら」


「いいんですよ、アリアンヌ様が行きたい場所に行っても」


「……最後のお別れをしに、デュノア公爵家へ行くわ」


「かしこまりました。さぁ、お手をどうぞ」


優しく笑うラルフの手を借りて馬車へと乗る。

こんなわがまま、許してもらえるのだろうか。

不安になった私を見透かすように、ラルフはもう一度にっこり笑った。



学園からデュノア公爵家は遠くない。

数分もすれば着いてしまう。


周りの景色が見覚えのあるものになっていくと、不安は高まっていく。

縁を切られているのに、デュノア公爵家に行って大丈夫なんだろうか。

門の前で追い払われるかもしれない。


その時は、あきらめて修道院に行くしかない。

覚悟を決めた頃、馬車はデュノア公爵家に着いた。


久しぶりに訪れた公爵家の屋敷は少しも変わっていなかった。

訪問したのが私だとわかると、門番は走って知らせにいく。


良かった。門の前で追い返されなくて。

王都から出て行く前に最後に挨拶だけはしたかった。


「アリアンヌ!」


「……リオ兄様?」


遠くから私の名を呼ぶ声がする。

記憶にある声よりも低く、胸をぎゅっと締めつける。

最後に会ったのはリオ兄様が学園に入学する時期だった。

王宮で遠くから見たのは五年前。その時はもうあきらめてしまっていた。

二十三歳になったリオ兄様が走ってくるのが見えた。


肩まであった白銀の髪は短く切られ、青い目にかかるくらいになっている。

私の身長も伸びているはずなのに、身長差は変わらなかった。

ああ、リオ兄様がいる。目の前に。

何度会いたいと願っただろう。


あの時とは何もかもが違ってしまったけれど、最後に会えてよかった。

これでもう思い残すことはない。

大人になったリオ兄様を見上げていると、

少しだけ背をかがめて私の顔をのぞきこんでくる。


「あぁ、アリアンヌ。どうしてこんなにやつれて……」


「リオ兄様……私、もうだめです。頑張るのに疲れてしまいました」


「何があったんだ?」


「……婚約破棄されて、伯爵家から籍を抜かれました」


「は?」


「これから修道院に向かいます。

 最後にリオ兄様にお会いできて良かった」


「修道院…?」


もう貴族でもない私が公爵家の屋敷を訪ねても、会わせてもらえないかと思っていた。

この屋敷で暮らしていたのはもう八年も前だから。

門番にも忘れられてしまっているんじゃないかって。


ううん、違う。

今まで会いに来てくれなかったのは嫌われたからだと思っていたから、

リオ兄様は私と会いたくないのかもしれないと思った。

でも、こうして顔を見てお別れの挨拶ができた。

これでもう心残りはない。


「では、もう行きますね」


「だめだ」


「え?」


「アリアをそんな場所に行かせるわけないだろう。

 叔父上のところを追い出されたというのなら、ここにいればいい」


「ここに?」


「帰っておいで。大丈夫だ。アリアは俺が守るから」


「……帰って来てもいいの?」


「いいに決まってる。ほら、中に入ろうか」


「きゃっ」


昔みたいに軽々と抱き上げられ、そのまま屋敷の玄関へと向かう。

少しだけ挨拶したら修道院に向かうはずだったから、こんなことは予想外だ。

抱き上げられたまま門のほうを見ると、ラルフと門番が笑顔で礼をしている。

それがうれしくて、ちょっとだけ手を振った。


屋敷の中も何一つ変わっていなかった。

時を止めたままアリアンヌの帰りを待っていたように。


「アリア、おかえり。もう誰にも傷つけさせないよ」


「リオ兄様、ただいま……」


目の前がぼやけて見えると思ったら、頬を優しくぬぐわれて泣いていたことに気がついた。

あぁ、まだこんな風に泣けるなんて思わなかった。

もう私には感情が消えてしまったのだと思っていたから。




家族用の談話室へ入ると、リオ兄様は私をソファへとそっと座らせてくれる。

そのままひざまずくようにして、私に視線を合わせると両手をきゅっと握られた。


「落ち着いたら父上と母上のところに行こう」


「……はい」


リオ兄様は受け入れてくれたけれど、伯父様と伯母様はどうだろう。

デュノア公爵家として、私の存在は邪魔になってしまうのではないだろうか。

また不安になっていると、リオ兄様は大丈夫だと優しく微笑む。

リオ兄様がそう言うならそう信じたいけれど。


その時、談話室のドアが大きく開かれた。

飛び込んでくるように入ってきたのは、伯父様と伯母様だった。


「アリアンヌ!」


「あぁ、本当にアリアンヌだわ!」


驚いて立ち上がった私を伯父様と伯母様が両側から抱きしめてくれる。

伯父様は声を震わせ、伯母様は頬を涙が伝って落ちる。


「こんなに痩せて……どれだけ苦労したんだ」


「助けてあげられなくてごめんなさい。やっと解放されたのね!」


「あぁ、長かった……まさか八年も手放さないとは」


「アリアンヌ……一人で戦わせてしまうなんて。よくここまで頑張ったわ」


「伯父様、伯母様?」


両側から声をかけられ、どちらに返事をしていいかわからない。

戸惑っていると、リオ兄様が説明をしてくれた。


「あの時、アリアンヌが連れさられてしまってから、

 父上と母上もアリアンヌを取り返そうとしていたんだ。

 だけど、直接うちが手を出したことがわかれば向こうは意固地になる。

 たいしたことはできなくて、でもあきらめていなかったんだ」


「伯父様と伯母様も私を待っていてくれたの?」


「もちろんだ!」


「あなたは私の娘だと思って育ててきたのよ!

 ずっと待っていたに決まっているでしょう」


さっきまであんなにも泣いたのに、また目の前がぼやけていく。

声が震えて、うまく出せない。


「帰ってきて、いいの?」


「いいに決まっているだろう」


「アリアンヌ、お帰りなさい。ここはずっと、あなたの家よ」


「うん……ただいま」


良かった。本当に帰ってきて良かったんだ。

安心したら涙が止まらなくなって、泣き続けて。

でも、伯父様も伯母様もリオ兄様も背中や頭をずっと撫でてくれて、

泣きつかれて眠るまでそうしてくれていた。




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