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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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22.精霊のいたずらと呼び出し

その日はよく晴れていた。

いつものように学園に着いて、校舎へと向かう。

少し離れたところをアニータ様が歩いているのが見えた。


足を速めてアニータ様に追いつこうかと考えていたところ、

頭上から大量の水が降ってきた。


避けることもできず、ざばぁぁと水を頭からかぶることになり、

着ていた服はずぶぬれになった。


入学する時に用意された赤いワンピースだが、二着しか用意されていなかったため、

近頃は布がすり切れかけ、洗いすぎて色が落ちかけている。

朱色に近い色になったワンピースが濡れたせいで色が変わっているのが見えた。


いったいに何が起きたのかと呆然になる。

誰かが上から水をかけるには、校舎から離れすぎている。

空には雲一つない。この水はどこから?


「あれって、誰かのいたずら?」

「上には何もなかったわよ」

「じゃあ、精霊のいたずら?」

「あぁ、そうかも。あの人、精霊に嫌われているんでしょ」

「やだ。精霊に水をかけられるくらい嫌われているって、何したのよ」


周りの学生がくすくすと笑いながら話している声が聞こえる。

声をひそめる気もないのか、全部聞こえるが、反論することもできない。


「ちょっと、何しているの!大丈夫!?」


「アニータ様……」


「こういう時は医務室に行くわよ!」


「え?」


騒ぎになったせいで前を歩いていたアニータ様が気がついて戻って来てくれたらしい。

手をひかれて医務室に行くと、女性の補助員が出迎えてくれた。

この時間はまだ医師は来ていない。


「水をかけられたのですか!すぐに着替えましょう」


「お願いするわ」


「ええ、もう授業が始まりますので、あとはお任せください」


「わかったわ。アリアンヌ様、先生に遅れる理由は伝えておくわね」


「ありがとうございます」


アニータ様に助けてもらわなければ、どうしていいかわからなかった。

補助員はこういうことに慣れているようで、奥へと連れて行かれる。


「医務室には浴室がついているんです。

 けが人の血などを流さなくてはいけないこともありますので。

 身体が冷えてしまったでしょう。湯船につかって身体を温めてきてください」


「ええ」


「脱いだ服はすぐに洗って乾かしますから、この籠に脱いでください」


「わかったわ」


大量の水をかぶったから、ワンピースだけではなく、

下着までずぶぬれになってしまっている。

それを全部脱いで、浴室へと入る。

私が湯船に浸かっていると、籠を回収に来たのがわかった。


お湯につかるなんて何年ぶりだろう。

冷え切った身体が温まるまで待っていると、外から声がかかる。


「乾かした服はここに置いておきます」


「ありがとう」


補助員は精霊術を使えるらしい。

そうでなくてはこの短時間に服を洗って乾かすなんて無理だ。


……あの水は、私以外なら避けられたのだろうか。

それとも、濡れたとしてもすぐに精霊術で乾かすことができたのかもしれない。

だから、周りの人たちは笑いながら見ているだけだった。


あとできちんとアニータ様にお礼を言わなくては。

しっかり身体が温まった後、乾いた服に着替える。

補助員にお礼を言って授業へ向かおうとしたら、

医務室の前の廊下にはファロ伯爵家のディオ様が待っていた。



「アリアンヌ、ラザールが待っている。ついてこい」


「え?今からですか?」


「もうすでに授業には遅れているだろう。

 いいから黙ってついてこい」


「わかりました」


ディオ様も授業に出ずに何をしているのかと思うが、

よけいなことを聞いても怒らせるだけだ。

黙ってついていくと、どうやら学園の敷地内にある精霊教会に向かっている。


精霊教会があるのは知っていたが、

教会の者に嫌がられるのではないかと思い、行ったことはない。

行ったとしても、精霊に嫌われている私では精霊が見えないのだから。


ディオ様が精霊教会の入り口を開けて、一緒に中に入る。

この精霊教会は泉が精霊の住処なようで、奥に小さな泉があるのが見える。

その泉の近くにはラザール様とマーガレット。


教会の者はいないのか、誰もいなかった。

人払いしてまで、精霊教会で何をする気なのか。

もしかして、本当に私が下級以下なのか調べるつもりなのかな。



「やっと来たか。遅い」


「もうしわけございません」


前もって約束していたわけではないが、とりあえず謝っておく。

ラザール様は機嫌がいいようで、それ以上の文句は続かなかった。


「まぁ、いい。呼び出したのは、これをするためだ」


ラザール様が何かを懐から取り出した。

紙束?


「これは俺とお前の婚約誓約書だ。

 ここに署名をして、精霊に祈れば婚約解消となる」


「え」


「俺はもうこれ以上、お前にはつきあいきれない。

 勝手に結ばれた婚約にはうんざりだ」


それには同意しかないが、婚約解消されてしまったら……


「婚約解消になれば、お姉様は傷物だわ。伯爵家にいられると困るの。

 お父様からお姉様を伯爵家の戸籍から外す書類も預かってきているから、

 それにもちゃあんと署名してね?」


にっこり笑ったマーガレットに、血の気が引いていく。

どうしよう。婚約解消はうれしいけれど、家から追い出されるのは困る。

まだ何も準備ができていないのに、どうすればいい。


「やだぁ。そんなに嫌そうにしなくてもいいのに。

 私たちだってそこまでひどいことはしないわ。

 お姉様は平民になった後、修道院に行ってもらうことになってるから」


「……修道院」


よかった。それなら、そこで生きていくことはできる。

……じゃあ、もう、いいかな。

ラザール様にもマーガレットにも、お父様達にも振り回されるのに疲れてしまった。

もうこれ以上、何も頑張れない。頑張りたくない。


差し出された羽ペンで二枚の書類に署名をする。

それをディオ様が精霊の泉へとかかげている。


「精霊たちよ。この誓約書を認めてくれ」


この国の婚約、戸籍の書類は精霊の許可がなければ受理されない。

精霊に許可された時点で効力は発揮する。



二つ、三つと、泉から光がふわふわと浮いてくる。

それが書類へとまとわりつき、一瞬だけ光が強くなる。


精霊だ……久しぶりに見た。

もう二度と見ることはないかと思っていた。


「よし、これで婚約は解消できたな」


「ふふ。お姉様はこれで平民ね!あ、もうお姉様じゃないのか」


「そうだよ、こいつは平民のアリアンヌだ。

 もう行っていいぞ。俺は優しいからな、王家の馬車で修道院まで送ってやる」


「わかりました」



最後に挨拶でもしようかと思って、やめた。

何もお世話になっていないし、別れを惜しむこともない。


もう学園にも来ることはないと思うと、A教室の皆にはお別れが言いたかった。

けれど、このことがわかれば、助けようとしてくれるかもしれない。

優しい三人を巻き込んでしまうのは嫌だった。



一人、精霊教会から出て、馬車へと向かう。

こんな時間に待機してくれているのか心配したけれど、

いつもの馬車の前でラルフが待っていてくれた。


「アリアンヌ様、事情は聞きました」


「ええ、最後までつきあわせてしまうことになってごめんなさい。

 修道院までお願いするわ」



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