表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/61

19.追い詰められていく

「ラザール様、課題は自分で解かなくては意味がありません。

 次からはやりませんので」


「うるさい。これも王子妃の仕事だろう。

 黙ってやっておけよ」


「そんな仕事はありません」


「いいからやれよ。

 お前、俺と婚約解消になったら、屋敷から追い出されるんだろう?」


「え?」


「バルテレス伯爵が言っていた。

 お前が生意気なことを言うようなら婚約解消していいって。

 その時は屋敷から追い出して、平民にするってさ」


私を平民にして追いだす?

そんなわけないと言い返すことはできなかった。

お父様とお母様ならありえる。私を娘だなんて思っていないだろう。


もし、今すぐ屋敷から追い出されてしまったら。

平民として生きていく術なんて知らない。

行き倒れて死ぬくらいならましだ。売り飛ばされでもしたら……

想像しただけで血の気がひいていく。


「やっと自分の立場がわかったようだな。

 次からもちゃんとやれよ?捨てられたくなかったらな」


ラザール様がにやりと笑いながら去っていく。

呆然と見送るだけの私を見て、マーガレットがうれしそうにつぶやいた。


「ねぇ、ディオ。今までの仕返し、してもいいわよね。

 ずっとお姉様のわがままに困らされてきたんだもの」


「もちろん。マーガレットにはその権利があるさ」


「じゃあ、次からは私たちの課題もやってもらいましょう?」


「いいねぇ。じゃあ、義姉上、僕たちの分も頼みましたよ」


にやにやと笑うマーガレットとディオ様にも何も言い返せない。

悔しいというよりも、無力感でいっぱいになる。


それからは毎日のように課題を代わりに解かされる。

マーガレットの課題は刺繍などの提出物もあったが、

よろしくねの一言で押しつけられていた。


そのうち、ちょっとしたことでも用事を言いつけられ、

使用人のような扱われ方をしているのを見かねたのか、

アニータ様に聞かれるようになった。


「ねぇ、さすがに学園に言ったほうがいいのでは?

 王子たちに嫌がらせされているのでしょう?」


「アニータ様、見ていたのですか。

 ですが、婚約解消されてしまえば、私は学園に通うこともできなくなります。

 学園を卒業さえすれば、侍女や家庭教師としての仕事もできると思うのですが、

 今のままでは平民として生きていくことは難しいです」


「はぁぁ、普通は婚約解消しても追い出されることはないのだけど、

 どうやらアリアンヌ様の家は事情がありそうね」


「申し訳ございません」


謝ろうとしたら、アニータ様に止められる。

一学年の時は無視されていたが、ラザール様たちが入学した後から、

少しずつアニータ様から話しかけられることが増えた。


「最初はアリアンヌ様の評判が悪すぎて関わりたくなかったのだけど、

 一年間同じ教室で学んできたのだから、違うってわかっているわ。

 どう考えてもわがままを言って散財するような人じゃないって。

 それも王子たちのせいなのでしょう?何とかならないのかしら」


「アニータ様にわかってもらえただけで十分です」


「……本当に困った時は言って?

 少しくらいなら手を貸せると思うわ」


「ありがとうございます」


アニータ様の厚意はありがたいけれど、どこの家も私とは関わりたくないだろう。

評判が悪いだけでなく、第二王子の婚約者という意味でも。

その上、婚約解消して平民になった私を助けたりしたら。

バルテレス伯爵家とファロ伯爵家からにらまれる可能性もある。


お礼だけ言って、アニータ様からもそっと離れた。

仲がいいと思われたらアニータ様にまで迷惑がかかる。


卒業まで我慢すればいい。

きっとラザール様のあの様子では私と結婚する気はないだろう。

ラザール様の卒業までには婚約解消されると思う。

卒業するまでに平民となっても生きられる道を探しておかなくては。





ラザール様やマーガレットたちが人前でも平気で私を罵倒するようになったせいか、

他の学生たちも私を蔑んでいいような空気になっているのを感じる。


精霊に愛されていない下級以下だということで、

今までもいい目で見られていないことはわかっていた。

それでも伯爵家の令嬢、第二王子の婚約者という肩書もあって、

大ぴらに蔑ろにされることはなかった。


精霊術の授業、演習は受けられないが座学だけは出席を許可されている。

A教室とB教室の合同授業になっていて、小講堂にて授業を受ける。

教師が入ってきたと思ったら、後ろから誰かが声をあげた。


「先生、この授業を受ける必要のない人がいます」


「下級以下で精霊術を使えないのにここにいる意味はあるのでしょうか」


「邪魔なので出て行ってもらいたいのですが」


次々に発言されるので、誰が言っているのはよくわからない。

それでも多数の学生が私がここにいることを良く思っていないのはわかる。

発言の合間に、そうだそうだ、とか、よく言ったという声も聞こえてくる。


精霊術の座学は貴族としての教養でもある。

そのため、精霊術が使えない私でも出席を許されていたのだが、

それすらも許されないということだろうか。


教師はどうしていいのかわからないのか、おろおろしている。

仕方ない、黙って外に出ようと思った時だった。


近くに座っていたジョセフ様とアリーチェ様が席を立った。


「A教室の者が出席できないと言うのなら、俺たちも退席するとしよう」


「え?ジョセフ様が退席する必要はないのでは?

 私たちは下級以下がいるのが許せないだけで……」


「下級以下だから座学に出席してはいけない理由はあるのか?」


「……ですが……無駄ではないですか?」


「それを判断するのはお前たちではないだろう」


ジョセフ様の周りにいた学生たちが止めようとしたけれど、

ジョセフ様とアリーチェ様は席を立って、こちらへと歩いてくる。


それにもう一人。アニータ様まで席を立った。


「くだらないわ。私も退席するわね」


「アニータ様まで!?」


「A教室の仲間を侮辱されて黙っているとでも思ったの?

 ありえないわ。ほら、アリアンヌ様。行きますわよ」


「え。ええ?」


アニータ様とアリーチェ様に腕を取られ、四人で小講堂から出る。

教師は慌てて止めようとしていたが、三人は気にすることなくA教室へと戻ろうとする。


「三人は授業に戻られたほうが」


「何を言ってるんだ。あんなのに従う理由がない」


「そうよ。あのような理不尽なことを許してはダメよ。

 あちら側が謝ってくるまでは出席しないわ。

 どうせ、ここにいる四人は授業に出なくても勉強できるでしょうし」


「そうね。A教室に戻って自習しましょう」


「あ、あの。ありがとう」


私だけ退出すれば済むと思っていたけれど、三人は本気で怒ってくれているらしい。

謝ったらよけいに怒られるかもしれないとお礼だけ言った。





帰りの馬車に乗ろうとしたら、手を貸してくれた御者のラルフに声をかけられる。


「アリアンヌ様、顔色が悪いですが、何かありましたか?」


「ううん、ちょっと寝不足なだけよ。大丈夫」


「途中で具合が悪くなるようでしたら声をかけてください」


「ありがとう」


ここのところ、ラザール様たち三人の課題と自分の分の課題で、

睡眠時間が削られてしまっていた。

これが卒業まで続くのかと思うと気が重くなる。

今日もやることだらけで、何時に寝られるかわからない。


痛み出した頭を押さえるようにして、目を閉じた。

家までの短い時間でも、少しでも休みたい。

身体的にも精神的にも疲れてしまったからか、身体が凄く重く感じた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ