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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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18.ラザール様の入学

学園の入学式は新入生のみで行われるが、学生会だけは別だ。

各学年の上位三名が学生会に選ばれ、入学式の準備も手伝うことになる。


一年の時は学生会に選ばれていても名ばかりで、呼び出されることはなかった。

だが、二学年にもなれば三学年の手伝いで呼び出される。


初めて学園に来た学生たちを講堂へと誘導していると、

一台の馬車が入ってきたのが見えた。

あれは王家の馬車だ。

私が使用を許されている馬車よりも一回り大きい。

きっと第二王子ラザール様が乗っている。


その予想通り、馬車からは赤茶髪の令息が降りてくる。

この国ではめずらしい赤茶髪は昔と同じように短く切られている。


精霊は濃い色を好まないと言われている。

だから、黒髪の平民は精霊術を使えない。

赤は黒に近いため、やはり精霊に好まれない。

それを知ったカリーヌ様が見たくないと言って短く切らせていると聞いた。


九歳の誕生会の時に一度だけ会ったことがあったが、

あの時のラザール様はまだ八歳になる前で私よりも小さな男の子だった。


十五歳になったラザール様は身長が伸び、体つきもしっかりしている。

精霊術が使えないかもしれないからと、幼い頃から剣技も教えられたそうだから、

身体は鍛えているのかもしれない。


そのラザール様に続いて、一人の令息が降りる。

おそらく同じ歳だというファロ伯爵家の三男ディオ様。

茶髪茶目で長身なディオ様の顔立ちはラザール様に似ている。

身体つきもそっくりで、髪の色だけが違っている。


王宮にいるのを嫌ったラザール様はファロ伯爵家に滞在している。

そのため、ディオ様も一緒に登校したのだろう。


その時、もう一人が馬車から降りた。

ディオ様の手を借りて降りてきたのは、マーガレットだった。



どうして?と思っているうちに、三人が近づいてくる。

学生会の者としてラザール様を講堂に案内するべきか迷っていると、

ディオ様がラザール様に何か耳打ちしている。


眉をひそめたラザール様は私の前に来ると、声を荒げた。


「お前、俺を馬車まで迎えに来ないとはどういうことだ」


「え?」


「王族の婚約者なら、出迎えるべきだろう」


「ええ?」


そんなしきたりはあっただろうかと王族規範を思い返す。

いや、令嬢が出迎えるなんてことは普通ありえない。


「俺のことを馬鹿にしているというのは本当だったんだな!」


「そんなことはありません!」


「じゃあ、なぜ出迎えない!」


なぜと言われても困るのだが、とりあえず今は学生会としての仕事がある。


「今、ここにいるのは学生会の仕事です。

 入学生を講堂まで誘導するのが私の役割です」


「ふん!学生会か!また自慢なのか!」


「自慢ですか?」


「俺たちが学生会に選ばれなかったからわざとそう言うのだろう」


「ち、違います」


ラザール様が学生会に選ばれていないのなんて知るわけがない。

それは入学式の後で発表になるのだから。

慌てて否定したけれど、ラザール様は信じないようだ。


「人前だからと善人のように取り繕っていても、

 お前が性格が悪いわがままな女だと言うのは知っている。

 いつも屋敷ではマーガレットを虐げているのだろう!」


「そんなことはしていません」


「嘘つきめ!いいか、マーガレットはディオと婚約した。

 従兄弟の婚約者に何かするなら俺が許さない!」


「マーガレットがディオ様と婚約?」


では、ディオ様がバルテレス伯爵家の婿になると。

それは知らされていなかった。


「そうでしたか、おめでとうございます」


知ったからにはお祝いを述べなければと思ったが、

私の言葉を聞いたマーガレットは身体を震わせてディオ様に抱き着いた。


「……怖い、ディオ。帰ったら何をされるか」


「大丈夫だよ、もう何もさせないよ。

 ラザールが僕たちを守ってくれるから」


ラザール様が守らなくても、離れにいる私では何もできませんけど?

そう言い返したくなったけれど、やめておいた。

ここで何を言ったところで信じてもらえない。


「ラザール様、そろそろ講堂へ移動していただけますか?

 入学式が始まってしまいます」


「誤魔化す気か!」


「話があるのであれば、後でいくらでも。

 ラザール様がいなければ入学式を始められず、皆が困りますので」


講堂の前で教師たちがこちらを見ているのに気がついたのか、

ラザール様は舌打ちをして講堂へと向かう。

その後ろからディオ様がマーガレットを庇いながら歩いていく。


初日からこれではと気が重くなる。

他に入学生がいないことを確認して講堂に戻ると、

ジョセフ様に「お疲れ様」と声をかけられた。


いつもなら無視されるのにと思っていると、

少し離れたところからアニータ様もこちらを見ていたのがわかる。


二人ともラザール様との会話が聞こえていたらしい。

どちらにも同情されるような目で見られているのがわかって、

大丈夫だという意味をこめて微笑み返した。

このくらいで落ち込むことはないと。



問題はないと思っていたが、次の日からラザール様に出迎えるようにと命じられる。

カリーヌ様には頼れないし、王子からの命令を無視することもできない。

仕方なく、早目に登校してラザール様が来るのを待つ。


挨拶をする私を見ても、返事をすることもなくラザール様は教室へと向かう。

その度、ディオ様にはにらみつけられ、マーガレットはこっそりと笑っている。


いったい何のために私に出迎えさせているのだろうと思っていたが、

半月ほどしてから理由がわかる。


「これ、明日までにやっとけよ」


「え?」


帰りの馬車を見送ろうとしていた私にラザール様が何かを投げつけてくる。

聞き返す間もまく、ラザール様が乗った馬車は出て行ってしまった。


何を投げつけられたのかと見てみたら、

それは一学年の課題だった。


「これを明日までやっておけって、私が?」


課題を代わりにやっておけというのは許されるのだろうか。

それでも、しておかなかったら何を言われるのかわからない。

とりあえず受け取ってしまった以上はそのままにできず、

課題を解いて次の日の朝にラザール様に渡した。


「ラザール様、課題は自分で解かなくては意味がありません。

 次からはやりませんので」


「うるさい。これも王子妃の仕事だろう。

 黙ってやっておけよ」


「そんな仕事はありません」


「いいからやれよ。

 お前、俺と婚約解消になったら、屋敷から追い出されるんだろう?」


「え?」


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