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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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17.学園の始まり

学園の入学式、用意されていたのは目立つような赤いワンピースだった。

今まで私のために服を用意することなんて無かったお父様が、

どういう理由なのか、この服はマーガレットのお下がりではないようだ。


その証拠に丈がぴったりで、布が擦り切れたり裾がほつれていることもない。

ただ、学園に通うのに赤色というのは派手ではないだろうか。

離れには学園に着ていけるような服は無いし、

着古したマーガレットのお下がりを着ていくよりかはましかもしれない。


あきらめるようにして着替え、学園へと向かう。

王宮から頼まれているのか、御者は見慣れた高齢男性だった。

いつもは頭を下げているだけなのに、この日は違った。


「お嬢様、ご入学おめでとうございます」


「ありがとう。学園に通うのもあなたが?」


「はい。学園にいる時に王宮から呼ばれる可能性もありますので、

 卒業まではわたくしがお仕えいたします」


「そう。そういえば名前を聞いていなかったわね」


「ラルフと申します」


「ラルフ、これからもよろしくね」


「はい」


もう三年も御者としてついてくれていたのに初めてまともな会話をした。

学園に入学するのに、誰からもお祝いされなかったのに、

ラルフからお祝いの言葉を聞けたのがうれしかった。


理由はもう一つあった。

これまではいつ婚約解消されるかわからなかったし、

王家の使用人とどのような接し方をしていいのかわからなかった。

カリーヌ様には婚約解消するつもりがないことを知って、

学園の卒業まではこの生活が続くのだと覚悟を決めた。


学園に着いて、ラルフの手を借りて馬車から降りる。

やはり赤い服は目立つのか、一斉にこちらを見られた気がした。


なんとなく気まずい思いをしながら、講堂へと向かう。

講堂では一学年の学生たちが集まり、入学式を待っていた。


誰も知り合いはいないはず。

いや、デュノア公爵家の知り合いはいる。

だけど、バルテレス伯爵家はデュノア公爵家から縁を切られている。

昔の知り合いに会ったとしても声をかけることはできない。


……気のせいじゃない。

赤い服が目立っているからかと思ったが、周りから見られている。

そして、こそこそと話しているのが聞こえてくる。


「あの服、信じられないわ。学園を何だと思っているのかしら」


「派手なドレスや宝石が好きで散財しているって本当だったのね」


「なんでも、買ったものはすぐに飽きてしまって、妹に押しつけるんだって。

 あなたが着ればいいじゃないって。だから妹はお下がりしか着られないそうよ」


「えー何それ。妹さん可哀想じゃない!」


「そうだけど、第二王子の婚約者だから誰も文句を言えないんだって。

 父親の言うことも全く聞かないらしいよ」


どうやら私がわがままでドレスや宝石を買いあさっているという噂が、

この学園内でも広まっているらしい。


これはアラベル様が言っていた。

噂を増やすのは止められるけれど、流れてしまったものはどうにもならないと。

そして、用意された服が派手だったのは偶然じゃない。

これもお父様とマーガレットの仕業なんだ。


カリーヌ様に婚約解消の意思がないのなら、

これ以上何かすればラザール様の評判も下げてしまうのではないだろうか。

バルテレス伯爵家にお咎めがあるかもしれないのに、それは大丈夫なのかな。


今までも一人でいたから、それほど苦ではないけれど。

この学園でも友人どころか知り合いすら作れないかもしれない。


そんなことを思っていたら、優秀者の発表になっていた。

この学園では入学時の上位三名を表彰し、学生会に任命することになっている。

学生会というのは、学生の規律を守るための組織らしい。


「首席 ジョセフ・イノーラ」


発表されると周りからは歓声があがる。

王太子妃ロゼッタ様の弟、ジョセフ様が一位か。

この学年は王家も三大公爵家もいない。

一番高位貴族のイノーラ家が一位なのは順当かもしれない。


イノーラ家はデュノア公爵家の分家だからお披露目会や誕生会にも来ていた。

ジョセフ様にも二度ほど会ったことがある。

今は会ったとしても話すことはできないけど。


「次席 アリアンヌ・バルテレス」


「え?」


私が二位だった?驚いたのは私だけではなく、周りもざわついている。

家を継ぐ令息が多い中、私が二位になるとは思わなかった。


「三席 アニータ・レノリア」


今度はレノリア侯爵家の令嬢。

またも令息ではなかったことで、ざわめきがおさまらない。

三席までに令嬢が二人以上選ばれたのは初めてではないだろうか。


デュノア公爵家とは関わりがないため、アニータ様とは会ったことはない。

王妃アリエル様の生家エストレ公爵家の分家。

周りの学生たちが、ふわふわした金髪の小柄な令嬢を見ている。

きっと、あの方がアニータ様。

見た目は可愛らしいけれど、凛とした態度はさすが高位貴族だと思う。


発表が終わると、教室へと移動が始まる。

私は伯爵家なのにA教室となっていた。

おそらくラザール様の婚約者ということで準王族扱いになっている。


教室に入ると、机は四台しかなかった。

ジョセフ様、アニータ様、私、あとはもう一人?

金髪紫目の令嬢がジョセフ様と話しているが、あの方だろうか。


教師が入って来て、全員が席についた。

名前を呼びあげられたので、もう一人の令嬢が誰なのかわかった。

アリーチェ・ジュスティ ジュスティ侯爵家の令嬢。

たしかアラベル様の生家、ショバルツ公爵家の分家だったはず。



高位貴族しかいない教室だからか、ちらちらと見られることはないし、

悪口を聞くこともない。

だが、誰も私とは関わる気がないようだ。

いないものとして扱われている気がする。


授業の間は誰かと話すことはなく、昼食は一人で食堂へと行く。

そこでは他の学年や教室の令嬢たちが私に聞こえるように悪口を話している。

だが、そのおかげで自分の状況がわかってきた。


ラザール様との婚約後、カリーヌ様は伯父様に私を養女にするように迫ったらしい。

しかもたくさんの人が見ている夜会でだ。


今まで可愛がって育てていたのだから、養女にすればいいと言われた伯父様は、

アリアンヌは弟の娘だから奪うようなことはできないとはっきり断った。

それでもカリーヌ様は夜会で会うたびに同じようにお願いし続けた。


いや、普通のお願いならまだ良かったのかもしれない。

伯父様は筆頭公爵であり、第二妃よりも身分は上だ。

それなのにカリーヌ様は何を思ったのか伯父様に命令したらしい。


それがきっかけで、これ以上カリーヌ様のわがままにつきあえないと、

伯父様はバルテレス伯爵家とはもうすでに縁を切っていると公表した。


それもあってカリーヌ様、ラザール様だけでなく、

私までジスラン様が王太子になることを反対していると思われていた。


カリーヌ様がしたことと、私の評判の悪さ。

そして初日から派手な赤い服を着てきたこと。

一人で昼食を取っていることから、味方は誰もいないと判断され、

令嬢たちの攻撃対象になってしまっているようだ。


ふぅぅとため息を吐く。

一人でいるのも、悪口を言われるのにも慣れてしまった。

だけど、むなしさはある。

何のために頑張っているんだろう。


あぁ、そうだ。アラベル様の言葉があったからだ。

覚えた知識は武器になると。

アラベル様はきっと私が公爵家に帰れる日が来ると言ってくれた。

その言葉はもう信じていないけれど、それでも希望ではあった。

いつかまたリオ兄様に会える日が来た時に、恥ずかしくないように。


味方がいなくても、敵ばかりであっても。

前を向いて頑張っていたい。


そして、孤独な一年が過ぎ、嵐がやってくる。

第二王子ラザール様、そして妹のマーガレットが入学してきた。



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