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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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16.第二妃カリーヌ様

あと十日もすれば学園の入学式という時期になって、

第二妃カリーヌ様からお茶会の招待状が届いた。


第二王子ラザール様の婚約者になってから六年。

カリーヌ様ともラザール様とも何の交流もない。

このまま婚約解消になるのかと思っていた。


王子妃教育の時と同じように薄黄色のドレスを着て王宮に向かう。

今日は外宮ではなく、後宮のカリーヌ様の居住区に呼ばれていた。

後宮に入る際に所持品などの検査を受けたが、荷物と言えるようなものはない。

着ているドレスも王家から下賜されたものだ。問題があるわけがない。


女官の案内でカリーヌ様が待つ場所へと向かう。

そこはカリーヌ様専用の庭園だった。


座っている女性がカリーヌ様だと思うが、真っ赤なドレス。

妃が公式で着る黄色のドレスではない。

ということは、このお茶会は非公式なものらしい。


「あなたがアリアンヌね?」


「はい。アリアンヌ・バルテレスと申します。本日は」


「あぁ、そういう挨拶はいらないわ。座って」


「はい」


どうやら形式的なものは嫌いなようで、

持っていた扇子でカリーヌ様の向かい側の席を示す。


薄茶色の髪に茶目。色は平民に近いが顔立ちは美しく、貴族にしか見えない。

元は子爵家とは言っても、ファロ家は有数な商家でもある。

中級だという理由で側妃に選ばれたのだと思っていたが、

カリーヌ様自身の美しさもあって選ばれたのかもしれない。


「アリアンヌは思ってたよりも地味ね」


「地味ですか?」


「白金色の髪だと聞いていたのに、違うじゃない」


カリーヌ様に指摘されて、自分の髪を一房取って見てみる。

日に当たっても薄茶色に見える。

しかも、カリーヌ様の髪とは違って手入れをされていない。

パサついて艶のない髪は薄茶色というよりも黄土色?

以前のような光り輝く白金色には全く見えない。


「幼い頃は白金色でしたが、ここ数年ですっかり色が変わってしまいました」


「ふうん。ねぇ、下級以下だったっていうのも本当?」


「はい。本当です」


カリーヌ様が猫のような目をこちらに向ける。

じっと何かを観察しているようだが、ふうっと息を吐いた。


「失敗したわ。慌てて婚約なんてさせるんじゃなかった」


「え?」


「デュノア公爵家に縁を切られたっていうじゃない。

 そうよね。下級以下の伯爵令嬢を養女にする気はないわよねぇ」


がっかりしているカリーヌ様に、何も言えずに黙る。

地味な色になって、下級以下だった。ただの伯爵令嬢。

第二王子の婚約者として認められたかったわけじゃないけれど、

こんな風にすべてを否定されると悲しくなる。


「アリアンヌは特級だから王太子妃になる、なんて噂を信じたのが馬鹿だったわ」


「……あの、私が特級だったとしても王太子妃にはなれません」


「どうして?」


「王太子妃に選ばれるのは三大公爵家に生まれたものか、侯爵家です。

 養女になったとしても生まれが伯爵家の私では無理なのです」


「嘘!」


実際にジスラン様が選んだのはイノーラ侯爵家の令嬢ロゼッタ様だった。

イノーラ侯爵家はデュノア公爵家の分家だ。

三大公爵家にはジスラン様と合う令嬢がいなかったのか、

四人目の侯爵家出身の王太子妃となった。


結婚して二年目。そろそろ子が産まれてもおかしくない。

そうなれば、ますますラザール様の王位継承順位は下がる。


そういえば、カリーヌ様は王子妃教育を受けていないと聞いた。

だから、ラザール様が王太子になれるかもしれないと誤解しているのか。


「じゃあ、アリアンヌが特級で、デュノア公爵家の養女になったとしても、

 ラザールが王太子になることはなかったって言うの!?」


「そうです。あの……ジスラン様に何かあったとしても、

 次に王太子に選ばれるのは王弟殿下の息子であるクロード様です」


「は?王弟の息子?どうして?

 ラザールは王位継承順位第二位だって言われたわよ?」


それも誤解だ。いや、言われた時はそうだったのだ。


「ラザール様が王位継承権を認められた七歳のお披露目の時はそうでした。

 その二年後、クロード様がお披露目になり、順位が変わりました。

 王弟殿下は先代王妃から生まれていますので、そちらの血筋が優先になります」


「ラザールは王子なのに?」


「……王弟殿下は正妃から生まれた王子ですので」


この国の王位継承権は正妃の子が優先される。

側妃の子は、王妃の血筋が途絶えた時だけ王位につくとされているが、

この国が始まって以来、側妃の子が継いだことはない。

カリーヌ様が王子妃教育を受けてさえいれば、こんな誤解はしなかっただろうに。


「じゃあ、全部無駄だったってことね。

 わざわざお父様にお願いしてまで婚約させたっていうのに、

 ラザールが王太子にならないなら意味がないじゃない」


「どうしてラザール様を王太子にしたいのですか?」


言ったら怒られるだろうが、ラザール様は王太子に向いていないと思う。

一度しか会っていないが、王子妃教育で外宮に来ていると噂を聞くことはある。

十二歳で精霊教会に行ったが下級だったらしい。

それに納得いかなかったのか、反発して王子教育もさぼっているという。

最近では王宮にいることも嫌がっていて、

カリーヌ様の生家ファロ伯爵家に入り浸っているとも聞いている。


「私ねぇ、第二妃になったらもっと楽しいと思っていたの。

 なのに自由にお金は使えないし、どこに行くにも許可がいるし、

 遊ぼうにも後宮に呼べる人間は限られているし。

 ラザールが国王になれば、私も好きにできると思ったの」


「……万が一、ラザール様が王太子になられることがあったとしても、

 その場合は王妃の養子となることが決められています。

 カリーヌ様が生母として扱われることはありません」


「……信じられない。もう!なんなのよ!そんな決まり知らないわよ!

 あーもう。帰っていいわ。ラザールもアリアンヌもどうでもいい」


「どうでもいい、ですか?」


カリーヌ様は私に興味をなくしたようだ。それなら婚約は解消される?

そう思ったのに、そうではなかった。


「私はもう知らないから、ラザールのことよろしくね」


「え?」


「婚約しちゃったんだもの。簡単には解消できないでしょ?

 これも何かの縁だわ。あとは二人で頑張ってね」


「……そんな」


カリーヌ様は本当にどうでもよくなったように手のひらを軽くふって、

自分の部屋へと戻ってしまった。

置いて行かれた私は、女官が声をかけてくれるまで動けずにいた。




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