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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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12.マーガレットのおねだり

リオ兄様がいなくなった後もぼんやりと窓の外をながめていたら、

帰りの馬車の用意ができましたと告げられる。


迎えに来てくれたのと同じ御者がぺこりと礼をしてドアを開けてくれる。

私が乗った後、ドレスの箱も運び込まれた。


帰りも女官や護衛騎士はつかないらしい。

それも仕方ないとあきらめ、伯爵家の屋敷へと帰る。

久しぶりに人とたくさん話したから、少し疲れてしまった。

それでもアラベル様と会えたのはうれしくて、嫌な疲れではなかった。


馬車が着くと、御者が伯爵家の使用人へと声をかけていた。

このドレスは離れに置いておけるだろうか。

本邸で管理するのかもしれない。


「お嬢様のドレスを積んできている。運ぶために使用人を呼んできてくれ」


「わかりました」


報告を受けたのか、家令と侍女が荷物を取りに出てきた。

中身がドレスだとわかったからか、丁寧に箱を馬車から降ろしていく。

すべての箱が馬車から降ろされた後、私も家令の手を借りて馬車から降りる。


その時、本邸のほうから誰かが出てきたのが見えた。

ゆるく巻いた薄茶色の髪に、ふわりとした桃色のワンピース。

あれはもしかしてマーガレット?

三年ぶりに見たマーガレットは私よりも背が高く見える。

私の顔を見て驚いた後でニヤリと笑った。


「あらぁ。もしかしてお姉様?」


「ええ、久しぶりね」


「本当に久しぶりだわぁ。ねぇ、この箱はなあに?」


答える前に近くにいた侍女から箱を取り上げ、開けて見ている。

マーガレットは薄黄色のドレスを広げるようにして、

可愛らしく微笑んだ。


「わぁ!綺麗な色ね!こんな色のドレスは見たことがないわ!

 素敵ね!ねぇ、お姉様。このドレスはもらうわね!」


「え?」


「だって、お姉様には必要ないじゃない。

 お茶会に行くわけでもないし、お買い物にも行かない。

 こんな素敵なドレスはお姉様にはもったいないわよ」


「……何を言っているの?」


侍女が持っていた箱を奪うようにして次々と開けていく。

その度にこれもいいわぁとうれしそうにしている。

欲しがる気持ちはわからないでもないけれど、本気で言っている?


「え?この箱もドレス?もしかして全部そうなの?

 じゃあ、一枚だけはお姉様にあげる!

 あとは全部私の物にしてもいいわよね!」


どうしてそんなふうに思えるのか、

五着あるドレスのうち四着を自分のものにするつもりらしい。

だが、そんなことを許すわけにはいかない。


「だめよ」


「え?」


「このドレスはマーガレットが着て良いものじゃないわ」


「えええ?お父様!聞いて!お姉様が意地悪言うのよ!」


お父様?と思って見たら、ちょうどお父様が本邸から出てくるところだった。

どうやらマーガレットと出かけるところだったらしい。


「どうしたんだ?マーガレット」


「お姉様がこのドレスをくれないって言うの!

 こんなにいっぱいあるのに、私は着ちゃだめって!」


「なんだと?お前はまたそんなわがままを言っているのか!」


マーガレットの言葉を聞いて、お父様はすぐに怒鳴り始める。

忌々しそうににらみつけられ怯みそうになるけれど、

それでもお父様に言い返す。


「わがままなんて言っていません。

 このドレスはマーガレットに渡すわけにはいかないからです」


「お前にこのようなドレスなどもったいないわ!

 マーガレットのほうが似合うだろう!」


「ですが」


どうしてマーガレットに渡せないのか説明しようとしたら、

お父様は何も聞く気がないのか、ドレスの箱をすべて取り上げられる。


「いいからマーガレットに渡せ!これはマーガレットのものだ。

 妹のお願いもきけないような娘にはやらない!」


やらないって、お父様が仕立てさせたものではないのに。

もうこれ以上何を言っても無駄なのかと思い黙ると、

慌てたように家令がお父様を止めようとした。


「旦那様。それはいけません」


「なんだと?」


「薄黄色のドレスは王家か公爵家の婚約者のみが着ることを許されているものです。

 仕立てるのにも王家の許可が必要なものです。

 これはアリアンヌ様のために王家が仕立てたドレスです。

 もし、マーガレット様が着たことが知られた場合、

 マーガレット様は厳しい罰を受けることになります」


「……それは本当か?」


「本当です。安易な気持ちで着ていいものではございません。

 このドレスを着るということは身分を偽ることになり、厳罰に処せられます。

 マーガレット様だけではなく、この伯爵家も処罰されることになります」


マーガレットが着てしまったら、王家や公爵家の婚約者だと偽ったことになってしまう。

これは王家を侮辱することにもなり、最低でも貴族の籍は廃されてしまう。

第二王子の婚約者である私から無理に奪ったということがわかったら、

平民に落とされるだけでは済まないかもしれない。


「お父様、マーガレット、このドレスは王弟妃アラベル様から渡されたドレスです。

 王子妃教育に使うものなので、一枚でも紛失した場合、お父様の責任となります。

 ですので、マーガレットにあげるわけにはいかなかったのです」


ようやく拒んだ理由を言えたと思ったが、お父様の機嫌を損ねてしまったらしい。

ドレスはそのまま後ろに放り投げられてしまった。


「え?」


「ふん。こんなものはもういらん。

 マーガレット、新しいドレスを買いに行くぞ」


「本当!?お父様、ありがとう!」


ふふんと勝ち誇ったような顔で私を見たマーガレットは、

土の上に落ちたドレスを踏みつけてから馬車に乗る。

あぜんとしている間に二人が乗る馬車は屋敷から出て行った。


「……なんてことを」


王家の象徴の色である薄黄色のドレスを踏みつけるなんて。


「……アリアンヌ様、ドレスはこちらで綺麗にしておきます」


「……ええ。お願いするわ」


どれだけ不敬なことをしたのか理解できている家令も真っ青な顔になっている。

侍女たちが汚れてしまったドレスを拾い、急いで本邸へと運んでいく。

すぐに汚れを落とすのだろうけど、元通りになるだろうか。




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