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【書籍化】あなたたちに捨てられた私は、ようやく幸せになれそうです  作者: gacchi(がっち)


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10.王子妃教育

王宮は大きく三つにわけられている。


まず門を入ってすぐにある外宮。

文官や女官の執務室や近衛騎士の待機場所、

貴族が婚約などの手続きをする窓口がある。


通常時に貴族が許可なく入れるのは外宮までだ。


そして、外宮の奥にある本宮には謁見室や大広間など、

特別な手続きを得て入れる場所になっている。


最後に、最奥にある内宮は陛下や妃、王子たちが生活している宮で、

ここには貴族が入れる場所ではない。


私の王子妃教育は外宮で行われることになっている。

指定された部屋で待っていると、ノックされてドアが開けられる。

その後、一人の女性が女官を伴って入ってきたが、

第二妃カリーナ様ではなかった。


入ってきた女性を見て、誰なのかすぐに気がついた。

まとめあげられた美しい金髪、少したれた緑目。

すっきりとスカートを落とした形の黄色のドレスが良く似合っている、

王弟妃アラベル様だ。


礼をしたままの私の前まで来たアラベル様は、

顔をあげてと優しく声をかけてくれる。


「アリアンヌ、久しぶりね」


「アラベル様……お久しぶりです」


王弟ダニエル様はオレリー伯母様の弟でもある。

そのためダニエル様やアラベル様はデュノア公爵家とも交流がある。

こうして顔を合わせるのは私の九歳の誕生会以来だ。


「アリアンヌの王子妃教育は私が担当することになったわ」


「アラベル様がですか?」


思ってもいなかったので聞き返してしまったら、

部屋に控えている女官に聞こえないようにアラベル様は声をひそめた。


「カリーヌ様がアリアンヌに教えるのは無理だからよ。

 本人が終わっていないのですもの」


「……そうなのですか」


ラザール様を産んだことで生家は伯爵家に爵位をあげられたが、

第二妃になった時はまだ子爵令嬢だった。

それまで子爵家で教育されていただけの令嬢が、

あの量の本や資料を読んで覚えるのは無理に違いない。


今でも終わらせていないとは思っていなかったけれど。


「王子妃教育は王族しか知らないことも含まれているの。

 だから王子妃教育を教えられるのは、王族か公爵家に嫁いだものだけ。

 アリエル様や公爵夫人は公務や領地のことがあって忙しいでしょう?

 私が一番適任だってことね」


たしかにカリーヌ様が教えられないとなったら、

王妃アリエル様か公爵夫人、アラベル様に教えてもらうことになる。

私としてはアラベル様に教えてもらえるのはうれしいけれど、

王弟妃としての公務があって忙しいのは知っている。


「アラベル様もお忙しいのに申し訳ありません」


「ふふ。いいのよ」


ふんわりした印象のアラベル様だが、意外とはっきりものを言う方で、

性格が似ているオレリー伯母様とも仲が良かった。

……オレリー伯母様は、リオ兄様はお元気だろうか。


「それでね、アリアンヌ。

 あなたに言っておかなければいけないことがあるの」


「なんでしょうか?」


「第二王子の婚約者として、今のアリアンヌの立場は弱いものになっています」


「それは伯爵家だからでしょうか?」


「もちろん、それもあるわ」


王妃の産んだ王子の婚約者は三大公爵家から選ぶことになっている。

三大公爵家にふさわしい令嬢がいなければ、侯爵家から探す。

王子妃教育のために歴代王家の家系図も覚えてきたが、

王太子妃になったほとんどは三大公爵家の出身で、

侯爵家からは三人だけ、伯爵家以下から選ばれたことはない。


第二妃が産んだ第二王子とはいえ、

まだ王太子になる可能性がないわけではないラザール様の婚約者を、

伯爵家でしかない私を選んだというのはめずらしいことだった。


「カリーヌ様がアリアンヌを選んだ理由は二つ。

 一つはアリアンヌが特級だと思っていたから。

 そして、もう一つはデュノア公爵家が後ろ盾になると思っていたからよ」


「もしかして、カリーヌ様はラザール様を王太子にしたかったのですか?」


「その通りよ。だけど、私たち王族はラザールを推す気はないの。

 その理由は言わなくてもわかるわよね?」


「はい」


それは当然のことだ。

王妃が産んだ第一王子ジスラン様は今年で十八歳。

ここ三年の話はわからないが、優秀な方だったと思う。

私にも優しくて、もう一人のお兄様のような方だった。


学園を卒業すれば王太子に指名されるのは間違いなく、

わざわざ第二妃が産んだ七歳下の第二王子を王太子にする理由はない。

陛下や王妃、三大公爵家が認めるわけがない。


「アリアンヌが特級ではなかったというのは聞いているわ。

 それと、デュノア公爵家はバルテレス伯爵家と縁を切ったの」


「え?」


「表向きには長年アリアンヌを預かっていたのに、

 まともに話し合うこともなくむりやり連れ去るようにして帰った。

 それがきっかけで公爵家から絶縁を言い渡したことになっているわ」


伯父様がお父様と縁を切った?

それでは私もデュノア公爵家とは無関係になったということか。

もう伯父様、伯母様、リオ兄様とも呼べない……


「少しでも争いの種を作るわけにはいかないの。

 あなたがカリーヌ様に利用されることがないように、

 デュノア公爵もオレリー様もあえて縁を切ったの」


「私が利用されないために?」


「ええ、そうよ。公爵家はあなたと縁を切りたいなんて思っていない。

 今はつらいでしょうけど、きっと解放される日がくるわ。

 それまで私と一緒に頑張りましょう。

 私がアリアンヌに指導できるように手配してくれたのは陛下とアリエル様よ。

 時間はかかるけれど、いつかデュノア公爵家に帰れる日が来るわ」


「アラベル様……私、帰れるのでしょうか」


「ええ、きっと。だから、王子妃教育はしっかりと教えるつもりです。

 覚えた知識はアリアンヌの武器になります。

 だから、つらくても負けてしまわないで」


「………はいっ」


ポロポロと涙がこぼれてしまったら、アラベル様がそっと抱きしめてくれた。

部屋にいる女官たちは目をそらしてくれている。

本当は貴族令嬢がこんな場で泣いたりしたらいけないのに、

みんなが知らないふりをしてくれていた。


ひとしきり泣いたら心が落ち着いてきた。

泣いている場合じゃないと、ハンカチで顔をぬぐう。

それを見たアラベル様はにっこり笑って紙の束を示す。


「さぁ、まずはどれだけアリアンヌ様が覚えてきたか、試験をしましょうか」


「はい!」



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