表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜と姫と悪の教団  作者: ダイヤのT
3/8

第二章 賢者を求めて

 朝の光が城の石畳に優しく降り注ぐ中、アレサ王女は長旅の準備を整えていた。彼女の側には、義兄弟であり、忠実な家来でもあるテレジア、キルエリッヒ、ジョバンニ、そしてビルヘルムがいた。

 彼らはアレサの決意を体現するかのように、それぞれが特技を生かす準備をしている。

 彼らの目的地は、ある魔術学校の首席で卒業したというマーガレットを求めての旅だった。

「みんな、準備はいい? マーガレットはきっと私たちを待っているわ」

 アレサ王女は仲間たちに呼びかけた。

「もちろんだよ、義姉貴」テレジアが答えた。

「私もお供します、義姉上」

 ジョバンニが言った。

 キルエリッヒも「私もご一緒いたします、義姉君様」と申し出た。

 ビルヘルムはなぜか口を閉ざしたままだったが、アレサは常に彼女の側に控えている義兄弟の一人である彼を信頼していた。

「ビルヘルム、あなたはどう思う? 私と一緒に行くかしら?」

 彼は「ああ、もちろんさ、義姉」とだけ答えたが、その返答には深い愛情が込められていた。

 旅の準備が整ったところでアレサはドラゴンのセリオンに跨り、彼らは馬に乗ると城門へ向かって歩き出した。いよいよ出発の時がやってきたのだ。

「では、行きましょう。私たちの旅は始まったばかりよ!」

 アレサ王女の呼びかけに、仲間たちは「はい」と答え、彼女の後に続いた。

 彼らはルミナリア王国を取り戻す戦いため、賢者の獲得に向けて新たな一歩を踏み出したのだった。

 マーガレットは魔女の里と呼ばれるとある集落の出身であり魔術学校では首席であった彼女は、魔術師としても兵法家としても優秀といえる素質を備えている。

 また、彼女は優れた洞察力や論理的思考能力を持っているだけでなく、他人を勇気づける能力にも優れていた。

 マーガレットはルミナリア王国を取り戻す戦いにおいて、重要な役割を果たすに違いない。

 そう確信し、マーガレットが持つその能力を喉から手が出るほど欲しているアレサは、何としてでも彼女迎え入れんと義兄弟たちを伴って魔女の隠れ里へと向かう。

 アレサは魔女の隠れ里を目指して馬に乗りながら、マーガレットとの出会いを想像し胸を躍らせていた。

 魔女の隠れ里にたどり着いてすぐに、アレサは工房を見つけて早速中に入る。

 そこでは色とりどりの液体が入った容器が並べられており、近くには大きな釜が据えられている。どうやら調合をする所らしい。

 そこで作業をしている女性に「こんにちは!」とアレサは挨拶した。

「私はアレサと申します」

 彼女は優雅にお辞儀をして自己紹介をする。女性は一瞬驚いた表情を見せつつも、すぐさま笑顔を見せた。

「ごきげんよう、アレサさん」

と彼女は挨拶を返した。

「あなたがマーガレットさんなのですか?」

「いいえ、私はマーガレットではありません。私はただの作業員です」

「そうですか。では、マーガレットさんはどこに住んでいるのですか?」

 アレサが尋ねた。女性は少し間を置いた後、言葉を選びながら答える。

「マーガレットは、まだ集落にいると思いますよ」

 その返答で、アレサの表情はぱあっと明るくなり、更に質問する。

「彼女の家はどちらです?」

「ここから少し行った先にある、小さな家です」

「ありがとうございます! 早速、行ってみますね!」

 アレサはそう言い残し、早々と教えられた場所に向かう。

そこは工房からから少し離れたところにある小さな家であった。そして家の前にたどり着くと、馬から降りてノックをした。

 すると

「はーい」という老いた女性の声が中から聞こえ、やがて扉がゆっくりと開く。

「どちら様でしょうか?」

と、中から一人の女性が姿を現した。灰色の長い髪で白い肌、年齢は七十代くらいに見える。彼女はきょとんとした顔でアレサを見つめていた。

アレサは彼女の姿を目にして感激した様子でこう言った。

「あなたがマーガレットさんですね? 私はアレサと申します」

その女性は驚きつつも答える。

「……いいえ、マーガレットは私の娘ですが……」

「では、あなたは?」

「私はマーガレットの母親です。娘に会いにいらしたのですか?」

 アレサは深く頷くと、彼女に歩み寄る。そして再び質問を投げかけた。

「実は、あなたの娘さんにお願いがありまして……」

「なんでしょうか?」

「私に力を貸していただきたいのです」

 アレサは真剣な表情で言う。老女は一瞬戸惑いながらも、笑顔で答えた。

「それはもちろん、お引き受けしますよ」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 アレサは喜びのあまり、彼女に抱きつこうとする。しかし、老女は優しくアレサの手を取り制止し、話を続けた。

「ただ……私の娘がまだ帰ってきていないのです」

「それはどうしてですか?」

 アレサはさらに質問した。

「実は、彼女は今旅に出ているんです」と、老女は申し訳なさそうである。アレサは驚きつつも納得した様子で頷く。

「なるほど、そういうことでしたか。それで彼女はいつ頃帰ってくる予定なのでしょうか?」

「それがわからないんです。半年も帰ってこないこともあるんですよ」

と、老女は言った。その言葉を聞き、アレサは考え込む。

「わかりました! では、彼女あて一筆したためておきます。部屋を貸していただけないでしょうか?」

「いいですよ、どうぞ」

老女は快諾した。アレサは家の中に入り、マーガレットの部屋に入った。彼女は机の上に置いてあるペンと紙を手に取ると、スラスラと字を書き始める。手紙の内容は次のようなものだった。


親愛なるマーガレットへ


ご高名はかねがね伺っております。

あなたの素晴らしい知恵をお借りしたく、この度訪問させていただきました。ですがお会いすることかなわず、残念に思います。

いずれお会いしとうございます。

私はあなたが力になってくれることを望んでいます。帰ってくる時期が分かったら、教えてください。


アレサ


 アレサは手紙を書き終えると、老女に手紙を託し、マーガレットが帰ってきたら本人に渡すよう伝えた。

「では、彼女が帰ってきたらお知らせしますね」

そういう老女にアレサは握手をして別れた。

 その後、アレサ達は城に帰り、マーガレットに会える日を心待ちにする日々を過ごす。

そしてある日、ついに待ち望んでいた瞬間が訪れる。

「アレサ様! マーガレットが帰ってきました!」

 魔女の里から使者からその知らせを聞いたアレサはすぐに彼女の家に向かう。そして家の前にたどり着いたのだが、一足違いだったようで、彼女らが付いた頃にはマーガレットがすでに不在であった。

 しかし、そこで一人の老人が歩き回っているのを見かけたアレサは、その老人に声をかけることにした。

「失礼ですが、あなたはマーガレットさんをご存知でしょうか?」

「はい、存じておりますが……」

 老人は答えた。

「彼女はどこに行ったかわかりますか?」

 アレサは続けて質問した。

「マーガレットさんは神殿に行ったはずですよ」と老人は答える。

「それはどこですか?」

 アレサは再び質問した。すると、老人はゆっくりと指をさす。彼の指先の先には大きな建物があった。

 アレサはその建物をじっと見つめた後、老人に向かってこう言った。

「ありがとうございました! 助かりました!」

そして彼女は急いでその場所に向かう。マーガレットが神殿にいることを祈りながら、彼女は足を早めたのだった。

 しかし、彼女が神殿に到着した時には既に遅くマーガレットはそこにはいなかった。

アレサは落胆しながらも、神殿を後にする。彼女はマーガレットに会うことができずに残念だったが、次こそは彼女に会うことができるようにと心に誓った。

 それから数日経ったのある日のこと、アレサは義兄弟を伴ってマーガレットの家に改めて訪問する。

「こんにちは! 私はアレサと申します」

 程なく老女がやってきた。老女は申し訳無さそうにアレサに対応する。

「どうもこんにちは。娘は今寝ておりまして……。起こしてきますね」

「あ、いえいえ、大丈夫ですよ。それではマーガレットさんが起きるまでこのままお待ちしています」

「そうですか? それでは……」

そう言って老女は奥の部屋に引っ込んだ。

 アレサは家の前でただ待っている。

「義姉貴、マーガレットはいつ頃帰ってくるのか聞いてみようか?」とテレジアが話しかけた。

 しかし、アレサは首を横に振る。

「いいえ、大丈夫。待っていればいつか起きるでしょ」

 その言葉を聞いた義兄弟たちは皆納得した様子だったが、ただ一人だけ疑問に思う者がいた。キルエリッヒである。彼女は小声でアレサに囁いた。

(義姉君様……、なぜそこまでしてマーガレットに会いたいのですか?)

(賢者を迎え入れるのよ。礼を尽くすのは当然でしょう)

 アレサが耳打ちする。キルエリッヒは驚きつつも、「なるほど、それは大事ですね」と納得した。

 その後、しばらくすると老女が奥の部屋から出てきてアレサに声をかけた。

「マーガレットが起きましたよ」

 その言葉にアレサたちは喜びの声を上げる。

「ありがとうございます!」

 そう言って彼女は家の中に足を踏み入れた。そして奥の部屋に向かうと、そこには美しい女性がベッドに横たわっていた。

 その女性は上半身を起こしながら長い金髪を垂らし、青い宝石のような目をこちらに向けていた。

「こんにちは! 私はアレサと申します」

「こんにちは、アレサさん。私はマーガレットです」

「お会いできて嬉しいです」

 アレサは笑顔で言う。しかし、その笑顔とは裏腹に彼女の胸中では様々な感情が入り乱れていた。

 彼女はマーガレットに会えた喜びと同時に、彼女が自分に対してどのような感情を抱いているのかを知りたいという不安もあったのだ。

「それで、私に用があるということですが……」

 マーガレットが尋ねる。

「はい! お力を貸していただきたく参りました!実は、私は賢者を探しているのです。あなたならその力を貸してくれるとお聞きしました。どうか私の力になってください!」と、アレサは一気に捲し立てた。

「それは大変光栄なお申し出ですね」

 マーガレットは少し驚いた表情で言う。

「では、協力していただけますか?」

 アレサが再度確認するとマーガレットは難しい表情をする。

「うーん、そうですね……」

 彼女は少し考えた後、ゆっくりと答えた。

「申し訳ありませんが、その申し出はお受けしかねます。私のような田舎娘に何ができましょう」と、マーガレットはにべもない。

「そんな……」

 アレサは落胆する。しかし、そんな彼女にマーガレットはさらに追い打ちをかけた。

「それにあなたは私を過大評価しているようですね。私などただの研究者に過ぎないのです。賢者なんて力はとてもとも……」

 マーガレットの言葉に、キルエリッヒは心の中で思った。

(いや、あなたほど賢者の力にふさわしい人はいないでしょう!)

 しかし、その思いとは裏腹に彼女は謙虚な姿勢を崩さない。

「そんなことはありません! あなたは素晴らしい力を持っています!」と、アレサは必死に説得しようとする。しかし、彼女は首を横に振った。

「いいえ、私はただの人間です。あなたのような高貴な方にお力添えできるほどの者ではありません」

 マーガレットはきっぱりと言う。その態度にアレサは少しムッとしたが、それでも諦めずに説得を続けた。

 そしてついに……。

「ではせめて、私の友人になっていただけませんか?」とアレサは提案した。

 その言葉に今度はマーガレットが驚く。

「え? 友人ですか?」

「はい、そうです」と言いながら、アレサは満面の笑顔を見せる。

「それは……、とても光栄ですね」

 そう答えるマーガレットは戸惑いつつも嬉しそうであった。

「では決まりですね! これからよろしくお願いします!」と、アレサは手を差し出した。マーガレットもそれを握り返し握手を交わす。

 やった、と彼女は心の中で叫んだ。しかし、そんな喜びの感情を押し殺しながら彼女は言った。

「では早速ですが……」

 そう言ってアレサは懐からこれをどうぞ、と言って手紙を取り出し、マーガレットに差し出した。

 しかし、マーガレットは首を傾げた。

「これは何でしょうか?」

「これは私のお母様からの便りです。ぜひ読んでいただきたいのです!」

 そして、アレサはさらに言葉を付け加える。

「お願いします!私はあなたの賢者たる力を借りたいのです!」

 その言葉にマーガレットは戸惑いつつも手紙を開封し、読み始めた。

 すると……、突然彼女の顔色が変わり始めるではないか。そして、手紙を読み終わると、彼女はアレサの方を向いてこう言った。

「あなたは……一体何を考えているのですか?」

 予想外の反応に戸惑いながらもアレサは答える。

「私はただ、あなたの力を借りたいだけですよ」

 マーガレットはしばらく沈黙していた後、ゆっくりと口を開いた。

「……わかりました」

 その言葉を聞いた瞬間、アレサの脳裏に歓喜が湧き上がってくる。そして喜びを抑えつつ彼女に尋ねた。

「本当ですか!?」

 しかし、次の瞬間にはそれが間違いだったと思い知らされることになる。

「はい、ただし条件があります」

 マーガレットは平然とした表情で言った。アレサはその言葉の意味を理解しようと必死に頭を働かせた。そして彼女の中で出た結論はこうだった。

(つまり……何かしらの代償を求めているということね)

「その条件は?」と彼女は聞き返す。

 すると、マーガレットは答えた。

「私があなたに教える知識はあなたのお母様が知る必要のないものです。ですから、それを口外しないことです」

 その言葉にアレサは一瞬戸惑ったもののすぐに納得したように頷いた。

「なるほど、わかりました」

 そして彼女は続ける。

「では早速始めましょう!」

 こうして、アレサは賢者マーガレットを得たのである。

 だがこのときグランディア教の手の者が魔女の里に忍び寄っていることを、アレサ達は知る由もなかった。

目的は魔女の殲滅である。魔女狩りが始まる……。


 グランディア教による魔女狩りが計画されたのは、アレサがマーガレットと出会う少し前のことであった。

 グランディア教の司祭ヴィクター・ノクターンは、配下の司教たちを集め集会を開いた。

 彼は集まった者たちに向かって高らかに宣言する。

〝これより魔女狩りを開始する〟と……。

 その言葉を聞き一同騒然となる中、一人の若い司祭が言った。

 その名はヤコブといった。彼の特徴を一言で言えば、痩せこけた頬と鋭い目つきである。

 だが決して悪人というわけではなくむしろ誠実な性格の持ち主であった。

 そんな彼が険しい表情を浮かべながら言う。

「本当にやるつもりなんですか?」と彼はロッチに向かって尋ねた。すると、ヴィクターは頷きながら答える。

「そうだともヤコブ君。これは神のもたらした大地を我が物にせんとする傲慢な者どもを滅ぼせという神のお告げだ」

 その言葉を聞いた瞬間、ヤコブの顔に怒りの色が浮かんだ。だが、それでも彼は必死に自分を押し殺しながら言った。

「わかりました……」

 そして彼は会議室から出て行ったのである。その姿を他の者たちは黙って見送った後、ロッチが口を開いた。

「では皆さん、準備に取り掛かりましょう!」

 その言葉に一同は頷く。

 こうして魔女狩りが実行に移され、アレサ達とマーガレットのいる魔女の里に邪教の軍勢が迫るのであった……。


 やがて魔女の里にその軍勢が迫るという一報がもたらされた。

 それを聞いたアレサ達は驚きつつも、すぐに対策を考え始める。

(まさかこんなタイミングで襲ってくるとは……)と彼女は心の中で呟く。

 だが同時に、チャンスだとも考えた。なぜならグランディア教が魔女を討伐しようとすれば必ず里の人間を人質に取るはずだからである。

 そうなれば自分たちは抵抗することができずに捕らえられてしまうだろう。しかし、それが逆にチャンスとなるかもしれないのである。

(どうにかしてこの窮地を脱する方法を見つけなければ……)

 そんなことを考えているうちに時間は過ぎていくばかりであった。そしてついにその時は来てしまったのである……。

「アレサ様、大変です!」と一人の若い女性が慌てた様子で部屋に飛び込んできた。

 彼女は息を切らしながら言う。

「軍勢がこの里に向かっています!」

 その報告を聞いた瞬間、アレサは驚きの声を上げたがすぐに冷静さを取り戻して言った。

「わかりました、すぐ行きます」そして彼女は立ち上がり部屋を出て行こうとしたのだが……。

「でもどうやって切り抜ければいいのかしら?」と悩むアレサのかたわらで、テレジアがいきりたっている。

 「クソッ、あいつらはまた性懲りもなく来たのかい!」

「落ち着いて」とアレサはテレジアをなだめる。しかし、テレジアは怒りを抑えきれない様子だった。

「でもさ! このままだと里のみんなが危ないじゃないか!」と彼女が叫ぶように言うと、近くにいるジョバンニもそれに同調するように頷いた。

 確かにこのままではまずい状況である。だがどうすればいいのかわからずにいると、突然部屋の外から声が聞こえてきた。

「皆さん! どうかお静かに!」その声に驚いた一同が「誰ですか!?」と一斉に声を上げる。すると、部屋の扉が開かれ一人の女性が入ってきたのだ。

 その女性は長い金髪に青い瞳を持ち、美しい顔立ちをしていた。

 マーガレットである。彼女は部屋の中に入ってくるなり言った。

「皆さん落ち着いてください。まずは状況を把握しましょう」と彼女は冷静な口調で語りかける。

 その声を聞きアレサたちは冷静さを取り戻し、彼女の言葉に耳を傾けた。

  そしてマーガレットは説明を始めた。まず最初に彼女が説明したのは現在の状況についてである。

 グランディア教の軍勢は里を包囲するように展開しており、すでに攻撃態勢を整えつつあるというのである……。

 それを聞いた瞬間、一同に緊張が走ったが、それでもなお冷静に行動しようとする姿勢を見せた。

 そんな中、テレジアがマーガレットに対して質問を投げかける。

「それでこれからどうするつもりなんだい?」と彼女は尋ねた。すると、マーガレットはこう答える。

「まずは敵の目的を知ることが先決でしょう」と彼女が言うと、他の者たちも同意したように頷いた。

 そして話し合いの結果、まずは相手の出方を見るということになったのである。その提案にアレサたちも賛同した。

「まずは相手の戦力を把握しなくてはなりませんね」とマーガレットは言った。そして、すぐに偵察隊を送り出したのである。

 その結果、わかったことは以下の三つであった。一つ目は敵の兵力はおよそ一万人であるということ。二つ目はその内三分の二が騎兵であること。

 最後にこれが最も重要なことではあったが、敵は強力な魔導兵器を多数所有していることであった。その話を聞いた瞬間、アレサたちの顔から血の気が引いていった。

 なぜなら魔導兵器というのは魔法の力で動く巨大な兵器のことであり、その力は通常の武器とは比べものにならないほど強力だったからである。

 そんな絶望的と言える状況の中、キルエリッヒが言う。

「それでこれからどうしましょうか?」

 するとマーガレットが口を開いた。

「まずは敵の目的を知る必要があります」

「それはわかっているけど……」

 アレサはそう答えるも、それ以上の言葉は出てこなかった。するとマーガレットが言う。

「敵の目的が分かれば対策を立てることも可能になるはずです」と彼女は言った。その言葉にアレサは納得して頷きながら言う。

「確かにそうですね……」

 こうして話し合いの結果、まずは敵の動きを観察することになったのである。そしてその結果わかったことは敵がこちらの様子を窺っているということだ。

「それならこちらから仕掛けてみるべきかしら?」とアレサが言うもマーガレットはそれを否定した。

「いえ、今はまだその時ではありません」と彼女が言うと他の者たちもそれに同意したかのように頷いたのだった。

 その日の夜、アレサは自室に戻り考え事をしていた。

(一体どうすればいいんだろう……)

いくら考えても解決策が見つからない状況に頭を悩ませていると不意に声をかけられたのである。驚いて振り向くとそこにはマーガレットの姿があった。彼女は微笑みながら言う。

「どうかなさいましたか?」と尋ねられたので、アレサは思わず呟いた。

「いえ、何でもないわ」と言いながら慌てて首を横に振る。そんな様子を見て彼女は首を傾げたもののそれ以上追及することはなかった。

 代わりに別の話題を振ってきたのである。それはグランディア教についてだった。

 なぜ魔女狩りを始めたのか?なぜ自分たちを狙うのか? そんな疑問が次々と浮かんできたが、結局答えは見つからなかった。

 だが一つだけ分かったことがある。それはグランディア教が危険な存在であるということだ。

 そのことを伝えようとしたのだがうまく言葉が出てこず黙り込んでしまう。そんな様子を見たマーガレットが言う。

「無理もありません」と彼女は言った。

「え?」

 アレサは思わず聞き返すと、彼女の言葉を聞いていた他の者たちも頷きながら言ったのである。

 そうだよねぇ、と言うテレジアに対してジョバンニもまた同意するように首を縦に振っていたのだった。その様子を見たアレサは思わず笑顔になった。

 それからしばらくした後、マーガレットが立ち上がりながら言ったのである。

「それではそろそろ行きましょうか」と彼女が言うと他の者たちもそれに続いて立ち上がる。そして部屋を出て行ったのだった……。


翌朝、アレサたちは魔女の里を出てグランディア教の軍勢と対峙していた。

 その数は一万人であり、皆一様に黒いローブに身を包んでいる。その姿はまさに圧巻であった。

 そんな光景を見ながらアレサは呟くように言う。

(本当に勝てるのかしら……?)

 不安を感じながらも、アレサは覚悟を決めて戦いに臨むのであった……。

 アレサたちが戦の準備をしていると、突然後方から声が聞こえてきたのである。その声に驚いて振り返ると、そこにはキルエリッヒの姿があったのだ。

 彼女は息を切らしながらも必死に何かを喋ろうとしている様子だったので、アレサは慌てて彼女の元へ駆け寄ることにしたのである。

 すると彼女は息も絶え絶えになりながらこう言ったのだった。「援軍が来ます!」と……。

 その言葉に一同驚いたもののすぐに落ち着きを取り戻した。そしてジョバンニが尋ねる。「それは本当なのでしょうか?」と……。

するとキルエリッヒは頷きながら答えたのである。

どうやら彼女は嘘を言っているわけではないようだと判断した一同はすぐに行動に移すことにしたのだ。

まずはジョバンニが偵察に向かうことになったのだが、彼が出発した後にアレサはあることに気づいたのだった。

(そういえば司祭はどこに行ったのかしら?)

 そう考えているうちに時間が過ぎていったのである……。そして数時間後、ようやくジョバンニが帰ってきたのだ。彼は慌てた様子で言う。

「義姉上、まずいです! 敵の数が増えています!」と……。そしてそれを聞いたアレサたちは息を呑んだ。一体どういうことだと思いながらも、状況を詳しく聞くためにジョバンニを呼び寄せたのだ。すると彼は語り始めたのである……。

 実は偵察に向かったはずのジョバンニは途中で道に迷ってしまい、偶然にもグランディア教の軍勢の近くまで行ってしまったというのだ。そこで彼は見てしまったのだという。

「あれは魔導兵器でした」とジョバンニは言ったのだ。その言葉に一同はさらに驚きの表情を見せたのだった。

 なぜなら、魔導兵器とは魔法の力によって動く巨大な兵器であり、その力は通常の武器とは比べものにならないほど強力だとされているからである。

 それを目の当たりにしたジョバンニはすぐに引き返そうとしたのだが遅かった。既にグランディア教の軍勢に見つかってしまっていたのだ……。そして現在に至ります」と彼は説明を終えたのである。

(まさかそんな物が本当にあるなんて……)と思いながらもアレサは続けて質問を投げかけることにしたのだった。

「まずは敵の戦力を把握しなければいけません」

 マーガレットがそう言うとジョバンニは頷きながら言った。

「確かにそうですね……」

 そして話し合いの結果、まずは相手の出方を見るということになったのである。その提案にアレサたちも賛同したのだった。

 するとキルエリッヒが言う。

「まだ敵の動きはありませんね」

 彼女の言葉を聞いたアレサたちは頷いた後、改めて周囲を見回すことにしたのだ。だが特に変わった様子はなかったのである……。

 しかしその時であった!突然大きな音と共に大地が揺れ始めたのだ!

 アレサたちが驚いている間にも揺れはさらに激しくなっていったのである。

 そしてしばらくすると揺れは収まったものの、今度は地面から土煙が立ち上がっているのだ……。さらに風も強くなってきているようだった。

(一体どうなっているの!?)とアレサは思ったのだが何も分からないまま時間が過ぎていったのだった……。

 しばらくしてジョバンニが戻ってくると彼は慌てた様子で報告したのである。

 それは敵の魔導兵器が現れたということだった……!それを聞いた瞬間、一同に緊張が走った。

 そして遂にその時がやってきたのである!突如としてグランディア教の兵士たちが一斉に動き出したかと思うと、こちらに向かってきたのである……! 

 それを見たアレサたちは驚きを隠せなかったようだ。なぜなら彼らは武器も何も持たずにただ真っ直ぐこちらに向かって来ているだけだったからだ……。

 そんな光景を見たジョバンニは戸惑いながらもマーガレットに言ったのである。「マーガレット殿、これは一体どういうことでしょうか……?」と……。すると彼女は笑みを浮かべながら答えたのだ。

「恐らく彼らは我々を殺すつもりではないのでしょう」

 その言葉に一同はさらに困惑した様子を見せる。

「なぜそんなことが分かるのですか?」とアレサが尋ねると、彼女は微笑みながら答えたのである。

「もし本気で私たちを殺すつもりならば、もっと早い段階で攻撃していたはずです」と言う彼女の言葉を聞いてジョバンニは納得できたようだった。

 なぜなら先ほどの戦いにおいてもグランディア教の兵士たちの攻撃は非常に緩やかであったからだ。

 そんな会話をしている間にも状況は刻一刻と変化していったようだ。

 最初はゆっくりと近づいてきていた敵の兵士たちだったが徐々に加速し、今では全速力でこちらに向かってきているのが分かったからである。

 それを見たアレサたちは覚悟を決めるしかなかった……。

そしてついに戦いが始まった! まず最初に攻撃を仕掛けたのはマーガレットであった!

 彼女は魔法を使い敵の動きを鈍らせることに成功する! その隙を狙って他の者たちが次々と攻撃を繰り出した結果、敵の兵士たちは次々と倒れていったのである。

 その様子を見ていたアレサたちは歓喜の声を上げたがそれも束の間のことであった。なんと今度は敵が反撃してきたのだ!

 彼らは魔導兵器を操りながら攻撃を開始したのである!

「あれは一体なんなのですか!?」

とジョバンニが驚きの声を上げる。するとマーガレットは冷静に答えたのだった。

「あれが魔導兵器と呼ばれるものです」

 その言葉を聞きアレサたちは驚愕の表情を浮かべたまま固まってしまったのである……。

 そしてしばらくすると我に返ったかのように一斉に動き出したのだ! まず最初に行動したのはアレサであった。

 彼女は魔法を唱えると周囲にいた兵士たちを次々と吹き飛ばしていったのである。

それから他の者たちも次々と攻撃を開始したことで形勢は逆転していったのだった…

 その様子を見ていたジョバンニは安堵していたようで、その表情からは緊張が解けているようだった。

やがて敵の兵士たちは全滅し、戦いは終わったのである。

その後アレサたちは自分たちの勝利を喜び合うと共に今後の対策を考えなければならなくなったのであった……。

 翌日、アレサたちが目覚めた時には既に日が高く昇っていたようだ。眠気まなこを擦りながら身支度を整えた彼女たちだったが、そこでふと思い出すことがあったようでマーガレットに尋ねたのだ。

「昨日のあれは一体なんだったのでしょうか?」と。すると彼女は答えたのである。

「あれは恐らくグランディア教の仕業でしょう」

 その言葉を聞きアレサたちは再び驚いた様子を見せる。そしてさらに詳しく話を聞くことになったのだった……。

「なぜそう思うのですか?」とジョバンニが尋ねると彼女は答えたのである。

「まず第一に、あの数の兵士たちをどこから連れてきたのかということですね」

 その疑問に対してジョバンニは考える仕草を見せながらも言った。

「確かにそうですね……」と納得するように頷いている様子が見られた。そんな様子を見たマーガレットは微笑みながら言う。「恐らくグランディア教はあの兵士たちをどこからか連れてきたのでしょう。そしてそれを我々に差し向けたのです」

 その言葉を聞きアレサは考え込むような仕草を見せたが、やがて顔を上げて言ったのである。

「つまりグランディア教団はあの魔導兵器と呼ばれるものを量産しているということ……?」と……。するとマーガレットは静かに首を横に振ったのだ。

「いえ、それは違います」と彼女は断言するように言った。その言葉にアレサたちは首を傾げるばかりであった。そんな様子を見て彼女は説明を始めたのである……。

「グランディア教が魔導兵器を量産しているという証拠は今のところ見つかっておりませんし、そもそもそういった技術が存在しているという話も聞いたことがありません」とマーガレットは言う。

 それを聞いたジョバンニは少し考え込んだ後で口を開いた。

「ではなぜそのような推測をしたのですか?」と……。

 すると彼女は微笑みながら答えたのだった。

「それはグランディア教団の信仰心の高さによるものですよ」と言いながら微笑む彼女に対してアレサたちは首を傾げていたのだった……。そんな彼女たちの様子を横目で見ていたマーガレットはさらに続けたのである。

「グランディア教というのは非常に強い信仰心を持っています」と彼女は言う。その言葉にアレサたちは興味を持ったようで耳を傾けていたようだ。そんな彼女たちの様子を見たマーガレットは話を続けることにしたのだった……。

「彼らは神への絶対的な忠誠を誓っているのです」

その話を聞いたジョバンニは思わず呟いた。

「神への忠誠ですか……?」と。そんな彼に対してマーガレットは微笑みながら言ったのだ。「そうです、それが彼らの信仰心の高さの表れなのですよ」と……。

 その言葉を聞きジョバンニは納得したような表情を浮かべていたが、他の者たちはまだよく分かっていない様子だったようだ。

 そんな彼女たちに対してマーガレットはさらに説明を続けることにしたのだった……。

「グランディア教の信仰心の高さというのはつまり神への絶対的忠誠ということです」と彼女は言う。

 その言葉にアレサたちは首を傾げたまま話を聞いていたのだが、そこでようやく理解することができたようだ。

「なるほど、そういうことだったのですね!」とアレサが言うと他の者たちも納得した様子であったのだ。

 そんな彼女たちの様子を見たマーガレットは満足そうに頷くとさらに話を続けたのである……。

「つまり、グランディア教の信仰心の高さというのは神への忠誠そのものであり、それが彼らの行動原理にもなっているということです」と彼女は言った。

 その言葉を聞いたアレサたちは驚きを隠せなかったようだ。まさかそんな考え方があるとは思ってもいなかったからである。

 そんな彼女たちの反応を見たマーガレットは微笑みながら言ったのだった……。

「ですので、もし仮にグランディア教団が魔導兵器を量産しているという情報があった場合、それは非常に重要な手がかりとなるでしょう」と……。

 その言葉を聞きアレサたちは納得すると同時に、その情報をどうやって得ればいいのかという疑問を抱いたようだ。

 そんな彼女たちの表情を見たマーガレットは微笑みながら言ったのである。

「その情報を得るためには、まずグランディア教団について詳しく知る必要があります」と彼女は言う。そしてさらに続けたのだった。

「そのためにはまず彼らの動向を注意深く観察する必要があります」と……。その言葉に他の者たちは大きく頷いたのであった……。

 その後、アレサたちはグランディア教団の動向を探るために様々な手段を講じることになった。その結果、彼らは驚くべき事実を知ることになるのだった……。

 ある日、アレサたちがいつものように朝食を食べていると突然扉が開き一人の女性が入ってきたのだ。

 その女性は修道女の姿をしており、手には一本の矢を持っていたのである。彼女は部屋に入るなり話しかけてきたのだ。

「おはようございます」と言いながら頭を下げる彼女にアレサたちも挨拶を返すことにしたのだが、その直後に彼女が放った一言によってその場の空気は一変することになるのだった……。

 「アレサ様、ちょっとよろしいでしょうか?」

「どうしたの? その手にもっているのは何?」

「つい先ほど、こんな矢文が射ち込まれたのです。まずはこちらをご覧なさいまし」

と彼女は言うと一枚の紙を差し出したのだ。そこにはこう書かれていたのである……。

 アレサは手紙を手に取って読み始めた。

『村の者たちに告ぐ。村を守る意思がおありならば、アレサの首と金貨500枚を差し出されよ。期限は本日日没まで。それまでに返答なく、要求が満たされなければ、わが軍は貴殿の村に対し、攻撃を開始する。返事は村外にて待つ。奴一人と村人たち、どちらが大事かよく考えて決断されよ。』

アレサは手紙を強く握りしめた。そして怒りに震える声で言ったのである……。

「これは一体どういうことなのかしら……?」

「私にも分かりません。ただ、一つだけ言えることはグランディア教が関係しているということです」とマーガレットは答えたのだ。

 その言葉にアレサは驚きの表情を浮かべたまま固まってしまったようだ。そんな彼女に対してさらに続けたのである。

「恐らくこの村を滅ぼそうと考えているのでしょう……。私たちは彼らにとって邪魔な存在ですから」と……。

 その言葉を聞きアレサは居ても立ってもいられない様子だった。その傍らで、ジョバンニがすかさず声をかけた。

「義姉上。いったいどうされるおつもりなのですか?」

「決まってるじゃない!ここは打って出る!」

とアレサは力強く宣言したのだった。

「義姉上、それは危険すぎます!」ジョバンニは慌てて止めようとしたのだが彼女は聞く耳を持たなかったのである……。

 そしてついに戦いが始まったのだ……!  最初に動き出したのはマーガレットであった。

 彼女は魔法を唱えると敵の兵士たちを次々と吹き飛ばしていったのだ! その隙を突いてテレジアたちは攻撃を仕掛けたのである。

 しかし、敵もそう簡単にやられるはずもなく反撃を開始したのだ。その結果、状況は一気に逆転してしまったのである……。その様子を遠目に見ていたジョバンニとアレサは焦りを感じていたようだ。このままでは全滅してしまうかもしれないと思ったからである……。

そんな彼らのもとにマーガレットが戻ってきたのだ。そして慌てた様子で報告したのである……。

「敵の数が多すぎる!このままだと私たちは全滅するかもしれないわ!」

 その言葉を聞き、テレジアたちも状況を改めて把握したようだった。確かに敵は圧倒的に有利であり、このまま戦い続けたところで勝ち目がないことを悟ったようである。

 そこでテレジアはこう言ったのだ……。

「ここは一旦引くべきだね!」

その言葉を聞きアレサたちも納得した様子であった。そしてすぐに撤退の準備を始めたのである……。

 しかし、そんな彼女たちの前に現れたのは一人の人物だった。それはなんとグランディア教の司教ヴィクターだったのだ!

 彼は不敵な笑みを浮かべながら話しかけてきたのだ……。

「おや?もうお帰りになられるのですか?」と……。

 その声を聞いた瞬間、一同は背筋が凍るような感覚を覚えたようだ。なぜならその声はとても冷たく感じられたからである……。

 そんなことなどお構いなしに、ヴィクターはゆっくりと近づいてきたのだ。そして笑みを浮かべながら言ったのである。

「さて、皆さんには選択肢が与えられます」と……。

 その言葉を聞いたアレサたちは警戒しながら身構えたのである。

 そんな彼女たちの様子を見たヴィクターはさらに続けたのだった。

「このままお逃げになられるか、それともこの場で殺されるか選んでください」と言ったのだ。その言葉の意味を理解したアレサたちは愕然としてしまったようだ。まさかそんなこと言われるとは思っていなかったからである……。

そんな彼女たちの反応を見たヴィクターは満足そうに微笑むと言ったのである。

「さぁ、早く決めてください」

 その言葉に反応したのはテレジアだった……。彼女は意を決して言った。

「たとえここで命尽き果ててもいい。義姉貴の背中は何としてでもあたいらが守る……!」と……。

 それを聞いて他の者たちも同じように覚悟を決めたようだった。そして一斉に攻撃を開始したのである!

 しかし、そんな抵抗も虚しく、次々と倒されていく仲間たちを見てアレサは絶望に打ちひしがれてしまったようだ。

 そんな彼女に対してヴィクターは言ったのである。

「もう諦めなさい」と……。

 その冷たい声を聞いた瞬間、アレサの心は折れてしまったのだ……。そして彼女はその場に座り込んでしまったのである……。

 そんな彼女の姿を見たヴィクターは満足そうに微笑むと言ったのだった。

「これでようやく邪魔者が消えたな……」と……。

 その言葉を聞きアレサたちは恐怖に震えた。そして同時に悟ったのだ……自分たちはもう助からないということを……。

 その時だった!突然、一人の人物が飛び出してきたのだ!その人物とはジョバンニであった!

 彼は大剣を抜いて斬りかかったのだが、あっさりと避けられてしまったのである……。しかしそれでも諦めず何度も攻撃を仕掛けていったのだ。

 その姿を見たヴィクターは苛立ちを隠せなかったようで舌打ちをしながら言ったのだった。

「この愚か者めが!」と……。

 その言葉にも構わずジョバンニは戦い続けたのである! やがてヴィクターの攻撃が激しくなり、ジョバンニの体は傷だらけになってしまったがそれでも彼は諦めようとしなかったのだ……。

 そんな時、里の周りが騒々しくなっていた。キルエリッヒとビルヘルムが軍を率いて邪教の手勢に向かってきた。その様子を見たアレサ達は安堵の表情を浮かべていた。これでもう安心だと思ったのである……。

しかし、ヴィクターだけは違ったようだ。彼はキルエリッヒの姿を見た瞬間、顔色を変えたのだ。

そのヴィクターを見て他の者たちは首を傾げたが、すぐにその理由を理解したようだ。

 なぜならキルエリッヒの表情はまさに鬼のような形相だったからだ……。そんな彼女を見ただけで背筋が凍るような感覚に襲われたのである。

そんな中、キルエリッヒは単身で突っ込んでいったのだ!

 その様子を見たアレサたちは驚きのあまり言葉を失ってしまったようだ……。まさか一人で行くとは思っていなかったからである……。

 邪教の軍勢はいきなり雨のごとく降り注ぐ矢を喰らい、動揺していた。

 キルエリッヒはその隙を突いて次々と敵の兵士たちを倒していき、ついにヴィクターのもとに辿り着いたのだった。

 そして一気に距離を詰めようとしたのだが、その時だった!突如として地面が大きく揺れ始めたのだ!!

 突然のことにバランスを崩した彼女はその場で尻餅をついてしまったのだ。

 しかも運が悪いことにそのすぐ後ろには巨大な岩があり、それにもたれかかる形になってしまったのである。

 これにより身動きが取れなくなってしまったキルエリッヒは絶体絶命の状況に立たされてしまったのだ……!

 そんな様子を見たヴィクターはニヤリと笑みを浮かべると、ゆっくりと近づいてきたのである……。

 そして彼女の前に立つと言ったのだ。

「くっくっく……。ようやく捕まえたぞ」その言葉に彼女は恐怖を感じたものの、それでもなお気丈に振る舞ったのだった……。しかし内心はかなり焦っていたようだ……。

 その様子を見たヴィクターはさらに続けたのだ。

「さぁ、まずは邪魔をした貴様に死んでもらおう……」と言いながら剣を振り上げたのである!その瞬間、キルエリッヒは覚悟を決めたようだった。そして目を瞑ったのである……。しかし次の瞬間、聞こえてきたのはヴィクターの悲鳴だったのだ!

 驚いて目を開けた彼女は信じられない光景を目にしたのだ。

 なんとそこには一人の男が立っていたのである! その男は剣を構えながらヴィクターを睨みつけていたのだった……。

 その男こそ、ジョバンニだった!!彼は怒りに満ちた目でヴィクターを睨みつけていたのだった。

 そんなジョバンニを見たヴィクターは驚きのあまり固まってしまっていたようだ。

その間にジョバンニは目にも止まらぬ速さで次々と攻撃を繰り出していったのだ。

ヴィクターはその攻撃を受け流すことで精一杯だったようで反撃する余裕がなかったようだ。

やがてジョバンニはヴィクターを追い詰めた。そして最後の一撃が放たれる直前、彼は咄嗟に避けようとしたのだが間に合わず直撃を受けてしまったのである……。

その一撃によりヴィクターは倒れ込み動かなくなった。どうやら気絶してしまったようだ。

 そんな様子を呆然と眺めていたキルエリッヒは我に返ると慌てて駆け寄り声をかけたのだった。

「ジョバンニ!怪我はない!?」と心配する彼女に、ジョバンニはゆっくりと顔を上げたのだ。そして優しく微笑んだ後、静かに首を横に振ったのだった……。

 その様子を見たアレサ達は安堵したような表情を浮かべたがすぐに真剣な顔つきに戻り言ったのだ……。

「義姉上、早くここを離れましょう」

 その言葉にジョバンニは頷くと立ち上がり、そのまま歩き出したのである。

その姿を見たアレサ達は急いで後を追いかけていった。

 こうして戦いは終わったのだった。

その後、アレサたちは村に戻り事の次第を説明した。それを聞いた村人たちは驚きを隠せない様子だったようだ。

 まさか邪教が関わっていたとは夢にも思っていなかったのだろう……。

 しかし、同時に怒りも湧いてきたようで、すぐに対策を練ることを決めたようだ。そして早速行動に移したのだった。

 最初に行われたのが、村の警備の強化だった。これにはアレサとジョバンニが中心となって取り組んだのである。特にジョバンニの活躍は目覚しく次々と敵を撃退していったことで、奴らに対する抑止力となった。

その様子を見ていた村人たちからは感謝の言葉が数多くかけられたという……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ