支払い能力
樹海に捜索に出た冒険者のお客様、総勢47名様。それぞれの実力に応じて捜索する場所はまちまちだ。
まだ経験の浅い冒険者は何時でも退却可能な浅い所を横に捜索してもらう。
一方で、ゴブリンの群れとか他の魔物と遭遇しても自力で切り抜けられる実力者はその実力に応じてある程度深い所まで捜索してもらう。
そして現在、このスタート地点には私とナンシーしか居ない。
皆様が戻られるのは3時間後だ。冒険者の皆様は月の位置の変化で時間の経過が判るから凄いわよね。
だからタイムリミットを決めたの。それ以上は危険なので捜索は中止よ。
ウチのお願いで危険な目に遭ったら洒落にならないからね。
「若女将、捜索に参加して頂いたお客様にはお礼として本日の宿泊料金、7800サートゥルを無料としています。更に発見者は30日の無料、それがパーティーならメンバー4人までが無料となっております」
「そうね。でも仕方ないでしょ」
上の立場の人間が狼狽えたらダメよね。冷静でいなきゃ。
「あの初心者向けの見窄らしい装備からして若女将、彼女達にその支払い能力が有るとは到底思えません!」
「そうね」
現実的な問題を心配するナンシーに対して、「それがどうしたの?」と言わんばかりに淡々と答える。
実際には凄い赤字になるので心臓はバクバクしているんだけどね!
でも立場上、狼狽える訳にはいかない!
「ねぇナンシー、ゴブリンに腕を切り落とされる冒険者って脈が有ると思う?」
「正直に申し上げますと、前途はかなり厳しいと言わざるを得ないかと」
そりゃそうよね。初心者とはいえゴブリン相手に冒険者生命を絶たれる様な怪我を負わされているんじゃ。この先はもっと強い魔物と戦う事になるので、命が幾ら有っても足りないわね。
「彼女達に今日の必要経費はきっちりと払ってもらうわよ。借金として」
「借金ですか? 冒険者にとって貸し借りはとても重要です。何かをさせるおつもりですか?」
「そうね。返済出来るまで暫くかかるでしょ。それまで冒険者はお休みしてもらおうかしら。切れた腕が元通りになったなんて噂が立ったら流石に厄介だわ」
これでも一応は身を隠している。特に噂が国境を越えて祖国にまで広がったらかなり拙いわ。人の口に戸は立てられないからね。
「若女将、彼女らがそのような噂を広める愚か者でしたら、姉妹揃って剣のサビにする事をお許し下さい」
ちょっとナンシー、目が笑っていないわ!
「ダメよナンシー、そう簡単に人を斬ったら!」
私が判っているだけでも、ナンシーは私を守る為に40人以上を斬っている。
その殆んどが祖国を脱出して一角竜に落ち着くまでの間だ。
女2人の旅だと判った途端に強引に誘って来る者、押し倒そうとする者、僅かばかりの荷物を盗もうとする者等がナンシーの剣のサビになった。
中にはB級冒険者と名乗っていた人もいたけど、ナンシーの前では瞬殺だったわね。当然ながら、その連中に治癒を施すなんて事は無い。
「しかし若女将!」
「噂が広まらない様に考えましょ。肝心なのは彼女達よ!」
「どうされるのですか?」
「冒険者は廃業してもらって、カタギの仕事に就いてもらうの。それで少しずつ返済してもらえば良いかなって思うの」
それを機に冒険者から足を洗うべきよね。
やりたいと思う事と、出来る事は違うのよ。
彼女達の才能だとこの先、間違い無く死ぬわ。
○▲△
「若女将、そろそろタイムリミットです」
月の位置が約束の時間の訪れを教えてくれた。
「ダメだ」
「見つからねぇ」
「皆様、お疲れ様でした!」
冒険者たる者引き際が肝心!
皆様、それぞれの捜索結果を口にしながら引き上げていらっしゃる。
「ナンシー、戻られたお客様を名簿で確認して」
「畏まりました」
「ホーナー、皆様を一角竜にご案内して!」
冒険者をしつつ一角竜でバイトしているホーナーは自身も捜索に参加していた。戻った早々に仕事を言い付けられるのだから、私も人使いが荒いのかしら?
「皆様、どうぞこちらへ」
「………」
皆様のテンションが一気に下がったわ。ナンシーと帰れると思っていたのね、きっと。
「若女将!」
「どうかしたの?」
「ジョン様がまだお帰りになっていません!」
ベテランのジョンさんが遭難した?




