本当の再会
ゆっくり瞼を開く。
白く霞んで、ぼやけた視界の中に
薄らと浮かび上がる人影。
黒髪が真っ直ぐに肩口まで伸びていて
その艶やかの漆黒の髪のおかげか
首筋が酷く白く見え
その華奢な身体はとても弱々しいものに感じた。
「ウイ、ング……?」
華奢な女性から俺の名前が紡がれる。
少しずつ明瞭さを取り戻し始めた視界の中で
その華奢な女性と目が合った.
「かあ、さん」
紡いだ言葉は酷く掠れていて
自分の声とは思えない程弱々しかった。
それでも、その声を聞いた途端に
母さんの両目からは涙が溢れ出した。
「っ…ぁっ…」
声こそ上げないものの
漏れ出る嗚咽が機械音だけだった病室に響く。
涙を流す母さんの横で
その肩を包むように手を回している父さんは
涙こそ流していなかったが
その瞳は赤く滲んでいた。
「とうさんも…ありがとう」
視線の合った順に言葉を紡ぐ。
返答はないが、父さんは静かに首を振った。
そうして、静かに微笑んで視線を横にずらした。
その視線の先には
女性らしい豊満な曲線美に黒い長髪
『懐かしい』
イレギュラーな世界で1番最初に失った命
その世界がおかしいのだと
教えてくれた最初の人
「クレナさん……」
呼びかけた声にクレナさんは薄く微笑んだ。
「あの……」
ガチャッ!バタンッ!!
「おい、クレナ!」
問いかけようとした俺の声は
病室に駆け込んで来た青年の声にかき消された。
「クロウ、今は静かにして頂戴?
ウイング君が目を醒ましたの」
クレナさんが左を向く。
高い位置で結んだ髪が揺らいで
その毛先が耳元を掠めた。
右耳には陽光を反射する白黒のピアス。
どこかで見た記憶のあるそれは
しずくの形をしていた。
彼女の向かい合った先には
長い前髪で目元を覆い隠した青年。
イレギュラーな世界で、俺を焚きつけてくれた人
青年の顔がこちらを向く。
隠れていたはずの目元が動くのがわかる程に
目を見開いて
口をポッカリと開けて
「嘘だろ、お前。……本当に帰って来れたのかよ」
そう呟いた。
その左耳では白黒のしずくのピアスが光を受け止めていた。
俺が目を醒すことは
とても確率が低いことだったようで
家族との会話もままならない中
医者からの歓喜の声を聞いていた。
その中で
母さんはずっと肩を震わせていたし
父さんの瞳は赤みを増していたけれど
母さんの肩から手を離さなかった。
クレナさんはピアスを触りながら
薄く微笑んだままで
クロウさんは見たこともないような程に
口角を上げて白い歯も見せていた。
機械音だけの静寂に包まれていたはずの病室は
人の声で満たされて
誰かが
『冬が終わって、春が来たみたいだね』
と、そう呟いた。




