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繰り返したその先に  作者: 幻月
19/28

49回目のさよなら

「ここで生きるのもいいと思っていたよ」


振り返らずに紡ぐ言葉。


それは本心であり、伝えたかった言葉。

そして同時にここで彼女との訣別を

決定づける言葉だ。


「セレンも俺も死なない永遠の世界

そんな世界で、ずっといられれば……よかったかも知れない」


「だったら、いいじゃないの」


セレンの声が間に割って入るが

俺の中にはもう、止まる選択肢はなかった。


「それじゃ、生きてはいないんだよ」


「人間なんだよ、俺たちは」


灰の上にあったピアスを手に取り

握りしめる。


微かな熱を持ったそれは

きっと、けれども確かに

つい先刻までここにクロウさんが

存在していたことを伝えていた。


いつか終わりを迎える命でも


自分がしたいことを懸命に貫いて


選ばなかった道を後悔しながら


それでも、前に進んで行くんだ。


「そうした結果が、望まないものであっても?

その先に待つのが、希望の無い崩れ行く世界でも?」


聞こえてくる声が、少しだけ震えていた気がする。


今までに一度だけ

こんなに弱々しいセレンの声を聞いたような気がする。


いつだったか

思い出せないけれど。


「……これで、49回目。

もう、お別れだね。

……バイバイ、ウイング」


スッと消えていく声に

急いで振り向くと


既にセレンの姿はなくて


そこには煤けた蒼い髪留めが灰の上に落ちていた。

羽のイラストをモチーフにしたシュシュ。


その昔に、俺がセレンに唯一

手渡したプレゼント。


憧れから恋心を抱き得た

小さな独占欲。


傍にいてくれる人を失いたくないと

誰にも取られたくないと

初めて思った。


だから自身の名を冠した『羽』を

モチーフにしたものを身につけて欲しくて

手渡した物。


それをずっと

どこへいく時も身に付けて

いてくれた彼女。


渡した意味も

伝えたい思いも


何一つとして話してはいない。


「ずっと、つけてくれていた意味はなんだったんだろうな」


何か意味があったのかも知れない。


聞けなくなってから

聞きたいと思っても

どうしようもないのに


『人間は後悔を抱えて生きる』

先刻、自分で呟いた言葉が返ってきたではないか。


少し、自嘲気味に笑おうとして


疑念を抱いた。


「本当に、俺は……聞いていないのか?」


灰を被る

シュシュに手を伸ばす。


ピアス同様、いや

ピアスよりも強い熱を持ったシュシュを見て

不思議に思った。


弱々しく呟くセレンの声を聞いたのは


地面に蒼いシュシュが落ちていったのは


苦しそうに


それでも笑顔を見せるセレンはを見たのは確か


白い白線の


そう、横断歩道の上だ。


記憶の片隅に残る場面。


クレナさんを失った時の光景と

重なる記憶。


あの時、確か彼女は


車に轢かれた彼女を抱き寄せた時


「私は、ウイングが好きよ」


そう呟いたはずだ。


そう呟いて、彼女は目を閉じたんだ。


『根源を思い出せ』


クロウさんはそう言った。


「セレンが死んだ理由を思い出さなくちゃ」


握りしめた

ピアスとシュシュ。


その二つを持って記憶を辿る。


2人が、力を貸してくれるような

そんな気がした。



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