夏樹と素敵な仲間たち
ピンク色の空の下を歩く。夕焼けの少しあとの短い時間。
川沿いの道は子供連れの若い母親の社交場になっている。
「懐かしいなあ。」
何人もの親が集まって立ち話をしている間を子供らが駆けて回る。
一人の子供が夏芽にぶつかりそうになって、それを上手に避ける。
「こら、まーくん!どうもすいません。」
謝る母親に笑いながら会釈して通り過ぎる。
「あのお姉ちゃん、きれいな髪~」
「きれいー」
子供たちが騒いでいるのを若い母親たちがたしなめながらも、
「最近の若いこって、私たちの頃とはなんか違うのよね~。」
「本当に。おしゃれだしね~。」
「スタイルが違うわ、足の長さが半端ないわ。」
自分たちの噂話には遠慮がない。
ー 最近の若いこって。
あのお母さんたちだってまだまだ若いのに。
夏芽の容姿はとてもよく目立つ。
スラっと細くて長い脚に
茶色がかったロングのストレートはさらさらと風になびく。
小さい顔は細くて長い首の上にのっている。
バレエ団で鍛えた筋肉は、バレエをやめた今でも衰えることなく正しい姿勢を保ってくれる。
「なつめ!」
交差点の向こうから声をかけられた。
自転車に跨って長めの髪をなびかせてにっこりと手を振るのは、これまた絶世の美青年。
自動車を二台やり過ごした後に夏芽のそばへきて自転車をとめる。
「なに、今帰り?」
そういってにっこり笑う姿に、通り過ぎる女の人たちが振り返る。
白いシャツにダメージのあるジーンズ、
その上にジャケットを羽織るだけ。
それなのに、長すぎる足のなせる業なのかあり得ないくらいかっこいい。
良い匂いまでするのは気のせいだろうか。
「良ちゃん、相変わらずかっこいいね。みんな見てるよ。
今からお仕事なの?」
そう言いながら夏芽がにっこり微笑むと
良介が頭を掻いて笑う。
「そういう夏芽ちゃんこそ、みんなの注目を集めてたよ。
制服を着て歩いてるだけなのにね。
それより、国定が集合を掛けてたから時間があったら寄ってやってよ。
俺は今から野暮用でね、今日はごめん、なんだ。」
「野暮用って・・・怪しいのね。いったい何をやってるんだか。」
良介は、何をしているのかわからない生活をしている。
大学に通っているのは確かなのだが、学校に通っているよりも
バイトをしている時間の方が多いのではないかとも思える。
ホストで荒稼ぎしてるのかなとも見えるし、
単なる普通のウェイターかなとも、
はたまた、頑張って学生起業しているようにも見える。
夏芽が尋ねても、うふふとはぐらかされてまだ何も教えてもらえていない。
良介も国定も、夏芽の仲良しのお兄さんたちだ。
夏芽の3つ上の歳になるが、幼馴染というカテゴリーになるのだろう。
国定の家が合気道の教室を開いていて、みんなで通っていた仲間でもある。
夏芽には3つ上の兄がいて、そのうえにもまた3つ上の兄がいる。
良介と国定にも、3つ上の兄がいて、というややこしく絡み合った関係があって、
その中での紅一点が夏芽。
男どもの中で蝶よ花よと大事に大事にされたみんなの妹分である。
国定は教育学部の学生で小学校教諭になる予定だ。
現実世界よりネットワーク世界の住人でいつも暗い部屋の中で
昼夜関係なくパソコン画面の前に座っているような男なのに、だ。
これで、人を育てる仕事ができるのか果たして疑問ではあるのだが
成績も悪くなく人当りもいい。
本人曰く、
人間関係を二次元でシュミレーションしているので
全く問題ないという話だが
それが世の親たちに上手く機能するのかどうか。
その国定は、仲間内に何かと面白いイベントを持ち込む存在だ。
みんなに招集をかけては、みんなが『国定イベント』と呼んでいる、
楽しかったり厄介だったりする事件に巻き込んでくれる。
さて、今日は一体どんな話を披露してくれるのやら。
自転車の良介を見送って、
夏芽は国定の部屋へ向かって歩き始めた。