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8話・タバコと腕時計と青空


 心筋梗塞で倒れた安村ジイさんは病院に運ばれてから間も無く死亡した。


 母も安村ジイさんの葬式に出て、最後を見送った。その死をわかっているのか、いないのかもわからない顔をしていたのが印象的だった。


 半年という短いのか、長いのかもわからない中途半端な期間を母と安村ジイさんは過ごしたんだ。





 それから一ヶ月が経ち、時の館も元の感じが戻っていた。安村ジイさんの後に来たのは老人のバーさんで、レクリエーションの時などに母はさり気なくサポートをしている。


 その母は安村ジイさんの時計を腕にしていた。


 それは遺族から渡された物であり、認知症の為に乱れた字であったけど恵子さんに腕時計を渡して欲しいと書かれていたようだ。

 そして、最後に安村ジイさんが手に持っていたタバコも持っていた。それは吸われる事は無く、ただ母の部屋にある安村ジイさんの写真の前に置かれたままだった。


 葬式から全く安村ジイさんの事を話さない母は、本当に安村ジイさんが死んだ事をわかっているのか? という疑問が湧いてそれを聞いてみた。すると、時の館の庭で青空を見上げながら答えてくれた。


「安村ジイさんはまたタバコ泥棒しただけでしょ? 全く、ふざけんじゃないよって感じだよ。私は戻って来るまで待ってるよ……」


 その母はそう言ったまま肩を震わせて振り向かない。母は安村ジイさんの腕時計を雲一つ無い青空にかざしている。


 太陽の眩しさが、遺品の銀時計を照らしていた。

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