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4話・一つの事件の始まり

 金曜日の夕方、俺のスマホに時の館の職員から一件のショートメールがあった。その内容を確認して土曜日の10時ぐらいに行くと伝えた。


 グループホーム・時の館に到着すると、母は泣いていた。無論、嘘泣きというのは息子の俺にはわかる。俺は安村ジイさんが一階にいない事を確認して、職員に話しかけた。


「昨日の話だと、最近母が安村さんにキスをねだられて困っているという事ですね」


 そう、時の館に来た発端はこうだった。

 昨日の夕方に時の館からあったショートメールをウザいな……と思いつつ内容を見ると、母が安村ジイさんに求愛行動をされて困っているという話が書いてあった。


 だからこそ、わざわざ自分のデートの約束時間をズラしてまで時の館に来たんだ。


「……成る程。そうですね」


 俺は泣き真似をして同情を誘おうとしてる母の近くで、職員から色々と話を聞いていた。同時に、思っている事もある。


 そもそも母は自分からほっぺにキスをしていたんだ。

 それを最近になって口してくれと言われるようになって、母は困惑し出したようだ。これは、安村ジイさんが色々と元気になってしまったのも原因だろう。


 初めは言う事を聞くだけのジイさんだったけど、ジイさんの中で恋愛感情が芽生えたせいでエネルギーが湧き上がり、男らしくいようという気概が出てきた。それが、二人の関係を壊してしまったようだ。


「時の館側からも、安村さんには伝えてあります。安村さんも、もうしないと約束してくれました。あとは恵子さんの気持ちもありますが……」


「母は大丈夫です。そんなキスぐらい求められるぐらいでへこたれません。だろ?」


「勿論だよ! ちゃんとしてない、あんなジイさんなんて殴ってやるんだから! ふざけんじゃないよ!」


「ちゃんとしてなくても、殴るのはダメだ。こんな感じで母は元気なので、職員の方々も安心して下さい。では、失礼します」


 すぐに帰ろうとする俺を引き止めようと母は何か言っていたが、職員がデートですよと余計な事を言ってしまったから激高する母は俺の彼女に対して、「殴ってやるんだから!」と騒いでいたが無視して時の館を出た。


 漫画のキャラクターのように、やれやれだ……とテンプレなセリフを呟いている自分自身を同情した。





 時の館では相変わらず母は他の入居者とのイザコザが色々あるようだけど、数日後には何故か母と安村ジイさん二人の関係は修復されていたようだ。また時の館の職員からショートメールがあり、不仲が解消されたから安心して下さいという内容だった。


「……何かあるな。こんなすぐに仲良くなるわけがない。何かギブアンドテイクがあるんだろ。安村ジイさんからのギブアンドギブみたいなもんかも知れんが。一応、時の館に確認しに行くか。面倒だが……」


 そう、かなり面倒だが嫌な予感がしたから、また時の館へ向かった。母は一度嫌い出すと、蛇蝎のように嫌うのがテンプレだ。だから、母の言動や部屋の変化などを調べないとならない。過去にデイサービスを利用した時にも似たような事があったから、今回は早めに潰しとかないとならない。


 また、やれやれ……と呟いてから時の館へ向かう事になった。

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