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2話・恵子の奴隷一号

「母が車椅子に乗っている……?」


 母・石崎恵子がグループホーム時の館に入所してから一週間が過ぎた。その日に時の館を訪れた俺はその入口で停止していた。


 母が車椅子に乗っているからである。


 女性職員に案内されて俺は廊下を進もうとすると、母はこちらに気付いたようで笑顔になった。同時に、両手を広げて車椅子の左右の車輪に手をかけた。


「行くよーーーッ! ブンブンブンーーーッ!」


「!? 来るなよ、おい! 危ないっ!」


 突如、母は車椅子を全開で漕いでBダッシュをしたように俺に突進して来た! 焦る俺と女性職員は暴走特急を止めるように手を伸ばす。


『――ぐぐぐぐっ……!』


 そして、俺と女性職員の二人で母の暴走を食い止めて誰も怪我をせずに済んだ。当然、それについて何にも思わない母は駄々をこねるように言う。


「康介、一週間も何してたの? タバコも吸えないし、職員はバカだし、もうこの仕事は辞めようかな。あー、眠い眠い」


「そもそも仕事じゃねーよ。つか、何やってんだ? その車椅子は誰の車椅子だ?」


「ジジイの安村さんのだよ。私は安村さんの担当だからね。車椅子のジーさん介護して参っちングだよ」


「車椅子のジーさんかも知れないけど、安村さんなら安村さんって呼べよ? それに、仕事じゃねーから。お前も介護されてる側だから」


「あのジイさんスケベだし、私はセクハラされてるし困るわ……ねぇ?」


 と、女性職員に言っている母は自分の都合の悪い事はいつものように聞こえないようだ。それは良くないが良いとして、苦笑いの女性職員と話をする事になった。


 そこで、俺は時の館の職員からこの一週間の母の生活ぶりを聞いた。食事も睡眠も特に問題無く、新しい環境にすぐに馴染んで素晴らしいと言われていた。ただ、入る前までに辞められなかったタバコの件はやはり問題のようだ。


「んじゃ、母の様子を少し見てから帰ります。無駄ですけど、タバコの件やここにいるのは仕事ではなく、介護される側というのも伝えておきます。無駄ですけどね」


 女性職員と共に会議室を出ると、母は例の車椅子ジイさんを車椅子に乗せて二階へのエレベーター前に居た。車椅子を押して、二階にある安村ジイさんの部屋へ行くようだ。目的は当然、退屈なレクリエーションなどをせずに一人でテレビを見たいからだ。


「また恵子さん、安村さんの車椅子を押して行ってしまってますね。追いかけます」


「はい、急ぎましょう。確か今日は母の好きな霊柩車シリーズドラマの再放送だ。多分、それを見たいんでしょう」


「流石は息子さん。当たりです」


 車椅子の安村ジイさんを介護してつもりの母を追いかけて、二階へ向かった。そして、完全に安村ジイさんの事を忘れてテレビを見ている母を後ろで見ながら話した。


「……じゃあ、母はあの車椅子のおじいさんと仲が良いんですね?」


「そうです。恵子さんは安村さんの手伝いを良くしてくれています。あまり話さなかった安村さんも、恵子さんが来てから良く話すようになりました。まだ恵子さんはお若いので、安村さんも気に入ったのかも知れませんね」


「そうですか……仲が良いのはいい事です。それはいい事です」


「私はレクリエーションがあるので、一階に行きます。恵子さんはドラマ見だすと動かないのでそのままにしておきますね。では」


「はい。ありがとうございます」


 相変わらず母は自由だな……と思った。

 ここに来るまではプライドの高い母がグループホームで上手くやって行けるのか? という疑問もあった。それは今の所大きな問題も無く、やっていて安心した。

 現時点では時の館での生活は問題無い。


 人との関係も良好なら、タバコの問題が解決すればいいだけの話になる。


 だが、あの仲の良さには裏がある。

 昔から母は手下を作りたい癖があるんだ。

 つまり、あのジイさんは母にとっての手下だ。つまらないグループホームでの話し相手であり、職員の目を欺く奴隷。

 いつの間にか、母の手はジイさんの手を握っていた。


「……やはりそうか」


 母はジイさんの頬にキスをしていた。


 これで、恋愛体質の母の新しい環境での奴隷一号は完成していた。


 そう、やはり母は自分でまともに歩けないジイさんを利用してもいたんだ。車椅子ジイさんの恋心を――。

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