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6話・あなたは誰?


「どちら様ですか?」


 時の館で夫婦という扱いになり半年程過ぎてから、久保田は朝のフリールームでそう言われた。それは本当の夫婦ではないが、夫婦として時の館にて過ごしている小松冴子からである。


「……あ、俺だよ? どうでもいい話……しよう?」


「……はい? どうでもいい話?」


 怪訝な顔をする冴子に対して昨日何かしたか? と、久保田は思った。しかし、特に何も思い浮かばない。数秒の沈黙が時の館のフリールーム全体に行き届いた時、冴子は相変わらずの冷たい表情のまま言葉を放った。


「どうでもいい話なら、しなくてもいいですよ」


「はは……そうだねぇ。ごめんねぇ……」


 唖然とした顔を必死に隠しつつ、久保田は冴子の部屋から出た。偽夫婦とは言え、明らかに夫婦喧嘩レベルの問題ではない事を周囲の人間は悟った。その場には、冴子が冷たい茶をすする音が久保田の涙のように響いていた。




 朝食を食べる気力がも無くなった久保田は、自分の部屋でテレビを見ながら冴子の事を考えていた。すると、久保田の想い人である人間がゆったりとした足取りで現れた。


「あら、朝ごはんも食べないでテレビを見てたの? 何で今日は来てくれないのよ? 体調悪かった?」


「あ、あぁ……ちょっと腰が痛くてね。昨日は庭の草むしりをしたから、少し疲れたのかも」


「そんな事なの。貴方もいい年なんだから、無理に張り切ってはダメよ。草むしりは少しずつやりましょう」


「あぁ……そうだね」


 冴子が完全に朝の出来事を忘れている事に戸惑った。その無垢な笑顔に久保田は自分が軽度の認知症ながらも悟った事がある。


(まさか……冴子さんは……)


 ゴクリ……と唾を飲み込む久保田は無理矢理に笑顔を作った。

 この日を境に、冴子の認知症は悪化の一途をたどって行った。

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