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5話・妻を演じる冴子
小松冴子は久保田の妻を演じるようになった。
お互いが軽度の認知症ではあるが、妻としての自覚が冴子の生命力を目覚めさせ、それは久保田だけではなく時の館全体に好影響を及ぼしていた。
二人は夫婦として、時の館のスタッフのような働きすらするようになっている。簡単な雑用ぐらいは自分で率先してやるようになり、他の入居者もそれに負けないように頑張るようになって活力が生まれていた。
今まではスタッフ達も淡々と仕事をするだけだったが、この効果で自然な笑顔も出てきてレクリエーションなども盛り上がるようになっていた。
時の館はまばゆい太陽が降り注ぐように、笑顔に満ち溢れた空間になっていた。
二人の認知症具合は確実に進んでいる。
しかし、この二人のたわいも無い話で時の館全体が活き活きとしていたのは事実だった。そして寄り添う二人はお互いを見つめ合い言った。
『どうでもいい話をしましょう』
二人にとって、第二の幸福な日々だった。




