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魔法はいつ解けるの?  作者: リリアン G
5/7

決別

アンジーには弟がいた。

彼女が最も愛していたのは弟のアランだ。

アランは姉の庇護から独り立ちを望んだ。

アンジーは彼を行かせ、その影のサポートを僕に任せていた。


アランからテキストメールがあって、深夜近くに呼び出された。

彼のお気に入りのバーで。彼は酒は飲まないのだが、そこしかあいていなかったから。


その夜のアランはこれまでにない明るい表情だった。

「やあ、アラン、どうした?うれしそうじゃないか?」

「うん、カイル、僕ね、自分を見つけたんだ。今日のスタジオワークで。」

「へえ、問題解決か?」

「そう、もう君にも迷惑かけないよ。」


「えっ、どうして?」

「もうアンジーから完全に別れた。本当に。」

「ということは?」

「カイルとアンジーの邪魔はしないということ。アンジーもそう決めたようだから。」

アランはアンジーと似た、不思議な微笑みを見せた。


「カイル、僕と姉はね、一心同体みたいな仲だったから、精神的にね、超依存しあってたんだ。だから、僕にとっても難しかったんだよ。離れていても引き合うみたいな。」

「そうなんだ?」

「で、僕が自分を見つけないと本当には別れられないと思って、まずはアンジーから離れ、そして自分の道を模索していたけど、やっと見つけた。これをカイル、君に宣言したかったんだ。自分がまた迷わないように。」


「確かに、アンジーは君をいつも心配していたけど。」

「そうね、彼女には僕の気持ち、手に取るようにわかるんだ。そしてどんなに僕が独り立ちしたいかってこともね。結局彼女の差し金だったけどさ、アンジーの魔法で、僕は飛びたてたんだ。彼女の呪縛からも放たれた、と思う。」


アランの瞳はキラキラと輝いていた。僕は言った。

「君の音楽で聴いてみたいね。」

「うん、後で送るね。その時、パンって音がしたよ。鎖が切れた音。僕はこれからもアンジーとは会わない。


でも、たぶん彼女は、このダメージが凄く大きいはずだ。子離れみたいな。実際僕は姉にとって、子供みたいなものだったから。だから、カイル、よろしく頼む。アンジーを守ってほしい。」

「望むところだけど。」


僕は内心ほっとして請け負った。


「カイル、君はアンジーを自分だけのものにできなくて、葛藤しているよね。一人ライバルが減ったよ。」

「最大の難関がね。でも彼女の心の中は多次元で、どの次元でも生きられるから。」

「そうだね。カイルもその内、そう出来るようになるよ。」


「それはいいことなの?ねえ、アラン、教えてくれないか?僕は彼女に釣り合っているのだろうか?彼女にふさわしいのだろうか?いつもそんなこと考えてしまう。」

アランは優しく微笑んで僕を見つめた。


「僕も2年もさまよったんだ。君もきっと自分を見つけられる。実際、彼女は人を縛らないからさ。僕の場合は特別だけどね。彼女が魔法で導いてくれる。そしてさ、自分を見つけたときにもアンジーを愛していたら、真実の愛だね、、、、クールだね、そういうの。」


「君は今は彼女を愛していないの?」

「ああ、凄く愛しているよ。前よりずっと、うん。」

「じゃ、僕の立場はどうなる?」

「違うって、そういうのじゃないから。そういうメンタルな愛を独り占めはないんじゃない?」


アランは少年の様に楽しげだった。アンジーのように笑うと金の粉が舞うようだった。

「カイルは才能があるから、まだまだ変われるんだ。どこまで進化するかが楽しみだな。ずーと親友でいてね。アンジーが君をどこまで連れていくのか見てみたい。」


「魔法使いになるのかな?」

「そう、アーティストや俳優は、芸術家もみんな魔法使いさ、ね?」

「そういうもんかな?」

「美の頂点まで連れて行って、人に夢を見させる、そしてファンタジーが実は現実の中で存在することを教えるんだ。眼に見える世界だけが現実ではないんだよ。君も体験しているだろ?」

「そう、少しづつ。」


「そしてカイルも独り立ちするときがくるのさ。」

「僕は彼女を永遠に愛すと決めた。そう決めないと自分が保てないから。」

「だから、カイルってすごいんだ。尊敬する。本当にすごい。」


アランは嬉しそうに笑って、急にハグをしてきた。

なされるままに、しばらく抱き合っていて彼の気持ちが伝わってきた。


アンジーと決別した悲しみのかけらが僕の胸に刺さった。


しばらくして離れると、彼は気が済んだかのように微笑みを取り戻した。

「アラン、僕の方こそ、君を頼りにしている。僕はさ、あまり友達いないんだ、この世界に。」

「わかった。カイル、ありがとう、本当に。アンジーを頼むね。」


そう言ってアランは僕の肩をたたいて、振り切るようにバーを出て行った。


恋人と別れて、戦いに出る戦士のような後ろ姿だな、とふと思った。


突然、僕はアンジーの心を読んでいるように、胸中に悲しみが広がり、ウィスキーをすすりながら、涙を流していた。


君は僕が守る。アンジー。大丈夫だ。




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