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第七話 調査依頼①

「実は私、こういう者なんです」


 差し出された名刺を受け取り、僕は面食らう。

 だって目の前に居るのは、警察官だったから。


「驚かれるのも致し方無いと思っています。潜入捜査故、ご了承ください」

「潜入捜査って普通素性を明かさないでやるものなんじゃないんですか?」

「それは、犯人に対して、です。私はそんなことないと思っていますから」

「……お褒めにあずかりどうも」


 ちなみに。

 今僕たちが居るのは食堂である。食堂はまだ準備中だったけれど、開放はしている。僕たちが入ったら嫌な顔をされたけれど(だってまだ開いていない訳だし)、それについてはノーカウントとさせてもらおう。仕方ないんだ。こちらだって事情がある訳だし。

 話を戻そう。その警察官と名乗った桐ヶ谷さんは、すっかり口調が警察官のそれ――僕の一番苦手なやつ――になっていた。


「協力して貰いたいことは、主に一つだけ。この大学において不審者がいないかどうか。それをあなたたちに教えて欲しいんです」

「……ちなみに、なぜその話題になったかだけでも教えて貰うことは?」

「連続殺人事件、知らないとは言わせませんよ。ニュースにもなっていますからね」


 聞いたことがあるような、無いような。

 残念ながら我が家には、テレビが無い。

 それを話すと、「そうですか。だったら簡単に説明しますね」とだけ言ってきた。


「今、名古屋で連続殺人事件が起きているんです。この一ヶ月で四件、被害者は十代から七十代まで幅広いですが、唯一共通点と言えることが漸く見えてきたんです」

「それは?」

「この大学を中心に半径二キロメートル圏内で起きているということ」


 成る程。

 なんとなく、趣旨が見えてきた。

 とどのつまり警察は僕たちこの大学の学生を疑っている、ということだ。


「言ってしまえばそれまでなんですけれど……でも、私は出来ればそれはあり得ないと思っていたいんです。だから、潜入捜査を自ら希望した」

「希望して、どうしたいんです? やっていないって証拠を見つけるには、それこそ悪魔の証明になりかねないと思いますけれど」


 やったという証拠を見つけることは出来ても、やっていないという証拠を見つけることは難しい。だから通称、悪魔の証明などと言われている訳だけれど。


「果たして、それは悪魔の証明と言えるのでしょうか?」

「は?」


 僕は、何を言っているのか、さっぱり分からなかった。

 桐ヶ谷さんの話は続く。


「私はそうは思いません。だって、やっていない証拠を見つけるのはそんなに難しいことじゃないって思っているから」

「どうやって見つけるつもりです?」


 僕は問いかける。

 彼女は言った。


「実は『どんなことでも解決に導く』名探偵とタッグを組むことになったんです!!」


 ……まさかの人頼り!?


「いやいや、人に頼るってのはどうかと思いますけれど」

「でも、見つからないよりかはマシでしょう?」


 そうなのだろうか。

 いや、その人がどう考えているかによると思うのだけれど……。


「とにかく、私としてはその人が居るから問題無い! と言う訳なんですけれど……」

「…………その人は、何処へ?」

「別の仕事が忙しいから、って言ってちょっと遅く来るんですよね……三日ほど」


 それ、遅く来るの域超えてない?


「まあ、良いんです! その間にもし何か進展があれば教えてくれ、って言ってくれたんですから! 私としてはその人を頼る気満々ではあったんですけれど!! 致し方無いですよね、うん!」

「で、その代わりに別の人間を頼ろう、と……」


 それが僕たちだった、という訳か。


「ええ! まあ、そういうことになりますね!」


 そういうことになりますね、って。

 それはどうかと思うんだけれど!

 というか、される側の気持ちも考えて貰いたいぐらいだ。


「……もしかして、嫌でしたか?」

「いや、そういうことよりもだね……」


 この人にはもっと学んで欲しいことがあると僕は思った。例えば自主性とか。


「……まあ、私としてはさっさと事件を解決したいんですよ。ここに殺人犯がいようがいまいが関係ない。もしここの調査が失敗に終わっても仕方ないことだと思っています。それくらいに、面倒な案件だということをご理解いただければ」



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