第五話 翌日②
彼女が、彼女の両親を殺害した出来事。
普通なら気づかれなくては成らない事。
だけれど、今日も僕たちはここに居る。
それって、どういうことなんだろうか?
一体警察は、何をしているというんだ?
分からない。考えたところで何も浮かび上がらない。頭が悪い人間の特徴だ。頭も回らないくせに口だけは良く回る。はっきり言って、それはエゴであり、意味の無いことだ。
そんなことが分かっているのに、今日も僕は妄言を繰り広げる。勿論、頭の中で。頭の外でこんな会話を続けていたら、そりゃ頭のおかしい人間に思われても仕方が無いこと。
だから先生の「転校生を紹介します」という言葉に、完全に乗り遅れてた訳だけれど。
「はーい、今日は皆さんに転校生を紹介します。喜べ男子ー、可愛い女の子だぞー」
そもそも大学で転校生なんて価値、存在するのだろうか?
親が引っ越したとしても、特に変なこだわりが無ければ、一人暮らしをしてでもその大学に通いそうなものだけれど。
一番前の扉から入ってきたのは、金髪ポニーテールの少女だった。
美しい。綺麗だ。というのが、周りが得た彼女の第一感想である。
この場合は、ファーストインプレッション、そうと言えば良いか?
ともかく、周りの人間は彼女の美貌に脱帽した筈だ。え? 脱ぐ帽子が無い、って? 言葉の綾だよ、言葉の綾。それくらい理解して欲しいものだね。
それはそれとして。彼女はチョークを手に取り黒板に書き出した。
何を? と思う人間は多くない。この場合で書く物と言えば――。
『桐ヶ谷紅葉』
それが彼女の名前だった。
「わたしの名前は、『きりがやくれは』といいます。紅葉と書かせてくれは、と読みます。間違えないようにしてくださいね?」
そうして。
講義の一時間目は新人の桐ヶ谷紅葉とともに受けることになるのだった。
桐ヶ谷紅葉とは――可憐であり華美であり、なおかつ綺麗な女性だった。
と、一言で結論づけてしまうと世の女性から文句を言われそうな気がするので、簡単に説明士をしておくと、彼女はお淑やかな様子を見せていて、まるでお嬢様か何かのような感じに見えた。ただそれだけの話だ。別に何かくっつけるべきな話題がある訳でも無く、それ以上の付加価値がある訳でも無く。そこまで言ってしまうと、彼女に失礼となってしまうが。
彼女が座っているのは、最前列の席だ。それは彼女が目が悪いだとかそういう身体的障害を背負っている訳では無くて、ただ単純に席が空いているのが最前列しか無かったということだ。どうして最前列が空いているか、って? 答えは単純明快、先生の質問に当てられやすいからさ。
というわけで先生の授業も後半戦に突入。この授業は、ええと、なんだったかな、心理学の授業だったか。そんな授業は波も無ければゆっくりと進んでいく凪のような授業だ。だから眠くなってしまう学生も多くて、ちらりと背後を見渡してみると、眠っている学生も少なくない。
ただ、この先生の授業は課題が毎回出される。その課題をこなさないと単位を貰えないなんてこともあるので、起きなくては成らないのだ。本当なら。きっと眠っている人々はあとでRINEでもココアトークでも使って情報を仕入れるのだろう。その人にはその人なりの解決策があることぐらい、承知の上だ。
「……では、この問題を、桐ヶ谷くん、答えて貰おうか」
案の定、先生に当てられる最前列の桐ヶ谷紅葉。
それを見ていて、くすくすと笑みを浮かべるものも居る。何故笑うのか。好きであそこに座っている訳でもないだろうに。
そんなことを考えていたら、桐ヶ谷紅葉はゆっくりと語り始めた。
「殺人鬼の心情には、信じがたいものがあります」
そういえば、今回のテーマは『快楽殺人犯について』だったか。
……昨日、快楽殺人犯に出逢ってティータイムも行った僕にとっては、何というか、とってもタイムリーな話題のように思えるけれど。