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第一話 単独唯一と霧切アリス

 僕の話をしよう。平凡で凡庸な存在、それが僕、単独唯一たんどくゆいいつだ。名前以外は至って普通の大学生をしている。名古屋という地方都市の中では日本三大都市の一つを福岡辺りと争っている都市の名前だ。名前ぐらいは聞いたことがあると思う。その、名古屋に僕は住んでいる。

 そして、僕の隣に居る一人の少女についても説明しておかねばなるまい。

 霧切アリス。

 キリギリスと命名されてしまいそうなネーミングセンスの欠片も無いその名前以外は、普通の少女だった。彼女も又、名古屋の大学生として日常生活を送っている。

 僕と彼女のの関係性は、ただの幼馴染みだ。それ以上でもそれ以下でも無い。

 最近は普通に会話をしているぐらいだけれど、それでも僕は別に構わないと思っている。

 恋愛関係に発展しないのか、って?

 そんなこと、あるわけがない。彼女はおしとやかな性格で、お嬢様みたいな風貌をしている。それに対して僕は平凡な大学生。釣り合わない。そんな釣り合わない仲でカップルを続けても無駄だ。そう僕が判断した。そう、それは僕が判断した。

 平凡であるが故に。

 凡庸であるが故に。

 僕と彼女は、日常を送り続けるのだ。

 ただの幼馴染みという関係性であったとしても、そこから発展することは無い。

 ただの幼馴染みという関係性であるからこそ、そこから何か発展することは無い。

 ただの幼馴染みという関係性なのであるから、そこから何かが発展することは無い。

 だとしても。

 僕は普通の学生として暮らしていて、アリスは周囲に女子を集わせることが多い、いわゆる『姫』のような扱いを受けていて。

 たまに話をすることはあるけれど、それ以上の付き合いは無くて。

 結局の所、僕と彼女の付き合いはそれ以上でもそれ以下でも無かった。



 ……あの時までは。






「どうして」


 僕は問いかける。


「どうして?」


 彼女は反芻する。

 彼女はナイフを持っていた。ナイフには血がこびりついていた。血が滴り落ちていた。

 彼女は、僕の良く知る人物だった。


「……だって、楽しいんだもの」


 彼女は笑っていた。


「…………おかしいだろ、これって」


 僕は、質問する。

 詰問する、と言った方が正しいのかもしれないけれど。

 いずれにせよ、僕の言い方は間違っていないはずだ。


「……どうして?」

「どうして、って」


 僕は、言い返す。


「言い返したところで、何も出来ないんだったら、意味が無いってことになるよ。それとも、あなたにそれぐらいの正義感があった、ということになるのかな?」


 彼女は言い返す。

 僕は――言い返せなかった。

 彼女――霧切アリスの目の前には、一人の少女が横たわっていた。

 いや、正確に言えば、それは一人の少女ではなくて。一人の少女『だった』ものだった。

 一人の少女、その少女だったものは、既に息絶えている様子だった。きっとそのナイフで心臓を一突きしたのだろう。無駄の無い攻撃だ。そういうものを知らない僕ですら、感嘆してしまう。

 霧切アリスは、笑っていた。

 そこで、僕は知るのだった。





 霧切アリスが、殺人鬼だってことに。



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