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序章

「他人を無意識に下に見ることが出来る人間って、それも一種の才能を持っていると言えるよな」


 そうだろうか。僕には分からない。僕には分かるはずもない。しかしながら、目の前に座っている彼女はそれを地で行くスタイルの人間であるということは知っているし、本人もそれを分かっているから僕にそんなことを行ってくるのだと思う。

 例えば、間違いの連鎖。

 間違いが間違いに繋がり、間違いが間違いに繋がり、さらにその間違いが間違いに繋がる。そうしてその連鎖は、連鎖であり、連綿であり、煉獄である。……最後は違うか。

 間違いの連鎖から生み出されたそれは、結局の所、僕にとっても理解不明な点が多い。だって、それを本当のことだとしてしまったらたくさんの人が悲しむだろうし。いや、悲しまないか。別に僕は天涯孤独の身だし。せいぜい仲間内で数日ぐらいは悲しんでしまうかもしれないが、それはそれの話。これはこれの話で数日も経過すれば、あっという間に社会から僕という存在は消えて無くなってしまうのだろう。それはそれ。これはこれ。そういう風に世界は出来ている。


「でも、君はどうかな? そんな世界を拒みたがっているのではないかな?」


 そうだろうか。世界を拒みたがっているだなんて、そんなこと一度も思ったことは無いけれど。もしかしたらそんなことを深層心理の内側では思っているのかもしれない。分からないけれど。

 いずれにせよ。

 僕の空間と彼女の空間。

 その空間は、水の弾くリングのように交わらない。

 結局の所、一人が一人の固有の空間を保持しており、その空間は誰にも占有されるものではない。ATフィールドか何か、心には膜が張られていて、その膜を破ることは誰にも適わないのだから。


「お前は分からない。何も分かっていない。何も分かろうとしない。だからこの結末を望んだ。違うか?」


 そうだろうか。僕には分からない。分かりたくない。分かろうとしたくない。分かるはずが無い。誰にもこの『痛み』は共有出来るはずが無い。


「共有したくたって、それを共有出来る訳じゃねえんだよ、こちとら。いずれにせよ、世界が崩壊するったってきっとお前は適当に生き続けてそのまま適当に死んでしまうのだろうよ。それがそういう生き方だし、お前はそういう生き方を望んでいるのだから」

「……そうでしょうか」


 そこで。

 僕は漸く、彼女に反論した。

 結局どれだけ頑張ろうと全て無駄だと言うこと。

 結局どれだけ勝ちに走ろうと全て無駄だってこと。

 結局どれだけ願ったとしても全て無駄だったこと。


「それは結果論じゃねえか。お前が何を言おうと、それはお前の結果論に過ぎない」


 声は冷たく、僕の持論をあしらっていく。


「結局、お前がお前である以上、お前がお前である時点で、私は一切を嫌う。それが私のポリシーだ。ポリシーに反することは、基本的には行わない」

「……はは、結局は、持論を持ち上げたいだけじゃないですか。結局の所、」

「おう、そうだとも」


 彼女は。

 否定しなかった。


「そこに何の違いがある? そこに何の間違いがある? 違うことはねえ。全てが一つ、一つが全てだ。……って、どこかで聞いたことあるような文句かもしれねえけれど、今はそれは放っておくことにする」


 そうだろうか。やっぱり彼女の言っていることはよく分からない。分かり合えないのかもしれない。分かり合おうと思わないだけなのかもしれないけれど。いずれにせよ、僕は違う。僕は、僕だ。否定されようと、肯定されようと、生き方を変える必要性を感じることはない。

 だとするなら。

 僕は、生き方をこの人に聞くのは大いに間違っている。罷り通っている。間違いが、罷り通っているのなら、それは否定するべきだ。否定しないといけないのだ。否定されないといけないのだ。否定されるべきなのだ。

 では。

 それを否定してくれる存在が傍に居るのか、と言われるとやはり難しいことが生じる。居ないのでは無いか。居るのでは無いか。けれどもやっぱり居たら居たでそれは面倒な人だなと思うし、面倒な考えだなと思うし、面倒なやりとりだなと思う。それは、そうなのだろう。きっと、そうなのだろう。


「結局、何処まで考えてんのか、って話だろ」


 彼女は自らの頭をつんつんと突いた。


「それが、どういう結論を導くとしても」



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