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聖なる闇の賛歌  作者: 色葉ひたち
その3~カミル~
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その3(1)

 状況は全く分からないが、自分はどこかの部屋の床に座っていた。部屋の窓から微かに光が差し込んでいる。おそらく、明け方なのだろう。

《ここは、どこだ?》

 辺りを見渡すと、目の前に倒れている人が見えた。

「レイ?」

 目の前に倒れているのは、明らかにレイナスだった。

「レイ!」

 カミルは立ち上がり、レイナスに駆け寄ろうとした。すると、それより早く「レイナス様!」と言って駆け寄る人がいた。それは、サラディンだった。カミルは訳が分からず、思わず足を止めた。サラディンは、ためらいもなくレイナスを抱きかかえて立ち上がった。そして、カミルの方を見て「ドアを開けろ!」と言った。カミルは、慌てて部屋のドアを開けた。

 ドアの外は居間のようだった。ここがどこなのか考える暇もなく、レイナスを抱きかかえたまま先を行くサラディンについて行った。

「ここを開けろ」

 先ほどいた部屋の左側にある部屋のドアを指してサラディンが言った。カミルは部屋のドアを開けた。サラディンは、部屋の中のベッドの上にレイナスを横たえた。

「レイナス様!」

 サラディンが呼びかけるがレイナスは全く反応しない。カミルも、レイナスに歩み寄り、その顔を覗き込んだ。

「レイ……。何があったんだ?」

 カミルは、レイナスの体を揺さぶった。レイナスは目を閉じたままだ。

「戻ったのか?」

 サラディンがカミルに言った。何を言っているのか、意味が分からないし、なぜサラディンが普通に自分とレイナスの傍にいるのかも全く理解ができなかった。分からなさ過ぎて、まず何から確認すればいいのかが分からない。

「ここは、どこ?」

 とりあえず、カミルはこの場所について尋ねた。

「ここは、私たち四大術師が住んでいた家だ」

「え?」

 なぜそんな場所に自分たちはいるのか? ますます訳が分からない。

「おまえは、どこからどこまで覚えている?」

 カミルは、自分の記憶を辿った。とにかく、ここに来たことは全く覚えていない。その前の記憶は、レイナスと旅をしていた。色々な村に行き、魔物を倒した。だけど、思い出そうとしても、その辺りの記憶も鮮明ではない。

「俺は、レイナスと旅をしていて……。途中までの記憶しか……。どうしてここにいるのかも分からない」

「そうか」

 サラディンはため息をついて、言葉を続けた。

「おそらく、すべて聞いたらおまえには衝撃的すぎることばかりだ。知る前に、心の準備をしておいた方がいい」

 相変わらず、サラディンの物言いは抽象的で何が言いたいのかよく分からない。ふと、カミルは思った。そういえば、サラディンのことはちゃんと覚えている。

「俺、もしかして記憶なくしてた?」

「ちょっと違うが、そのようなものだ」

 カミルはレイナスを見た。なぜこんな事になってしまったのだろう? レイナスの顔色は青白く、額に汗がにじんでいる。

 カミルは部屋を出て居間の奥の炊事場へ行くと、水瓶から柄杓で桶に水を移し、ふきんをその桶に入れて濡らした。カミルは辺りを見渡した。知らない場所のはずなのに、自分はここを良く知っているような、妙な感じがする。カミルは、桶を持って部屋に戻ると、ふきんを絞って、汗がにじむレイナスの顔を拭いた。

「サラディン、全部話せよ。訳が分からない」

「分かった。さっきも言ったが、かなりショックを受けるだろうから覚悟しておけ」

 カミルがうなずくと、サラディンが語りだした。

「まず、状況の説明は省くが、おまえは一度死んでいる」

「え?」

 カミルは、あまりにも予想外の話に驚きを通り越して頭が真っ白になった。自分は死んだ? その時のことを思い出そうとしても、全く思い出せない。

「レイナス様はお前を生き返らせるために、おまえに不老不死の秘術を使う道を選んだ。レイナス様自身が使うことができなかったから、私がお前に秘術をかけた」

 自分に不老不死の秘術を使った? カミルは混乱した。ということは、自分は今、不老不死の体になっているということだろうか。サラディンが続けた。

「不老不死の秘術は、他人に掛けると、その者が術者のしもべになってしまう。おまえは、術者である私のしもべになった」

「え!」

 自分がサラディンのしもべになった? 本当なら、随分屈辱的な話だ。

「レイナス様は、ご自身も不老不死の秘術を使われ、力を手に入れた。そして、おまえを元に戻そうと、術を行った。その術を行った結果が今の状況だ。おまえは元に戻り、レイナス様が倒れた」

「そんな……」

 だとしたら、レイナスがこんな状態になってしまったのは自分のせいだとカミルは思った。カミルはレイナスの手を握った。

「ごめん、レイ……」

 カミルはサラディンを見上げた。

「レイは、目を覚ますよな?」

「それは、分からない。今まで誰もやったことのない術を使ったのだから」

「そんな……」

 このままレイナスが目を覚まさなかったらどうすれば良いのか、カミルは途方に暮れた。

 カミルはレイナスを見守り続けたが、結局その日、レイナスが目を覚ますことはなかった。

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