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1話 転生、そして決意

将来の夢、というものがある。


子供の頃、プロ野球選手やら警察官、医者などと思っていたが、そんなことを忘れて中学、高校と年を重ねるにつれて熱が冷めたように将来の夢を持たなくなる、なんてことはよくある話だろう。


そして、何となく大学に入り、就職活動では、まあここならやれそう、とかそんな理由でサラリーマンになったりする。


だが、中には自分が小さな頃から持っていた夢を追いかけ続ける者もいる。


それが叶うのか、叶わないのかは人それぞれではある。だが、その人生はきっと輝いていただろう。


そう、だが輝けたかどうかを決めるのは他者ではなく自身である。


人からは、頑張ったね、凄かったよ、とか言われて事実その通りだったとしても、自身が納得出来なければそれまでなのだ。


さらに自分の思い描く理想や、必要な環境というものもある。


良い教師になりたくても、勉強が出来るだけじゃ理想には届かないだろう。


凄い建築家になりたくても、アイディアが浮かばないなら資格があってもどうしようもないだろう。


同じように、凄いスポーツ選手になりたくても、体が病弱では叶えるのは物凄く困難だろう。


1人の少年がいた。


その少年は野球が大好きだった。


幼い頃、甲子園の決勝を観に行った時の感動が忘れられなかった。


プロになりたいわけではなかったが、甲子園という舞台に憧れたのだ、その少年は。


だが、現実はそう甘く行かなかった。


その少年の体は病弱で、何度も病気で入院していた。


中学の時まで野球チームに所属してはいたが、練習はろくに出れず、体も弱かったため、ついぞ1度も試合に出れなかった。


その少年は思った。


何故、こんなにも自分の体は思うようにならないのか、と。


何故、一つの願いすらも叶えられないのか、と。


俺はただ、野球がしたかっただけなのに、どうして、と。


そして高校2年生の頃。彼は自殺した。


自分の夢が、唯一の願いも叶えられない人生なら、いらない、と。




「ああ、悲しいな。この人生は。」


虚無の空間に、男とも女とも言えない中性的な声が響く。


「せめて、君の唯一の願い、叶えてあげよう。」


その声は誰にも聞かれることはなく、ただ消え去るのみであった。






















頭が痛い。


あぁ、そうだ、俺はビルの屋上から......


あれ、なんだろう、俺、生きてる、のか?


意識が、あれ、なんだろう、えっと、俺は誰だ?


「かず.........和宏.........和宏!!」


混乱した意識の中、1人の女性の声がした。


「......ん、んん...............」


俺は目を覚ますと、少しの情報が頭に流れてきた。


この目の前で人の名前を叫んでいた女性は、どうやら自分のお母さん、らしい。


そして、その和宏、という名はどうやら俺の名、らしい。


何が何やら分からなかったが、ようやく整理がついてきた。


俺は死んで、どうやら転生というものをしたらしいこと。


信じられないが、事実俺は別の人の体を自分の意識で動かせる。


そして、自分の経歴についても少しわかった。


俺の名前は倉敷和宏。それなりの会社の社長である俺の今の父、和人の息子で、母はその会社の秘書だった人らしい。


俺の前世、その高校2年までの記憶は鮮明に思い出せた。そして、この和宏の記憶もそれなりに思い出せる。


だが、人格は完全に乗っ取ってしまったらしい。まあそれは、仕方が無い。


とにかく自分の状況はわかった。


「良かった......!お前が意識不明の重体だと聞いた時は、この世の終わりだとさえ思ったぞ。」


父、和人はそう言って目に涙を浮かべながら俺の頭を撫でる。


「母さん、父さん......心配かけてごめん。」


俺はかつての「俺」が使っていた両親の呼び方で二人に話しかけ、謝った。


その謝罪に、自分があなたたちの息子の意識を乗っ取ってしまった謝罪も乗せて。


「いや、いいんだ。だが、次からは気をつけてくれ。そうしないと母さんが悲しむだろ。」


母さんは黙って俺の手を握ってくる。その手の温かさは、かつて病弱だった俺を心配してくれていた前の両親の温もりに近しいなにかを感じた。


「分かったよ、父さん。もう心配はさせないよ。」


そう俺は返答した。ここは入院していた病院の病室とよく似ている。窓から見える景色は確実に違うものだったが。


俺は、この先和宏として生きていくことになるだろう。


知識から、自分の年齢は8歳であると分かる。


まだ、若い。さらにこの体は病弱ではない。


この体なら、俺の夢も叶えられるかもしれない。


どうせなら、かつての夢を、願いを、叶えたい。


この子には、なりたい職業や、夢もなかった。


ならせめて、有意義な人生にしたい。


そう決めて、第二の人生を歩む決意をしたのであった。

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