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第六十五話 ダンジョンin我が家 その三

お待たせしました、最新話です。



ゾンビの一幕から少し経って、俺たちは恐ろしいほどに何も起こらない場所を延々と歩き続けている。今までは石造りの洞窟っぽいところだったのに対し今度はきれいに整えられていて屋敷の廊下を歩いているのと同じような感じがする。ところどころに石像がある。ていうか、この石像あれだ。クッ〇だわ。それでここはク〇パ城だわ。


「これ作ったやつ絶対日本知ってるだろ……」


俺がぼそりと呟くと前を歩いている父さんが背筋をビクッと震わせる。確かに、この通路は寒いから寒気がするのもしょうがないだろう。

と、いきなり父さんが足を止めた。


「え?何?」


「なあ、これ…」


そういう父さんの目線の先にあったのは二つの緑色の土管。此処まで再現するといっそすがすがしいな。


「どっちか選べってことかな?」


「じゃあ、俺こっち。」


父さんは俺の意見を聞かずグロッケを抱えて左の土管に飛び込んだ。ドゥンドゥンドゥンとあの独特の効果音が鳴って左の土管は消え去った。


「え?」


「ニアはこれ結構ヤバいと思うの」


俺は知っている。『左は罠が多いぜ。へっへっへっ』的な奴を。父さんはかなり冒険者だな。

とはいえ、俺たちはこれで右側に入るしかない。


「よし、行くか。」


俺はニアを抱きかかえると土管にダイブした。


「別に抱きかかえなくてもいいからぁ!!」


ニアのその悲痛な叫びをあとに残しながら効果音が響いたのだった。




「同じ轡は踏まないのが俺!とうっ!!」


俺は凄い速さで土管から放り出されたがきれいに地面に着地する。ニアを抱えたままでも美しく決まった着地に脳内の観客たちが一斉に拍手を俺に送る。


「ありがとう!!」


「ニアはこんな変態に抱かれていたくないの…」


俺が脳内歓声にこたえていると鳩尾にニアの拳が入り悶える羽目になる。

すこしその場で転がり、苦しんでから状況把握のために周りを見渡すと右側は壁。左側はガラスになっていた。そしてその先に見えるのはグロッケを抱えている父さん。


「え?これ、向こうからも見えるの?」


「ニアはそう思わないの。多分こっちからだけしか向こうを確認できないのよ」


そういってニアはガラスに触れる。これはアレだな。


「左側の罠が多いって噂は本当だったのか。」


「ニアもそれ、思うのよ」


と、目線の先に映る父さんが移動し始めたので俺たちもそれにならって移動し始める。するといきなり父さんは足首までくらいの深さの落とし穴にはまってこけた。


「えー、何してんの……」


「ニアはみっともないと思うの」


悶絶している。これは多分だがねん挫したな。しかも地味な奴だし誰も見てくれてないから面白みに欠ける。父さんは回復魔法使えないし。


「あ、立った。進むみたいだな。」


父さんは何とか涙目で先に進むことを選んだようだ。左足を引きずりながらゆっくり移動する。腕の中のグロッケは父さんの顔を意味なく殴っている。いや、もっとしっかりしろという意味なのだろうか。


と、今度は道が途切れている場所に出くわした。その20m先位にまた道はあるのだがその間の部分が溝のようになっていてさらに針が敷き詰められている。もしジャンプで越えられなければ確実に大ダメージだろう。

まあ、これくらいなら父さんは余裕…じゃないな。どう見ても無理ゲーだった。

天井が低い。父さんの身長が180cmちょいだから多分2mくらいしかない。ちなみに『宙歩』は上に飛ぶための技なので空中を歩くことはできない。


「あ、何かするみたいなの」


ニアが指をさすので見ると、父さんがグロッケをブン投げたところだった。そのままブン投げられたグロッケはきれいに20m先の地面に着地し、事なきを得た。さすが、身体能力は神がかったものがある。


「で、自分はどうするのか?」


なんと父さんは普通では絶対にありえない突破方法でそれを切り抜けようとした。

なんとその方法は針の上を歩くこと。超人的バランス感覚のある父さんだからこそできる技だ。そして父さんはゆっくりと一歩目を針の上に踏み出す。


ざっくりとその針は父さんの足を貫通した。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


「うおお!?なんだ?」


「ニアは多分お父さんの悲鳴だと思うの」


反対側まで聞こえるとは……あの針、恐ろしや。しかも刺さったのは左足。奇しくもねん挫と同じ方の足にダメージを負うとは……


父さんは痛みで飛び上がり天井で頭を激しく打ちながらも腰に差していた刀を抜刀し真横に一閃、瞬間、目の前に無数にあった針が消え去っていた。


「やっぱりスペックは本物か。」


「ニアも感心したの」


俺とニアは興味深そうにそれを見ながらそれぞれの感想をこぼしたのだった。


それからは特にこれと言った障害もなく、グロッケを背中に乗せ四つん這いで……いや、正確にいうなれば匍匐前進のように地面にはいつくばって何とか出口であろう土管の前にたどり着いた。


父さんもその中に入ったので俺たちも中に入る。

ドゥドゥドゥという効果音の後目の前に広がるのは大きな部屋。横にはすでに虫の息の父さんとその背中に乗ってジャンプし続けるグロッケが。

ジャンプで着地する度に父さんの体が跳ね上がり、着々とダメージを蓄積しているのを見て、流石にまずいと感じたので俺はグロッケを抱え上げて父さんに回復魔法を施した。


「すまん、助かった。お前らはうまくやれたみたいだな…」


「ああ、うん。」


俺は苦しむ父さんをただ見ているだけだったとは言えず目を逸らしながらそう答えた。

ニアも同じ気持ちなのか目を逸らしている。


さて、目の前の大部屋…その真ん中には一つの立て札が。


「何々…『ここまで来た不運な猛者よ、ここが最後の試練だ。抗え』だと。」


父さんが読み上げるとその奥の壁がいきなりゴゴゴゴ……と音を立てながら上へと上がっていき、そこから現れたのは長い長い階段だった。

ここまで俺たちはかなりの距離を落ちてきている。これをすべて階段で上がれという意味での試練だとしたらこのダンジョンを作った奴は相当に性格が悪い。


「ニアはちょっと無理だと思う…」


ニアはそう言ってから俺の背中によじ登ってきた。


「クリンゲルはニアを抱っこしたいのよね?ならここをこのまま上がるのよ」


「お前、都合よすぎるぞ。」


俺は呆れながらきちんとニアを背負うと階段に向かって歩き始める。

父さんもどこからか取り出した紐でグロッケを自分の背中に固定すると階段へと向かい始めた。

改めて真下から見上げると階段の数は計り知れない。先の方に本当にぽつんと光が見えるので外につながっているのは確かなようだ。


「さて、上りますか。」


「よし、気合入れろよ」


俺と父さんは二人で気合を入れなおしその一歩を踏み出す。瞬間、


カチッ!!


「「え?」」


とたん足元がぱかっと開き、そのまま落下する俺たち。滑り台のようなものに乗っかりどんどん下降して行ってついた先は真っ暗闇。

『ライト』ですぐさまあたりを照らすが、何もない場所に放り出されてしまったようだ。


「またか!!」


「いい加減にしろ!!」


そして『ライト』に込める魔力を増やし、辺りを一気に照らすと…


「え?また階段……」


「さっきの場所まで登る分も増えたのか……」


「ニアはこれいじめだと思うの」


「お兄ちゃん、お父さん頑張って」


背中組のつぶやきすらもうすでにあきらめムードだ。俺は魔法が使えるかどうか検証するために氷の粒を生み出す。


「お、使えるのか。じゃあ……『フライ』」


俺が魔法を行使した瞬間俺の体がふわりと浮き上がる。


「お前!?それせこいぞ!!」


「ハァーッハッハッ!!上った者勝ちだぜ!!」


俺は父さんにそう吐き捨てると一気に階段を上っていく。いや、正確にいえば階段は上ってないのだが。


「すごい!もうさっきの場所まで来たの!!」


後ろでニアも歓声をあげている。俺はそのまま上り続け、ついに外の景色が……!!


「へ?」


「ん?」


急に魔法の効果が途切れ、降下する。だが、出口は目の前。残りこれくらいなら歩いて上れる。


「しょうがない、歩くか。」


「ニアはここまで来たら十分だと思うの」


ニアも背中から降りて歩こうとした瞬間、足元の階段が全てバタンッと音を立てて平らになり、今まで階段だったそれは大きな滑り台へと早変わり。


「うおぉぉぉ!!!」


俺は片手でニアを掴んで靴裏に氷の棘を作って斜面に埋め込むことで滑り落ちるのをなんとか耐える。


「危ねぇ……だが、俺たちはここでは止まれない…!!」


「ニアもそう思う!!かっこいいぞ、クリンゲル!」


宙づり状態のニアはそう言って俺の背中にくっついてきた。その時に反動をつけたせいで肘から変な音がした。…バキッ?折れてんじゃね?


「うぐっ!?」


すぐに激痛が襲ってくる。俺は回復魔法をかけてすぐに治したが、正面の出口から、目を離した隙にそこから少量だが液体が流れ始めた。


「なんだこれ?水か?」


俺が無色のその液体を水と断定し、その先へと足を進めようとしたとき、歩くための軸足だった右足がなぜか滑ってずっこける。


「え!?なんで!?」


俺はすぐに氷のスパイクで止まろうとするがなんとその水はローション。スパイクの針が刺さる前に俺の体が猛スピードで落ちていく。


「うああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「きゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


二人の悲痛な叫びがダンジョンに響き渡った。





お読みくださりありがとうございます。

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