第一話 最強の母
エリート養成学校への入学が決まった僕は父さんの実践訓練を受けることになった。
父さんの実力は世界でもトップクラス……らしいのでどんなものになるのか心配でならない。
「さて、じゃあクリンゲル、とりあえず木剣でかかってこい!」
父さんは肩に木剣を担いだまま僕にそう言ってきた。
これ、僕の身長にサイズ合ってないんじゃないか?
僕が木剣を振りにくそうに感じていることに気付いたのか、父さんは短剣サイズの木剣を僕に差し出した。
「これなら使えるだろ。」
「う、うん。」
僕は目の前にいる父さんに向け、木剣を構える。
今までろくに武器を使ったこともないが……魔法禁止とは言われてないし。
「喰らえ!」
僕は父さんの足元の土を爆風で巻き上げるとそのまま突進する。
目潰しをされては流石の父さんでも反応が遅くなるだろう……
「目潰しか。いい作戦だが、このやり方だと自分も相手の位置を見失う。しっかり相手の位置を把握できるすべを持ってからやるんだな。」
父さんの声が砂塵の中から聞こえる。
その砂塵を木剣の一振りで薙ぎ払った父さんは突進している俺の足元に木剣を叩きつける。
舞い上がる砂が僕の目の中に入る。
「うぐっ!?」
「こうすれば自分は相手を見たまま目潰しができる。」
「な、なるほど……」
水を魔法で生み出して目を洗う。
世界トップクラスの実力……侮れない。
「なら、魔法で……!」
「ほう。」
僕が連続で炎の球を生み出し父さんに叩き付けていく。父さんはそれを軽いステップで次々とよけていく。
「なるほど、物量戦か。間違ってはないがいささか少なすぎるな。これはモーントに直してもらえ。魔法は分からん。」
最後の炎弾を木剣で弾くと、父さんは木剣を肩に担ぎなおす。
強すぎだろ、父さん……
「そろそろ真面目に剣術を教えてやるよ。」
そういうと父さんは深く腰を落とし木剣を構える。
そのまま僕に向けて真横に一閃。僕は本能的に危機を感じ、その場にしゃがみ込む。
僕の上を通り過ぎて行った衝撃波が空を裂き、はるか後方にあった木にぶつかる。瞬間、その木は木こりが斧で切ったように真っ二つに両断された。
「……」
僕は唖然としてその木を見つめる。
「どうだ? これが『真空波』だ。」
「に、人間技じゃない。」
僕はこれからの自分があの木のようにならないかどうか、心配でならなかった。
☆
「さて、それじゃあこれから魔法の実践訓練を行うわよぉ。」
間の抜けた母さんの声で始まる訓練。それが父さんのものよりはるかに厳しいものだったとは思いもしなかった。
「まず、魔法というものの概念を説明するわぁ……魔法はつまるところ自然じゃない『力』なのよ。」
言いながら母さんは右手に小さな炎を生み出す。
「普通の人間にはこんなことできなわよね?」
いくつも同じサイズの炎を生み出してジャグリングを始める母さん。
それは普通の魔法使いにもできないと思うけど……
「もちろん自然に起こりえないものを具現化させるわけだからぁ、対価も必要になるわね。」
母さんはそのままグッとこぶしを握る。
すると、今まで空中にあった炎は跡形もなく消失した。
「それが魔力よ。クリンゲルちゃんのものを見る限り、その魔力に関しては私を超えるものを持っているのかもしれないけれどぉ。」
母さんはこれまでにないほど冷たい声色と視線で僕に告げた。
「宝の持ち腐れって大嫌いなの。」
多分、これ僕死ぬんじゃないかな。