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第九十七話 混沌の排球

先に謝っておきます。

いろいろごめんなさい。

 


「凪沙、次はお前のサーブだ! 期待してるぜ!」


「任せてください!」


 俺からボールを受け取った凪沙がコート端へと歩いていく。

 正直凪沙に関しては魔法サポートはいらないと思っている。だって、日本出身だし。

 それに柔道も段持ちらしいし、運動神経は良いはずだ。


「行きますよぉ……よっと!」


 凪沙の放ったサーブはドライブ回転を維持しながらネットすれすれを通り相手コートへと迫る。


「させないのよ!」


 ニアが飛び込みながらレシーブをしてそれをタマモがつなぐ。

 そしてやはりスパイクはヘルが打つようだ。


「今度こそ! 喰らえ!」


「させるか! 『ウインドダンス』!」


 ヘルの放ったスパイクは俺の生み出した乱気流によって空高く舞い上がる。

 それを俺は難なくカームへつなぐ。


「ナギサ!」


「任されましたぁ! よいしょっ!」


 間の抜けるような掛け声と同時に放たれた一撃は本来のビーチバレーでは出るはずのない威力の一撃。

 こいつ重力魔法かけやがったな。


「さっきから魔法使ってばっかりでずるいのよ!」


 そうは言いながらも軽々とその一撃を上げて見せるニア。

 あいつもあいつで身体強化を使い始めたな。


「タマモ!」


 ヘルのトスにタマモは大きく飛び上がり、結果をもって答える。


「『蒼狐炎』」


 狐火の温度を上げ、青色になったそれで球を包み込む。純粋に殺人技である。


「ちっ、こっちが魔法を使った以上許可するしかない! けど、これはあげらんねぇだろ!?」


「諦めたらそこで試合終了よ!」


 カームは炎を恐れず竜巻をその腕に纏わせ炎をかき消しながらレシーブをする。

 綺麗に真上に上がったそれをなんといつの間にか復活していたカッツェちゃんがトスを上げ、つなぐ。


「クリンゲル君!」


「任せろ! ナイストスだ!」


 俺は魔力を右腕に集めながら跳躍する。


「これが超次元バレーボールだ! ゴッドスパイクゥ!」


 俺の魔力が手のひらとして具現化し、あげられたトスを正確に撃ち放つ。

 風を切り裂きながらその一撃はいまだ昏睡状態にあるゲヴィッターのもとへ。

 だが、


「甘い!」


 ゲヴィッターはこれを待っていたといわんばかりに飛び起き、レシーブに移る。


「ヘル! 行くぞ!」


「来い!」


 稲妻を纏わせたレシーブはツーアタックのための布石へと変わる。

 一直線にヘルの手元へと飛んだ弾は即座にヘルの一撃に変わる。


「稲妻一号!」


 カタカナにしたら完全パクリのその必殺技は一直線に俺たちのコートへ突き刺さる。

 砂浜を抉るように埋もれるボールは激しく回転していた。


「マジかよ……」


 あいつらパクリなのに堂々とドヤってやがる。

 いや、俺もパクッてるけどね。


「さあ、俺のサーブだ!」


 ゲヴィッターがサーブを打つ。意外にもそれは普通の物で俺はそれを難なく上げると、凪沙にトスを要求する。


「お師匠さ……っ!?」


 凪沙は何かに気付いたような顔をしていきなりフェイントに切り替えた。

 ふわっと相手コートに落とされたそれはニアが飛び込んで拾い上げる。


「おい、凪沙! 今の何があったんだ?」


「今お師匠様が打ってたら多分ブロックされてましたよ。ヘルさんがニヤニヤしてましたし。」


「おお、なんかよくわかんないけど助かった。」


 知らない間に凪沙に助けられていたということか。


「よし、ダブルブースト!」


「お前らさっきからパクりすぎだろ!」


 相手コートから聞こえる技名にツッコミを入れてしまう。


「パクってない! オマージュだ!」


「まず競技が違うだろ!」


 一生懸命パクリを否定するがどう見ても分かる人には分かるからなそれ。


「じゃあ俺もやってやる! お前ら、勝って泣こうぜっ!」


「お前が一番パクってんじゃねえか!」


 バレてしまった。


「行くわよ、クリンゲル! シュートチェインよ!」


「もうシュートって言っちゃったよ!」


「稲妻ブレイク!」


 またパクってしまった……


「もうイナズマ〇レブンを禁止されたらこれしかない! バニシングレシーブ!」


「また競技が違うものを……」


 そのレシーブをニアがトスを上げてつなぐ。


龍王の眼(ドラゴニックアイ)


 お前もパクり始めたのか!


「止めだ!流星のスパイク(メテオバター)!」


「本家のジャムはそういう意味のジャムじゃないからね!?」


 目から閃光が迸っているように見える。

 ていうかなんで違う競技の作品から全部引っ張ってくるんだ。『ハイ〇ュー!』とかあるだろうに。


「あの作品は超かっこいいけど必殺技名がないからな。」


 砂に突き刺さったメテオジャ……じゃなかった。メテオバターが煙を上げている。

 もうボール限界値越えてるだろ。深いこと考えなかったけどボールもう限界突破してんじゃねぇの?


「あ、お師匠様大変です!」


「ど、どうした?」


「ボールがついにサード〇ンパクトを迎えた世界のように崩壊してしまっています!」


「逆にどうなってんのそれ!?」


 今日みんなほかの作品引っ張りすぎだろ!


「じゃあ、俺たちの勝ちだな。イェーイェー勝って――」


「いい加減怒られるぞ!?」


 ネットはちゃんと片付けました。



 ☆



「いやぁ、楽しかったなぁ……」


「でもこれ絶対怒られるからね。」


 パクリのオンパレードだったからなぁ……

 宿の湯船につかりながら疲れたように俺はため息をつく。


「そんなに気をもむなって、旅行だし許されるよ。多分。」


「何の権限を持ってんだよお前は。」


 ここの宿は温泉を引いているらしくたくさんの効能があるらしい。

 疲れた体に染み渡る。


「あー、今頃女子は何してるんだろうなぁ……」


 ゲヴィッターがぼそりとこぼす。

 はっ! そうか、隣には今女子が入浴しているのか。


「これはやるべきことは一つだろ。」


「ああ。青春イベントのレパートリーの中では外せないアレだな。」


「だが、ここの宿のマップを見る限りこの男風呂と女風呂をつなぐ通路はもちろん存在せず、柵も越えられるような作りではないぞ?」


 ヘルは旅行のしおりを広げてそう言った。

 なぜ風呂にそんなもの持ってきているのかということはあえて黙っておこう。


「あ、クリンゲル、お前の魔法なら空飛べるんじゃないか?」


「馬鹿野郎、俺らが空飛んだらもちろん俺らのも向こうにみられるだろうが。誰得だよそれ。」


「「うっ……」」


 俺の一言で二人が同時に湯船に沈み始める。


「おい、どうした!?」


「俺たちのトラウマをいじるな……」


「俺たちはもうすでに一度見られているんだッ!」


 そう言えばそうだった。


「お前らの息子が残念なのはわかるがそんなことより作戦を考えてくれよ。」


「誰が残念だチビ。」


「真剣に殺すぞ。」


「ごめんなさい。」


 俺の一言で危うく仲間割れを起こすところだった。本気で死ぬ一歩手前まで行きそうな殺気だった……


「じゃあここは正面突破……とかどうだ?」


「はぁ? 何が言いたいんだよ。」


「いわゆる女装だよ。クリンゲルなら中性的な顔立ちだしいけるんじゃねえか?」


「そうだな! ニアちゃんと同じくらいの年齢なら通りそうだ。」


 この二人、ついに頭いかれたのか。


「あとで感覚共有しろよ。」


「止めろ。その作戦はやめろ。いよいよ本気で怒られるぞ。」


 こいつらは頭のねじ緩めすぎてんじゃないのか……


「じゃあ、正々堂々登るか。この柵。」


「魔法で氷の足場を生み出そう。それくらいならばれないだろう。」


 俺は足場を階段状に作り始める。


「お前ら、決して声は上げるなよ。あげた瞬間待ち受けているのは物理的な死と社会的な死のダブルコンボだ。」


「やらない方がいい気がしてきたよ!?」


「うるせえ! 男の(ロマン)だろうが!」


「イエッサー!」


 もうすでに俺たちは正気を失っていたのかもしれない。

 こんなふうに馬鹿な会話を悟られないようにしながら氷の階段を上り切った先で息をひそめ、目を凝らす。

 徐々に視界を覆っていた湯気が晴れ、その天国を目の当たりに――

 しようとした次の瞬間、俺の眼に映ってきたのは桶だった。


「ぐばらっ!?」


「うごっ!?」


「ひでぶっ!?」


 俺たち三人は同時に桶によって狙撃された。

 そして待ち受けているのは固い地面。

 骨でも折れたかのような三者の絶叫が響き渡る。


「ぬおおおおお!!!」


「痛い痛い痛い痛い……!!」


「お、桶になんか書いてあるぞ……?」


 ゲヴィッターがそれを読みあげる。


「……『晒すぞ』。」


 俺たちの冒険はここで終わるのかもしれない。



お読みくださりありがとうございます。

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