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第九十六話 黒い猫幼女

お待たせしました、最新話です。

ビーチバレー終わらせる予定だったのに終わらなかった……



「ビーチバレー、ですか?」


「ああ。ルールは簡単、このボールを地面に着かないように相手のコートに弾くだけだ。」


 カッツェちゃんの疑問に俺は簡単なルールを説明することで返す。


「弾く?」


 今度はカームが質問をしてくる。確かに言葉で言われても分かりづらい説明だったかもしれない。


「ああ。トスって言うんだけどな。こうやって手を組んで――」


 俺はトスをして見せた。弾くというより打つ感覚に近いような気はするが。

 ボールは俺の腕に軽く打ち上げるだけで風に流され少し先の地面へ向かって落下する。


「おっとと、」


 俺はそれを何とかキャッチすると皆の方へ向き直った。


「やってみないか?」


「確かに面白そうじゃし、妾はやるぞ!」


「もちろん、これならクリンゲルのチートもないだろうしな。」


 皆乗り気になってくれたようだ。

 だが、みんなはこの時気づいていない。俺は一切『魔法禁止』と言っていないことに。



 ☆



「よし、これがコートだ。この四角の中にボールを入れれば得点だから。」


「このネットは何?」


 皆は真ん中に張ってあるネットを手で引っ張りながら遊んでいる。


「それを越えるようにボールを打つんだ。」


「なるほどな。難しそうだな。」


「俺もやったことはないからわからないが、楽しいぜ。多分。」


 ということで第一回ビーチバレー大会が始まった。第二回はないと思う。

 チーム分けではいろいろなごたごたがあったが(主に俺と組みたがる女子が多すぎたというだけなのだが)何とかまとまってこのようなチームになった。


「えっと、第一チーム 俺、カッツェちゃん、カーム、凪沙。」


「やっぱ、このチーム分け不服だわ。」


「うるせぇバナナ吹かすぞ。」


「対して第二チーム、ヘル、ゲヴィッター、タマモ、ニア。四人にしてやったんだから感謝しろ。」


「はんっ、本来ならクリンゲル対その他でいいくらいだがな!」


 こいつ調子乗ってんな。

 反対に、なぜか普段よりも静かなゲヴィッターの様子を見てみると、


「……カームが相手コート。つまりあれが揺れる……勝った。これを勝ちと言わずしてなんというのだろうか。」


 ぼそぼそとこんなことを呟いていた。

 犯罪者予備軍め、死ね。一応俺の婚約者だぞ。


「さあクリンゲル覚悟するのよ。かつての特訓を思い出させてやるのよ。」


「真剣にトラウマだからそういうのは勘弁してくれ。まあ黙って負ける俺ではないんだがな。」


 魔法を使う。これだけで俺は今のニアには勝てるはず。

 神龍王時代のニアには結局一度も勝てなかったが……

 いつか、越えなくてはならないかもしれない。その予行演習だ。


「運よくクリンゲルと同じチームになれて嬉しかったわ。ね、カッツェ?」


「はい! 運よく、一緒になれましたね!」


「二人とも中々強かじゃの。」


「あんな非道な手……許されませんよ! 絶対勝ちますから!」


 この二人何したんだ。


「ヤダなぁ、ちょっと『クリンゲル君の借金返済のために尽くせるか?』って聞いただけじゃないですか。私はお店の料理担当ですし、カームちゃんはお姫様だし、あれ? そこの黒髪狐さんたちは何ができるんでしたっけ?」


「黒い、黒いよカッツェちゃん!」


「それだと凪沙はどうなるのよ!」


 ニアが反論する。確かに。このブラックカッツェなら何か黒い理由があるはず……


「そんな、深い思惑なんてないですって。ルールを熟知する経験者は引き込んで損はないですよね?」


 どうせそんなことだろうと思いました。

 カームはなんも考えてなさそうな顔して試合開始を今か今かと待ちわびているようだ。


「ま、まあとりあえずやってみない?」


「そうですね。5点先取くらいでいいですかね?」


「よし、クリンゲル! 行くぞ!」


 ヘルが気合を入れたようにボールを受け取り、サーブの構えを取る。

 そして打ち出されるボール。ボールは風の抵抗を受けてふらふらと俺の目の前に飛来する。


「よし、カッツェちゃん!」


 俺は軽くトスを上げてネット前に走り出す。

 カッツェちゃんがうまい具合に俺にトスを上げてくれれば……!


「きゃっ……!」


 カッツェちゃんは砂に足を取られてしまったのか転倒してしまいそうになる。

 それを近くにいたカームが支える。


「大丈夫? カッツェ。」


「う、うん。ありがとう、カームちゃん。」


「気を付けてね、楽しい旅行は皆で思い出を作りたいから。」


「カームちゃん……」


 えっと、なんだあれ? 凄い恋人感。カームイケメン。負けたわ。


「クリンゲル君、ごめんね。」


「いや、助けられなくてごめんね。」


 俺は頭を掻きながらそう答えた。カッツェちゃんが上目遣いで謝れば大抵のことは許されるだろう。


「さーて、次は妾のサーブなのじゃ!」


 張り切ったタマモは大きくボールを投げ上げると目に捉えることすら不可能なほどの速さでボールに自らの腕を叩きつける。

 その結果、ボールは弾丸のように射出され空を切りネットすれすれを通り抜け、俺の目の前へと流れる。


「くっ!?」


 何とか腕を振り上げてトスを上げる。奴め、手加減というものを知らないのか。

 はじいたボールは何とかカームのもとへ。

 カームは持ち前の運動神経を生かしてうまく軌道を整えカッツェちゃんにトスを上げる。


「カッツェ!」


「任せてくださいでぶぅぅ!?」


 ボールを見ながら走り出したカッツェちゃんはまたもや盛大に転倒した。今度はキャッチ役はいないため、顔面強打コースだ。

 ていうかこれは……


「待って、ねぇ、カーム。もしかしてカッツェちゃんは……」


「うん。運動神経ゴミみたいね。」


「うぐっ!」


 オーバーキルだといわんばかりに倒れたままびくつくカッツェちゃん。

 これは意外な事実が発覚したかもしれない。


「お、なんかよくわかんねーけどラッキーだったぜ! ニアちゃんやっちまいなぁ!」


 ヘルは調子に乗って煽り始めた。こいつ、言わせておけば……。


「ニアに指図すんじゃないのよ、クリンゲルのおまけ。」


「おまけ!? 俺おまけ!?」


 ちょっとみんな今回口悪いよ!


「まあ、いいから来いって。」


 依然カッツェちゃんは倒れたままだが命に別状はないと思うので試合続行。


「ニアはそう甘くはないのよ。」


 そう言いながらタマモと同じようにボールを高く上げたニアは自分も高く飛び上がった。


「蹴るのは反則だといわれてないのよ!」


 ボールが裂けるほどの勢いで放たれる魔球。

 強烈な横回転は野球で言うならスライダーのように鋭く曲がる。が、


「それは回転かけすぎだろ。」


 逆に回転が強すぎるせいで一周してヘルコートに落ちる魔球。

 本末転倒という奴だな。


「ミスったのよ……!」


「あれだけ調子に乗っといて……」


 ヘルにまで文句を言われ始めた。もうニアのメンタルはボロボロだろう。


「ふざけんじゃないのよ! そもそもニアがクリンゲルのチームにいれば……!」


 必殺の逆切れである。こうなると手を付けられないので無視しよう。


「さあ、カーム! お前の本気をぶつけてやれぇ!」


「わ、分かったわ!」


 カームは思い切りサーブを打つ。瞬間、揺れる二つの禁忌の果実。

 相手コートから一人の男が血飛沫と共に舞い散った。


「ゲヴィッター……お前は良い奴だったよ。最期に言い残すことはあるか?」


「あれは破壊の鉄球だ……」


 俺の問いかけにそう呟いてゲヴィッターは倒れた。鼻血は流しているが幸せそうな死に顔だ。


「え、なんで倒れちゃったの? 大丈夫?」


 カームは心配そうにするが問題ない。むしろ名誉なことだろうよ。

 俺も同じ様になりそうだったからあえて見なかった。

 同じチームでよかった。


「ただ、そこの破壊力は高くてもサーブの破壊力は小さいようだな!」


 ヘルは的確にタマモのもとへとレシーブを上げる。

 そこからさらに神がかり的なトス。

 既に走り出していたヘルの上空、そこに制止したかのようにボールが現れる。


「喰らええ!」


 そしてヘルが強烈な一撃をボールに叩き込もうとする――が、


「『ウインドダンス』」


 俺の呟く魔法名に合わせて空気が踊り、あげられたボールがぶれる。

 ヘルの大振りは空振りとなってしまう。

 そして、ボールは相手コートへと落ちる。


「さあ、同点だ。此処からだぜ、勝負は!」


 イカサマしてるけど。



お読みくださりありがとうございます。

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